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高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

地域が育む社会人基礎力
「インターンシップ」と「対話集会」(下)
三重県立紀南高等学校進路指導主事  清水 栄一

三重県立紀南高等学校進路指導主事 清水 栄一

三重県立紀南高等学校(三重県南牟婁郡御浜町)は、保護者や地域住民と学校関係者が参加する学校運営協議会を持つコミュニティスクールに指定されている。地域の声が学校運営に反映されることにより、地域に開かれ、地域に支えられる学校としてより良い教育の実現を目指している。

特に「インターンシップ」はキャリア教育の先駆的な実践として注目されている。中等教育でのインターンシップは数日程度の短期のものが多いが、本校では2年次に週1回、年間を通じて行っており、「就労体験」として単位認定(6単位)している点に特徴がある。前期・後期を合計して約20回の校外実習を地元の事業所で行うことにより、生徒の職業観の確立を図ることが狙いだ。

2012年に開始したこのインターンシップ制度は年々充実したものとなり、15年度の協力事業所数はのべ76カ所、参加生徒数のべ76人の運営規模となっている。選択授業として位置づけられており、ここ数年の傾向として学年の約半数の生徒がインターンシップに取り組んでいる。

協力事業所の業種は介護、飲食、販売、製造、教育、サービス、美容、整備と多岐にわたっている。生徒は1年次に配布されるリストから希望する事業所を選ぶ。当然ながら事業所の規模や業務の内容によって受け入れ可能人数に制約があるため、生徒の希望がすべてかなうわけではない。また、事業所での就労を前提とした校内基準をクリアし、適性があると判断された生徒が参加できる制度が構築されている。生徒は、年間を通じて同じ事業所を体験先として選択できるが、前後期で異なる業種もしくは同業種で異なる事業所を選択することもできる。

2年次では、1年次で決めた事業所先での研修に臨むことになる。インターンシップ事業の統括責任者である進路指導主事から事前説明を受けた生徒たちは、決意表明を書き、事業所に向けた自己紹介カードを作成するなどしてインターンシップ初日を迎える。

社会人としての経験がない生徒たちは戸惑い、不安を感じながら、各事業所で与えられた業務に取り組んでいく。インターンシップとはいえ、就業先では従業員の一人として扱われるため、甘えは許されない。失敗して叱責されること、熱心さがほめられることなど、体験するすべてが生徒の成長につながっていく。また、保育所や福祉施設では、アルバイトには任せてもらえないような仕事を体験できるため、参加生徒に大きな影響を与える。

思うように言うことを聞かない子どもたちや、高齢者への接し方に戸惑うことなど、現実と直面することで進路選択が二極化していく。つまり、現実を知ることで保育士や福祉職を目指す気持ちが強くなる生徒と、自分の適性を考え他の進路を考え始める生徒に分かれていくのである。そして、このことが進路選択のミスマッチを未然に防ぐことにつながっている。また、福祉施設などで、介助した高齢者からお礼を言われた生徒は自己肯定感が高まり、何事にも前向きに取り組めるようになるなど、就労体験が生徒を大きく成長させた実例は枚挙にいとまがない。

最後の締めくくりは、1年間のインターンシップで学んだ成果をお互いに発表し合う「校内発表会」である。1グループの発表時間は五分以内で、パワーポイントを用いて、就業場所、1日の流れ、仕事の内容、苦労したこと、嬉しかったことなどをインターンシップ生全員(約50名)の前で発表するものである。大勢の前でプレゼンテーションを行うことに慣れていない生徒たちは、皆戸惑いながらも一生懸命に自分の経験を伝えようと努力する。その真剣な姿勢は見る者を感動させる。そして、発表を終えた生徒たちの表情は達成感にあふれている。また、聴く側も真剣に発表を聴き、内容のわかりやすさ、スライドの見やすさ、話し方などの観点別に評価をし、点数化していく。お互いに評価することで、インターンシップでの経験が共有化され、深化していくのである。

1年間のインターンシップを通し、さまざまな経験をした生徒たちは、3年次には明確な進路意識を持って進路決定に臨むことができるようになる。就職試験の面接の際にインターンシップ経験を話したところ、企業から高い評価を得たという報告も数多くある。また、前述した「校内発表会」において、高得点をマークした上位5グループは、近くにある阿田和中学校の2年生の前で発表を行う。この行事は3日間の職業体験学習に行く前の中学生たちが、高校生の発表を聴いて自分たちの行動に役立てるという目的で行われており、毎年好評を博している。

地域との連携のもう一つの例として「対話集会」が挙げられる。1年次の3学期に生徒と学校運営協議会のメンバーが話し合う機会を設けている。生徒10~15人を1グループとし、各グループには学校運営協議会のメンバーが2人以上つく。協議会のメンバーは、主に生徒の話を聞くことに専念する。当初はフリートーキング的に始めたが、生徒が不満を述べる場になってしまったため、現在は「社会で働くこと」と「学校生活」を話のテーマと決めている。対話集会は生徒が教員や保護者に言いにくい将来の希望や学校での悩みを打ち明けられる貴重な機会となっている。また、社会人と話すことにより、マナーなどの常識も身に付けることができる。

こうした本校のさまざまな取り組みは、生徒のことを真剣に考える地域、保護者、教職員の強い連携により支えられている。

三重県南部の御浜町という温暖な地に位置する紀南高校。「年中みかんのとれるまち」であり、世界遺産「熊野古道」が残されている歴史の町でもある。時の流れがゆっくりと感じられる環境の中、生徒たちは地域に温かく見守られながら未来への道を着実に歩んでいる。

(おわり)