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高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

未来計画プロジェクト
~農業の六次産業と「みらい」の可能性~(上)

生徒たちが育つ社会環境の急激な変化に加え、産業・経済の構造的変化、雇用の多様化・流動化などは、生徒たち自らの将来の捉え方にも大きな変化をもたらしている。具体的には、人間関係がうまく築くことができない、自分で意思決定ができない、自己肯定感をもてない、将来に希望をもつことができない、といった生徒の増加などがこれまでも指摘されてきたところである。
とどまることなく変化する社会の中で、生徒たちが希望をもって、自立的に自分の未来を切り拓いて生きていくためには、変化を恐れず、変化に対応していく修正力とその態度を育てることが重要である。そのためには、学ぶ面白さや学びへの挑戦の意味を生徒たちに体得させることが大切である。生徒たちが、未知の知識や体験に関心を持ち、仲間と協力して学ぶことの楽しさを通し、未経験の体験に挑戦する勇気とその価値を見出すことで、生涯にわたって学び続ける意欲を維持する基盤をつくることができる。
本校では、時代や社会の進展に即応し特色ある学校づくりを推進するために、平成6年度より、キャリア教育を主としたその時代に対応したコース制を導入し、教育活動を行っている。
「都会のしかも普通科の女子高生がなぜ農業なのか」このような質問を様々な場面で多々受ける。平成25年度、時代や社会の変化に対応し、各コースの特色を修正しながら、本校独自のキャリア教育を進めていく中で、それぞれのコースが、独自色を打ち出し、様々な場面で活躍してきていた。そんな中、それぞれのコースの英知を結集し、新しいプロジェクトを起こすことはできないか。それが、「農業」であった。
「農業」に注目した理由は、「農業の六次産業化」である。「農業の六次産業化」を提唱した、東京大学名誉教授で農業経済学者である今村奈良臣氏によると、農業を含む第一次産業が食品加工である第二次産業、流通販売である第三次産業にも業務展開していく経営形態を表す造語であり、新しい農業への模索、第六次産業の創造を21世紀農業の花形産業にしようとする考えから生まれた。
本校で、第一次産業である「農業」を経験することにより、本校独自のキャリア学習過程の中で多く実施している第二次産業や第三次産業の学習を、各コースの共通テーマとして実体験できる機会が増えると考えた。さらに、創造力を加えることで、学習の幅が広がると同時に、生徒の多様な進路選択の一助となると考察した。つまり、第六次産業が、生徒のキャリア発達に大きなチャンスをもたらすことになるという結論になった。
もう一つの理由は、農林水産省経営局就農・女性課(以下、農水省と略称)との連携構築である。農水省では、農業大学校や農業系の高校には様々な取組を行ってきたが、それだけでは足りないという農業界の現状に際し、『職業としての農業』を広報させてもらえないかという依頼があった。また、「農業女子プロジェクト」なる事業を立ち上げ、様々なジャンルの異なる企業や教育機関でチームを結成し、農業に従事する女性を中心に、新しいビジネスモデルを構築する動きがあり、本校も、全国の高等学校では唯一、「チームはぐくみ」プロジェクトに参画することとなった。
さらに、農水省には、本校のプロジェクトを推進していくための実習場所の選定にも尽力してもらった。様々な自治体が手をあげてくれた中で、本校の教育内容を理解し、ゼロからプロジェクトのサポートをしてくれる自治体として、千葉県館山市が実習拠点となった。本校から車で1時間30分という立地、何より行政全体で受け入れてくれる体制が、現在でも続く要因である。
次に、1年間の流れについてである。5月の田植え体験を見据え、4月のロングホームルームの時間を使い、事前学習を行う。農水省の方に「日本の農業の現状」について、千葉県館山市の方に「実習場所の農業の特徴」について、さらに農業女子プロジェクトの一員の方に、「農業のやりがいや楽しさ」についての講演を受ける。5月に田植え体験をした後、その体験から本校独自のブランド名とロゴマークを発表させ、全校投票でその年度のブランド名とロゴマークが決定する。また、決定したものを、いかにブランディングするかを考えさせる。9月上旬に稲刈り体験、さらに米袋の選定から袋詰め作業などの工程を経験、9月下旬に開催される本校文化祭で実行するという流れである。その過程の中で、本校の幼児教育コースであれば、「食育」をテーマとした様々な学習内容をアプローチする。キャリアコースであれば、「商品開発」や「プロモーション戦略」など、高等学校普通科の教育課程では、なかなか踏み込めない内容に、生徒と教員が一丸となって立ち向かった。その功績から平成26年度に、「第8回キャリア教育優良教育委員会、学校及びPTA団体等文部科学大臣表彰」を受賞。さらに本校が全国の表彰校を代表して事例発表を経験させていただいた。この事例発表も、本来は管理職もしくは担当教員レヴェルが発表するのが慣例だが、文部科学省担当官に懇願し、生徒と教員が共に事例発表させていただいた。その最大の狙いは、生徒自身が大ホールの大観衆の前でプレゼンテーションを主体的に発表すること、そして本校のキャリア教育のアウトカムとして、いかに社会全体に学習した成果をアウトプットできるかである。
この事例発表は、このプロジェクトを継続・進化するにあたり、大きな分岐点ともなった。プレゼンテーションの最後に、今後の課題として、いくつか提案した。まずは、協同商品開発、販路開発である。本校の地元である東京都大田区へのアプローチを模索していることを伝えると、発表後に経済産業省の方からアドバイスを頂いた。大田区との連携に関しては、別の機会に紹介したいと思う。次に、このプロジェクトを継続的に行うための環境づくりである。「総合的学習の時間」を使い、通常授業の中で、一貫した学習計画を構築する。その為には、教員の更なるスキルアップが必要であった。そこで、プロジェクトチームを結成、「キャリア教育コーディネーター」の民間資格取得を糧に、研修が開始された。この内容に関しても別の機会に紹介したい。最後に、キャリア教育の位置づけである。多様な捉え方ができるからこそ、誰でも分かる本校独自のコンセプトの明確化である。我々の挑戦がいよいよ本格化することになった。(つづく)