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特集・連載

高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

公立高校の現場から
コロナ禍での高等学校の現状と課題(上)

北海道函館中部高等学校教諭  西山竜男

コロナ禍での高等学校の状況

 「新型コロナウイルスの感染防止」というフレーズが、あらゆる教育活動の中心となって、はや1年弱が過ぎようとしている。北海道の高等学校の現場では、昨年3月からの一斉臨時休校にはじまり、卒業生のみの卒業式、そして新入生のみの入学式の実施があった。何とか新学期が始まったのも束の間、4月中旬からの再度の一斉休校、5月下旬の分散登校を経て、6月1日からようやく学校再開となった。密閉・密集・密接の3密を避けながら、手洗いうがいとマスク着用の徹底という新しい学校生活のスタイルを踏まえながらの、制約を伴った教育活動であった。こうした状況の中、生徒が楽しみにしていた学校祭など各種学校行事は中止となり、また部活動で大きな目標にしている夏の高体連・高野連の大会も中止となった。3年生にとっては、高校生活最後の集大成として全力を傾けるべき対象が次々となくなり、気持ちの切り替えがすぐにはつかない状態となった。その後も、授業進度を回復すべく、土曜授業の実施や夏季冬季の休業日を短縮しての授業日設定、見学旅行の延期と旅行場所や目的の変更、部活動の活動制限など、いわゆる平常の高校生活とはかけ離れた日常を送っている。

コロナ禍での新たな課題

 コロナ禍での教育現場で一番の変化として感じているのは、不登校生徒の急激な増加である。この北海道では、十数年ほど前にはまだそれほど多くなかったいわゆる不登校生徒が、この数年で確実に増加してきた。本校においても、担任や養護教諭、学年の対応だけでは限界があり、学校体制として対応しなくては対応しきれない状況になってきている。もちろん原因や理由は千差万別であるが、この1年でいえることは、「コミュニケーション」の機会の減少が発端であることはいうまでもないだろう。高等学校では、HRの活動や討論、そして各種学校行事での共同作業や協力、部活動での助け合いや叱咤激励など、ある意味強制的にコミュニケーションを取らなくてはならない場面が多く設定されていた。毎日のことでいっても、マスク使用のため、お互いの表情を見合っての会話は少なくなり、昼休みの食事を「前を向いて会話をしないでとりなさい」という指導でコミュニケーションを取ること自体を制限し、ウイルスの感染防止につとめている。特に新入生は、新しい高等学校という環境の中で、4月の友人作り、登下校をはじめ新しい生活への順応がまだできていない中での休校、そして、3密を避ける教育活動を余儀なくされ、学校そのものへの楽しみや目標が見いだせず、人と接することに恐怖を感じる生徒が増えてきた。学校行事の精選がうたわれるようになって数年、私自身も昨年までは伝統や意義目標を鑑みながら、合理的な年間計画の作成ばかりに気持ちは傾いていたが、今年はもう一度考えを改めなくてはならないのではないかと痛感している。また、4月からの1か月あまりの授業を回復すべく、ゆとりなく授業を進めていることも原因としてあげられる。ソーシャルディスタンスを意識して、実習や実験の授業は激減し、お互いの顔を見ながらコミュニケーションするペアワークやグループワークの授業も制約されている。当然、進度は早くなり、休みがちな生徒には追いつくことはままならない状況だ。高等学校の学習内容や、大学受験の範囲が各教科ごとに定められている以上、我々も一丸となって創意工夫にはつとめているものの、生徒自身の意識の差にもよるところがあるだろうが、思考量や理解度は大きく開いている傾向にある。

