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特集・連載

高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

具体化する高大接続改革
本校の現状と改革に向けての課題(上)
青森山田高等学校 教頭  木村郁子

青森山田高等学校 教頭 木村郁子

今回の高大接続改革は、「大学入試単体の改革ではなく『高校教育』、『大学教育』、『大学入学者選抜』の三位一体の高大接続改革である」と打ち出され、その中の大学教育改革が先行していた。そして、いよいよこの4月に2021年度大学受験の対象生徒が高校に入学し、「高校教育」と「大学入学者選抜」が具体化を増してきた。文部科学省から刻々と情報が更新されるたびに、われわれ高校現場としては生徒の不利益にならないように正しく理解し、教員間の共通理解に努めている。
校内ではプロジェクトチームを立ち上げ、校内のシステム構築を検討し、教務部・進路指導部がイニシアチブをとって校内研修を実施している。また、新たな情報を校内システムに反映させるために、外部で行われる研修会への積極的参加を促している。
本校は青森県青森市に位置する、全校生徒1084人の男女共学の私立の高等学校である。青森山田高等学校の母体である青森山田学園は1918年(大正7年)創立者の山田きみ先生が、女子の自立に必要な家庭科の教育を志し、青森市の自宅で裁縫塾を開いたことから始まり、今年で創立100周年を迎えた。
現在のような男女共学になったのは1951年(昭和26年)のことであり、その後1998年(平成10年)には様々な事情で全日制の学校に通学することが難しい子供たちのために高等学校の通信制を、そして2001年(平成13年)には青森山田中学校を併設し、中高一貫教育にも力を注いでいる。中学校からの内部進学者は高校入学者の約15%で、この春は入学者404名のうち58名が内部進学者であり中高ともに多くの生徒が青森市外からも入学している。
ここでは創立100年を迎えた本校の現在の進路状況と、「高大接続改革」に対応すべき取り組みと課題について述べたいと思う。
高校卒業後の進路としては、円グラフにあるようにこの春の卒業生313人の82%が進学、そして18%が就職であった。特筆すべきは進学者の増で昨年度の72%に比べて10%増、そしてそのすべてが4年制大学への進学者であった。また、進学・就職ともにその分野は多岐に渡っている。進路先は国内にとどまらず、ここ数年ではアメリカや台湾などの海外の大学、または語学学校に進学するものも続いて出ている。
これらの要因としては、本校が4学科・6コースを設置していることが1つ挙げられるであろう。普通科の中には、難関大を目指す特進コース、キャリアアップコース(2019年度に改名予定)・吹奏楽コース・美術コース・演劇コース・スポーツコースと6つのコースがある。スポーツの分野ではサッカーやバドミントンなどの全国大会での頑張りも評価されているが、この度の大学入試改革を考慮に入れ、スポーツコースでは文武両道を実現しつつ積極的に難関大を目指す学習習熟度上位クラスも設けている。そのほか、卒業後の実社会で即戦力となれるようにと簿記検定をはじめビジネス文書検定などの1級取得をめざす情報処理科、3級自動車整備士の国家資格が取れる自動車科、同じく国家資格である調理師免許が取得できる調理科の3つの実業科がある。
生徒一人一人の希望を叶えるため、個性や目的に合わせて選べる科・コースの設置は、プロスポーツやオリンピック選手・音楽家・医師・公務員・自動車整備士・調理師など多くの分野で国内のみならず海外でも活躍する人材の育成へとつながっていった。また、いまだに根強くある公立高校志向型の青森県において、私学ならではの特長を生かし、「入れる学校ではなく、入りたい学校」作りを目指す本校にとって、このことは生徒募集の観点からも重要なポイントとなっている。
しかし同時にこのことは、普通科・6コースに加え3実業科用のカリキュラムが必要ということであり、例えるなら9つの高校が集まった総合高等学校と言えるのかもしれない。進路指導においても同様のことが言え、生徒の個性に応じた多種多様の対応が必要であるということになる。
高校教育の目標の1つとして「個性に応じて将来の進路を決定させ」とあるが、これはこれからの予測困難な社会に出ていく生徒たちが、進学であれ就職であれ自分の頭で考えて自らが課題を見つけてそれを解決する力をつけさせることが、高校教育に課された課題であると読み取ることができる。本校の校長が教職員、全校生徒に、そして保護者に機会あるごとに言っていることがある。「将来社会に出たときに、人に迷惑をかけることなく自分の力で飯が食える生徒を育てる」これが本校の教育目標をわかりやすく言い換えたものであり、キャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」であるという中央教育審議会答申の定義にも通じると思う。
高大接続改革に関しては、2018年3月6日に文科省の検討ワーキンググループから、「『高校生のための学びの基礎診断』の民間試験の認定基準・手続き等について」のとりまとめが出された。2019年度からは高校現場で年間指導計画等に反映し、本格的に利活用することが勧められている。
本校ではこれまで、特進コース以外の生徒に基礎力を測る業者テストを年3回実施してきた。これは基礎学力の測定に加え学習への取り組みに関するアンケートで構成されており、生徒一人一人の「学びに向かう主体性」と「基礎学力の定着度」を同時に評価できる仕組みになっている。入学後最初のテスト結果から見ると、「主体性あり」と評価される生徒は決して多くはない。しかし、部活動や学校行事、ボランティア活動や体験学習などの活動を通し、様々な「場を踏ませる」ことで卒業学年までにはその割合は約2倍になっている。
2019年度から始まる「高校生のための学びの基礎診断」は、テストという呼び方はなくなり、あくまでも学校が生徒に基礎学力を定着させ、生徒の学習意欲を喚起するためのPDCAサイクルを構築する中で、基礎学力の定着度合いを測定するツールであるという。難易度が異なる複数レベルの問題セットをはじめとした多様な測定ツールが開発・提供されることが望ましいとされる中、民間の試験等で共通的な学習の達成度の測定が果たして可能なのか、思考力・判断力・表現力等を問う記述式の問題など共通性の確保ができるのかという懸念はぬぐえない。10月~11月頃にこの基礎診断の民間事業者の認定が決まり、その中から生徒にとって最適と思われるものを選択し次年度の指導計画に組み込むことになっているが、普通科6コース、3実業科の本校生徒の多様性に応じた効率的な実施体制の実現にはやはりそれなりの時間を要すると思われる。
(つづく)