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高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

高校と大学の間にあるもの
~高大連携と入試指導の難しさ~〈下〉

東京家政学院中学校高等学校教諭 王佳晨

 前回はコロナ禍の中での取り組みについて述べたが、今回は高大連携について本校での取り組み、考えについて述べる。このテーマについては非常に意見が分かれる事柄であるので、ここでは私個人の所感も交えて述べることとする。
 本校は東京家政学院大学の併設校として設けられている学校である。そうした中で高大連携について、もっと深く関わるべきだと考えている。しかしながら高大連携といっても、その取り組みとはいかがなるものか、我々教員は日々頭を悩ませている。
 文部科学省は高大連携の在り方について「高等学校と大学が連携することにより、高校生の大学における学修を高等学校の単位として認定することや、大学へ科目等履修生として高校生を受け入れること等、高校生が大学レベルの教育研究に触れることのできる各種取組」とし、同時に「高等学校教員は大学教育の現状についての、大学教員は高等学校教育の状況について理解が十分とは言えず、(中略)今後、高等学校・大学間の相互の理解を深め、個々の高等学校・大学間の連携取組の意味・目的を明確にしていくことが重要である」と指摘している。この指摘はまさに現在の課題点であり、高大連携の目的こそはっきりしているものの、具体的に実施するとなるといまだ不明瞭な点が多い、というのが率直な印象である。
 高等学校の進路指導において大学との関わりといえば、進学相談会、大学の体験授業や大学の先生による講義会などが中心であったと思う。しかしこれらはあくまで生徒の進学に対して意識付け程度の認識であることは否めない。総合型入試など比較的早期に合格した生徒向けの入学前セミナーなどもあるかと思うが、対象が限定過ぎてこれもまた文部科学省の求める高大連携とはやや異なる印象である。本校においても高大接続ということで併設大学の授業に高3学年の生徒が出席して授業を受けるというものがあるが、大学生の講義を高校生が受けるという点で、講義内容の難度という観点で設定の難しさがあるように思われる。
 高校の方はというと、高校の普通科カリキュラム内に高大連携の内容をどのように組み込むかという課題点もある。SSHやSGHといった特色のある教育課程において、課題研究や探究という面で関連の学部学科との共同プロジェクトは計画立てしやすく、生徒も目的意識をもって参加しやすいと考える。事実SSH認定されているような学校は早い段階での研究室見学、フィールドワークへの参加、研究協力といった形で過去から高大連携の実績があるので、これらを普通科の教育課程においても導入していくのが理想であると思う。しかし、いざ普通科に当てはめようとすると、文系・理系、分野などが多様であるために、カリキュラムとして組み込むことに対して非常に達成項目が多く、大学に向けて学力向上を目的とした教育と高大連携プラグラムを連動した教育活動を並行して行うのは非常に教員の負担が多いように思える。つまり大学は専門色が強いゆえにその特色を活かした高大連携をイメージしやすいが、高校において大学との連携プログラムはカリキュラムに組み込む以上、生徒全体の希望に沿ったものでイメージしたい。
 この点において、先述の文部科学省のいう「相互の認識の理解不足」があるのではないかと思う。したがって、高大連携・接続とはそういったバイアスをいかに解消して行うかが課題であると考える。
 一方で昨今のリモートワークの普及、定着がなされたことにより、先述の課題点は良い方向に向かうのではないかと個人的に思う。此度のコロナ禍で、各高校でもオンライン環境は大学並みに充実してきたと思われるし、教員の中でもそのノウハウは確実に培われてきている。本校でも関西の大学の話しをリモートで聞くなど、オンラインを利用した取り組みをしている。こうした試みは準備こそ必要であるものの、移動などの物理的な手間を省くだけでなく、プログラムの選択肢を広げていく効果があると思う。ひと昔前には一部整備のなされている学校しかできないようなことが、多くの学校でもできる環境が整いつつある。今後各学校がより大学との連携のハードルが下がり、課題点を解決できる日も近いのかもしれない。
 先ほど高校での大学に向けての教育について触れたが、現在多くの学校では「大学に向けた教育」のはずがどうしても「大学入試に向けた教育」になってしまう現状があると思う。「大学レベルの教育研究」を学ばせたい反面、「その大学に入るための勉強の効率化」という、相反する指導を同時に行わなければならないという点も、高校での高大連携へのハードルを高くしているのではないかと思われる。その大学入試も、2021年度の入試において新入試となった。思考力などを問うものとして、ある意味では従来の「受験」を脱却するものだと期待をしているが、現時点では大きな変化はないように思う。今年1月には共通テストが実施されたが、数学においても問題の設定こそ読解力等を必要とし、全体的に見れば概ねセンター試験と変わらない印象であった。また本校の共通テストを受験した生徒の感想の中には、「ただ作業量が増えて忙しい」という感想もあった。そうなると新入試ではさらに効率化が図られ、ますます「受験」の学びと大学の学びが乖離するのではないかという不安もある。極論になるが、そういった新入試においてもいずれは「入試に向けて思考力、判断力、表現力を効率化する」というようになってしまう可能性もある。受験に特化した学習と本来の学習や学力を身につけさせる勉強の両立というのはある意味永遠の課題かもしれない。
 日本の長い教育の歴史を見てみると、この学びの本質と受験勉強のバランスは振り子のように動いてきたと感じる。今回の新入試において、今後各大学の入試問題がどのように変化していくのかも、高校現場の一人として注目している。
 入試改革の中でもう一つ注目したのが、学校推薦型や総合型選抜の日程変更である。日程変更に伴い、目的意識なく手当たり次第にAO入試や推薦入試に手を出すような出願方法はほぼ見受けられなくなった。本校ではもともとそのような出願をする生徒は少ないが、よりしっかり進学先を考えさせる動機づけのひとつとして生徒にもうまく機能しているように思う。また外部英語検定の利用においても、生徒の頑張りが成果に直結するというよい導入だと感じている。
 ここまで新入試の感想を述べたが、主観的な感想も多く、勉強不足な部分もあったかと思うが。いずれにせよ、今年度は新入試2年目、我々自身も新入試に対応した教育ができるように努力していきたいと考える。
(おわり)