コロナ禍での進路指導の取り組み

 本校では、2年次より「文理選択」を実施している。1年次に決定しなくてはならないため、大学進学の目的や意義などを理解させ、進学に意欲を持たせるHR活動を経た後に、50校あまりの大学関係者をお招きし、大学個別相談会を行ってきた。2年次では、「志望校志望学部の決定と計画作成」を目標に、夏季休業などを利用して積極的な大学のオープンキャンパス等の参加を促したり、20人程度の大学の先生に来校していただき、出前授業を行うなど、視線を北海道だけにこだわらない広い視野を養う取り組みを実施してきた。また、「医進類型研究指定校」として、地域医療の現状や課題について知り、医療従事者への理解を深めるなど専門性を高める工夫も行ってきた。ところが、本年度は計画的に事は運ばず改定や変更を余儀なくされた。
 まず、1年次では本年度よりSSHの指定を受けたことを活用し、「SDGs」のテーマによる課題研究を通して、先行研究の把握、課題の設定、仮説の検証等を行い、科学的思考力を養いつつ、各分野に興味関心を引き立てて、大学進学への意欲や目的を定めさせる工夫をした。また、NPO法人NEWVERY理事、高大共創コーディネーターの倉部史記氏をお招きし、「進路決定のミスマッチを防ぐ~入試改革時代の指導と援助~」という演題で講演会を実施した。現実の問題として、生徒たちは資格取得のためや技術を身につけるために大学を選びがちで、地元志向が強い地方の現状を打破すべく、大学の選び方や大学進学の目的、大学の現状などを知り、進路を考えるきっかけ作りにすることができた。講演会には希望した保護者も参加し、大学名や学部学科の名前だけで選ぶことからの脱却を達成することもできた。2年次では、担任と生徒の個別面談の実施回数を増やし、情報提供と進路選択を考える時間を増やすことを一番の目標とした。また、本校は一般選抜型入試で大学入試を挑む生徒が大半であったが、保護者の意向や不安な入試状況を考えると、学校推薦型選抜や総合型選抜のあり方や実際を知ることも重要ととらえ、各ホームルームで多様な入試のあり方と今後の高校生活を考えるきっかけを作った。3年次では、高校生活の目標を失った生徒の意欲をどうかきたてるかに終始した。自分たちばかりという被害者意識を脱却し、とかく安心安全志向が働き、努力しなくてすむように、悩まなくてすむように、早く行き先を確保できるようにという安易な進路選択に陥らないように、講習会の実施や、積極的な資格取得に向けた取り組み、模擬試験の有効活用などを行った。

コロナ禍での授業の取り組み

 冬季休業期間に卒業生と会話する機会があった。リモートによる授業や動画配信の授業ばかりで、地元にずっと帰ってきている学生は、やはり大学進学の目的を見失いがちな発言が多かったように感じる。集中力がもたない、わからないことがあると解決法も見つからないので学習の気力が失せるなど、マイナスな発言が目立った。また、リモートや動画配信の授業と対面の授業が半々になっている学生は、自分のペースを保てることで現状に満足している様子があった。友人もできたし、通学等の煩わしさから解放されるなどのメリットを感じているようだ。ただ、動画配信の授業の受け方を聞くと、聞き流すことや他のことをしながらの視聴もあるようで、本人の意識の差が相当に出る授業スタイルであることを実感した。高校生にとってはますますその傾向が強い。目的や目標を自分で考えるだけではなく、他からの影響を多分に受ける年齢である。
 本校においても、休校期間には、教職員により授業動画を作成し、YouTubeを通して視聴できるような取り組みを行った。もちろん、学びの場を確保するために、教職員も必死であった。合計109本の授業動画を配信することができた。しかし、いざ対面で授業ができるようになると、映像等による授業の課題も浮き彫りになってくる。今回、対面の授業は、学問としての学びの他にも身につけることができるものがたくさんあることに改めて気がつかされた。このような状況がいつまで続くか未知数であるが、どういう形が生徒にとって有効になるのか、そして、生徒の意欲や学びの楽しみを気づかせるためにはどんな方法があるのか、今後も試行錯誤していかなくてはならない。(つづく)