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特集・連載

高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

未来計画プロジェクト
~農業の六次産業と「みらい」の可能性~(下)

本校は、東京都大田区、羽田国際空港の傍にあり、時代や社会の進展に即応し特色ある学校づくりを推進するために、平成6年度よりキャリア教育を主としたその時代に対応するコース制を導入し、教育活動を行っている。
各コースの活躍の場を活かすため、5年前に立ち上げた「農業プロジェクト」を継続・進化するにあたり、「多様な団体との交流」「課外活動を授業化するための環境づくり」「評価の可視化」の3点に絞った。
「多様な団体との交流」上でプロジェクトの2年目を迎えた平成27年度、さらなる進化を目指し、お米を加工して販売できないかというアイディアを募った。その中でお米を米粉にして、パンとして販売できないかというアイディアが飛び出した。しかし、パンを商品として販売する以上、生徒の手では限界がある。そこで交渉が始まった。東京23区で最も多い商店街数を誇る大田区で、学校の地元でもある日の出銀座商店街のパン屋「ブーランジェリーミモレット」にお願いしてみたところ、快く承諾して頂いた。さらに大田区は、給食で定番の「あげパン」発祥の地であり、「あげパン」と「米粉」のマッチングもひとつの新たなアイディアとしての課題となった。生徒がレシピを考案し、プレゼンテーションをさせてもらいながら共に商品開発に携わっていただいている。これが、日の出銀座商店街との連携事業の契機である。本校の活動に注目して頂いた大田区産業振興課や大田区商店街連合会、大田区産業振興協会などからのコンタクトも増え、平成27年10月より「おおた商い観光展」に毎年出展、さらにこの年、大田区が実施しているモデル商店街事業に参加するに至った。この事業で、本校生徒は、限られた時間と予算の中で、「商店街の活性化」と「自分たちが生産したお米を有効活用させるイベントを企画する」大役を頂き、商店街理事会にて何度もプレゼンテーションと意見交換をさせてもらい、平成28年2月「君と丼フェス」というイベントを成功させ、モデル商店街事業5団体の中で、特別賞を区から頂いた。当日は、大田区長をはじめ、各報道機関も取材に訪れ、生徒たちは、「自分たちのアイディアで社会を動かす」貴重な体験を積むことができた。生徒たちの素直さと斬新なアイディア、懸命に取り組む姿勢により現在、「日の出ハロウィンライスタウン」という連携授業に進化し継続的に実施している。
また、農林水産省が行う「農業女子プロジェクト」の新たな試みとして、「チーム はぐくみ」が誕生した。これは、農水省が、モデル校として全国の大学で4校、高等学校で1校を選出し、農業女子と行政、企業、そして教育機関が連携する事業である。
本校はその代表校に選出され、現在は東京農業大学と新たな交流を思案しているところである。さらに、農業女子プロジェクト参画企業とのコラボレーション企画では、農業を中心として様々なジャンルの企業が連動し、農業を推進している過程の中で、仕事の繋がりを体感させるような授業を共同で実施している。
最後に、我々の活動が徐々に認知されていく中で、大田区の中小企業が立ち上げた「おおた農水研究会」とも連携し、アフリカを中心とする開発途上国に支援するために開発された「水耕栽培キッド」を本校へ無償レンタルして頂くなど、その輪は着実に広がっている。
第2に、「課外活動を授業化するための環境づくり」について紹介したい。そもそも、1つの学年行事として始まったこの「農業プロジェクト」は、多くの方々の尽力により「総合的な学習の時間」の中で、年間の授業プログラムへと進化していった。授業プログラムを作成するにあたっては、教員のチームが必要になる。そこで、「キャリア教育推進室」を結成、5名の教員(社会科・家庭科・福祉科・体育科)で室が構成された。全く新しい試みのため、まずは教員のスキルアップも含め、「キャリア教育コーディネーター」の養成講座を本校で実施して頂いた。ご協力下さった、キャリア教育コ―ディネーターネットワーク協議会には大変感謝している。
基礎講座では、これまでの日本におけるキャリア教育の過程や、実際に行われている事例など、授業のヒントとなる内容が盛り込まれ、大変参考になった。そして、実践講座では、本校独自のキャリア教育授業プログラムを事例として講座を行って頂き、ついに「未来計画プロジェクト(通称:みらい)」という授業名の下、2年間にわたる年間授業計画が完成、現在高校1年生と2年生が受講している。
第3に、「評価の可視化」である。「総合的な学習の時間」や「キャリア教育」をより客観的及び発展的にするためには、「評価の可視化」が不可欠である。そこで導入したのが、河合塾グループが提供している「PROG―H(プログ:Progress Report On Generic skills)」である。社会で求められている「汎用的な能力(ジェネリックスキル)」を測定するテストであり、現実的な場面を想定して作成されており、「実践的に問題を解決に導く力(リテラシー)」と「周囲の環境と良い関係を築く力(コンピテンシー)」を測定するものである。これは、大学生版PROGと共通尺度で測定することができ、高大接続した伸長把握が可能となる。本年度より導入したことにより、今後の生徒指導及び進路指導の一助となるとともに、高大連携の架け橋となればと模索中である。

 最後に、来る大学入試改革に向けて、大学はもちろん、それに対応すべく、各高等学校も試行錯誤の日々を送っている。本校としては、この「みらい」の授業で力と自信をつけた生徒たちが、未来に待ち受ける課題解決の力になると信じている。また、この活動が高大連携の可能性を飛躍的に拡大するとともに、社会に必要な能力の育成として、多くの方々の認知を得ることが大切であると考える。そのためにも、客観的な指標としての評価の可視化をさらに追及することが、キャリア教育の未来、果ては未来の日本の教育の在り方をも見据えたものとして、今後も様々な存在と連携しながら、推進していきたい。無限の可能性を秘めた子どもたちのために。