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高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

具体化する高大接続改革
本校の現状と改革に向けての課題(下)
青森山田高等学校 教頭  木村郁子

青森山田高等学校 教頭 木村郁子

2021年入試からの推薦入試改め「学校推薦型選抜」・AO入試改め「総合型選抜」において、小論文・プレゼンテーション・口頭試問・教科科目に係るテストや資格検定試験の成績など、少なくても1つの活用が必須化されることになった。
各大学がアドミッションポリシーを明確にし、大学側から高校に対し、調査書に記入してほしい内容を要望できる形になってくる。従来のA4サイズ両面という紙面の制限がはずされ、箇条書き形式ではなくなり、生徒の学習成果に関して学力の3要素を多面的・総合的に評価するものが求められることになった。さらに生徒の学びの成果の可視化となるポートフォリオの活用で、客観的事実の評価と生徒の学びのプロセスを評価、つまりは「高校生のための学びの基礎診断」同様、三位一体の中の「大学入学者選抜」改革ならぬ「高等教育」の改革である。
入試の時期も本校生徒の多くが選択するであろうAO入試にあたる「総合型選抜」は11月以降に、推薦入試にあたる「学校推薦型選抜」は12月以降に繰り下げられた。これは早期合格による高校生の学力低下をくいとめるためであろうと思われ、さらに従来は入学予定者に対し大学側の主導で行っていた入学前指導も今後は高大連携で行うことで、当然のことながら高校の責任で「学力の保障」をすることがさらに明確になる。
これらに学校全体として対応していく時、調査書の形式的変化については全教員での共通理解が得やすい。しかし、何を重視してどのように調査書を作成することが生徒の学びの成長を伝えることになるのかなどといった深い理解についての議論が早急に必要であり、現在そのための取り組みが進められている。
前稿(上)で紹介したように、本校は3つの実業科を含む4学科6コースの高等学校であり、就職を選択する生徒も約20%近くを占めている。ポートフォリオによる生徒の学びの記録が彼らを含むすべての生徒に必要で、生徒が自分自身の気付きを自ら記録することで変容や成長につながることを全教員の共通理解のもと、年次進行で実施し三年間で確立させなければならない。現時点ではまだ紙ベースで始めたばかりだが、e-ポートフォリオへの移行は時間の問題と思われ、校内のWi-Fi環境の整備や個人情報の保護を含むデータ処理のシステム構築が急がれる。また、生徒が作成する際の時間の確保や、初期段階での助言指導の方法等々課題は多いが、実際にこれらが機能した時の生徒の成長に期待し1つずつ解決していかなければならない。
次に英語の外部評価について言及したいと思う。大学入試センターは3月26日、2021年度入試から始まる「大学入試共通テスト」の英語で活用する民間検定試験に、7団体8種類を認定したと発表した。しかもその年度の4月から12月までの2回の試験結果が大学入試に活用できるということだが、各大学の募集要項はいつ公表されるのか、現実問題として4月や5月の早い時期の得点を活用できるのか、また国公私立大学の「総合型選抜」や「学校推薦型選抜」の出願の時期となるであろう10月や11月の受検で間に合うのかと疑問になる。
今回認定されたTOEICや実用英語検定などの導入に関しては、生徒の様々な事情を考慮すると懸念材料は少なくない。特に本校のような地方の高校にとっては、この改革を推進してきたであろう中央都市の目線からはおそらく外れていたかもしれない「格差」的なものまで出てくることが必至と思われる。それは「地域格差」であり保護者の「収入格差」と言えるかもしれない。
TOEICを例に挙げると、仮に2018年度と同様の試験会場が設定された場合、4月から12月までの8回の試験は東京や神奈川、千葉などの首都圏では毎回実施されるのに対し、青森市ではわずか2回しか実施されない。また、検定料も約6,000円~25,000円程度と各検定間の差は大きく、2020年度の実施までに全ての運営団体が「一定の条件下で低減を検討中」とセンターに回答したというが、その差はどの程度まで縮むものなのか。はたして、「大学入学共通テスト」という名にふさわしい民間検定試験の実施が可能となるのかと疑問はぬぐえない。
また、先ごろ文部科学省から、各都道府県の教育委員会や私立学校主管部課を通じて各高等学校に、「大学入試英語成績提供システム」参加試験ニーズ調査依頼が届いた。
2020年に高校3年生になる現1年生が受験生になった時に、どの英語資格・検定試験を何月にどのくらいの生徒が受けるかを調査するものである。当該生徒への調査ではなく、「学校としての見込み・予測されるニーズを把握し、参加試験の実施団体に伝えていくことが不可欠」ということで、その結果をもとにより安価な受験料でより多くの地域で試験が実施されるように求めていくという。「現状がどうであるかに関わらず、希望する月に、在籍する学校がある地域(市区町村内)で試験が実施されると仮定」しての回答を求めている。今回認定されたすべての英語資格・検定試験が青森で希望する月に実施されるという仮定すら難しく感じるのは、全国四七都道府県の中の青森県に住む我々だけだろうか。
青森県教育委員会では、平成30年度の「施策の柱」の中の「青森県の将来を担うグローバル人材育成事業」の中で、「あおもり英語四技能向上プロジェクト」として県立高校1年生3,500名を対象としてCEFR対応英語四技能試験を実施すると発表した。このデータをもとに、今回の入試改革と新学習指導要領に対応した青森県独自の指導・評価モデルの作成に取りかかるという県としての対策に乗り出したところだ。
いずれにしても各大学がこの英語の外部評価をどの程度活用していくのかについては、時間を待たなくてはならないが、東大は3月の時点では民間の検定試験を合否判定に使わない意向を表明していた。しかし、その後4月末にはいったん活用の方向を示したものの、東大教養学部の英語教員らが「民間検定導入自体の妥当性を含め根本的に検討すべきだ」と学長に見直しの申し入れをしたと5月24日に報道された。東大の動きに関しては、東大受験者に与える影響だけにとどまるものではないと思う。東大内部の慎重論が他大学の採用判断に与える影響の大きさは、我々の想像に難くない。
今回の入試改革の該当学年が入学し、すでに数か月が経った。我々には彼らが志望する進路に進めるように、出口を保障する責任がある。1日でも早く今回の高大接続改革の詳細が確定されるとともに、各大学の2021年度入学者選抜募集要項ができるだけ早い時期に公表されることを望むものである。
(おわり)