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特集・連載

高校進路指導室の扉―新しい高大連携・接続に向けて―

コロナ禍での進路指導
課題とこれから

神奈川県立進路指導協議会会長
神奈川県立麻生高等学校校長  加藤俊志

 6月19日付で、「令和3年度大学入学者選抜実施要綱」(文部科学省)が発出され、さらに、8月7日付で、「令和3年度大学入学者選抜での新型コロナウイルス感染症対策に伴う各大学等の試験期日及び試験実施上の配慮等の対応状況について」(文部科学省)が発出された。これらの通知には、新型コロナウイルス感染症対策に伴う大学入学者選抜の日程や試験実施上の配慮等について記載されている。それを受け、総合型選抜の出願が9月15日から始まり、令和3年度大学入試がいよいよ動き出した。今年は、高大接続改革による新入試初年度に加え、新型コロナウイルス感染症対策の影響で、例年とは大きく異なる入試となり、生徒、保護者、高校現場の職員は大変不安な状況にある。
 これまでのコロナ禍の学校を振り返ると、令和2年4月7日、緊急事態宣言が発出され、学校のみならず社会全体が、未曽有の危機に直面することとなった。学校現場では、「臨時休校はどうなるのだろう?」「生徒の学習保障は?」「期末テストは?」「成績は?」「卒業式・入学式は?」、「消毒液は?」「健康観察は?」と、様々な対応に翻弄される毎日を送ることとなった。
 私が勤務する神奈川県では、約3カ月間の臨時休校を経て、6月1日に分散登校、時差短縮授業として学校が再開し、7月13日より通常授業+時差登校、短縮した夏期休業を経て、8月31日からは一部通常登校となった。本校では、東京都と隣接していることから、通勤ラッシュによる感染リスクを避け、時差登校は現在も続いている。その間、学校現場では、様々な課題が浮上し、その都度、教育現場、教育委員会が知恵を出し合って乗り越えてきた。進路指導に係る主な課題をあげると、「臨時休校、分散登校中の学習の遅れ(オンライン授業の限界等)」「授業確保のための1学期末の後ろ倒しと調査書発行のタイトなスケジュール」「3密を避けるための進路説明会、保護者説明会、3者面談、個別面談の実施方法の変更」「コロナ禍の生徒の不安感による安全志向からくる弱気な出願先」「オープンキャンパスが中止される中での出願(翻弄される生徒)」「総合型選抜や学校推薦型選抜等における選抜方法の多様化や入試日程の変化への対応」「高大接続改革とコロナ禍のダブルで変化についていけない職員への意識改革」等々である。

臨機応変な学校体制の構築

 学習の遅れにについて、7月に神奈川県内の県立高校の学校長にアンケートを実施(神奈川県立学校長会議進路指導研究会:回答数124校)したところ、学習指導について「十分指導が出来たとは言えない」と回答した学校が98校(79%)にも及んだ(7月時点の調査であり、現在は、多くの学校で学習の遅れを挽回している)。この課題を解決するために、まず、各高校で取り組んだのが、臨機応変な学校体制の構築である。臨時休校、分散登校、時差短縮授業における授業の遅れを取り戻すため、夏期休業期間を2週間から3週間程度とし、神奈川県では1学期末を8月の終わりとした。その関係で、学校行事に加え、年間進路指導計画の見直しを余儀なくされ、成績会議、調査書発行、推薦会議のスケジュールの変更を各学校で行った。

オンラインでの進路指導

 各学校共に6月頃には、1・2年生対象の進路説明会(科目選択)、3年生は具体的な進路に向けての面談を行う。しかし、今年度は、臨時休校、分散登校、新型コロナウイルス感染症対策として、集合しての説明会の開催は難しく、動画配信による保護者対象進路説明会の実施等の工夫を行った。また、面談については、担任とのオンライン2者面談、3者面談など工夫を行った。10月に入り総合型選抜、学校推薦型選抜の入試が始まり、オンライン面接を実施する大学があり、その対応としてWeb面接指導も実施した。コロナ禍においては、オンラインと対面進路指導の併用(ハイブリッド進路指導)が有効である。

オンライン面接の課題

 総合型選抜、学校推薦型選抜におけるオンライン面接の課題について、各高校ともに苦慮している。入試は基本的に生徒自身が行うものだが、一部で高校会場を指定してくる大学もある。生徒には、「可能な限りパソコン(カメラ、マイク付き)、スマートフォンは予備として使用」「インターネット回線が望ましい」「静かで落ち着いた明るい部屋」「本番と同じ部屋で接続テストの実施」等の指導をしている。生徒の不安は、「オンライン面接中で急に電源が落ちたら」「通信環境が悪くなりフリーズしたら」「面接官の声は聞き取れるだろうか」等である。しかし、それ以前に、家にパソコンがない、個室になる環境にない等の相談を受けることがある。その場合は、大学側に事情を説明し、大学会場でのオンライン面接をお願いするか、それが叶わなければ、学校で個室を用意し対応している。

コロナ禍だからこその丁寧な指導

 進路指導をする中で、コロナ禍で弱気になり安全志向による出願が散見される。本校でも同様であるが、神奈川県の場合、臨時休校、分散登校の期間が長かったため、オンラインによる授業も行ったが、学習の遅れについて不安に感じている生徒が多くいるように思う。そのため、希望の大学をワンランク落とし学校推薦型選抜へ流れる傾向にある。だからこそ、各学校の進路指導において、模試データの分析結果等を活用し、丁寧な自信を持たせる進路指導をしていく必要がある。
 また、急変する家庭の経済状況に直面する生徒への支援も必要だ。家庭の状況が厳しくなり、大学志望だった生徒が、2年で就職に直結する専門学校、更には就職への進路変更は、本校のみならず全国的におきている状況である。教員一人ひとりが奨学金の制度等をよく理解し丁寧な進路指導を行っていく必要がある。
 コロナウイルスの影響を受けた高校3年生への配慮から、大学入試の形が多様化している。大学入学共通テストの第1日程と第2日程の設定、新型コロナウイルス感染症に罹患した入学志願者の受験機会を確保するための国立大学2次試験の前期日程・後期日程の追試験の設定、総合型選抜・学校推薦型選抜の多様な選抜方法による配慮や出願日程の後ろ倒し、オンライン面接、試験範囲の変更等である。生徒や保護者は多くの情報が飛び交う中、不安な気持ちでいる。高校の進路指導の現場では、生徒・保護者の不安解消のため、ICT等を活用し、迅速で丁寧な情報提供に努めている。

変化に対応する職員の育成と進路指導のこれから

 今年は、高大接続改革による新入試初年度に加え、新型コロナウイルス感染症対策の影響で、例年とは大きく異なる入試で、高校現場の教員は、その対応に追われる毎日を送っている。学びの保障を確保のICTの利活用、新入試対応、新調査書、コロナ禍での入試の多様化等である。各学校では、研修会等を実施し、変化に対応する職員の育成を図ると共に、進路指導に対する意識改革も図っている。これからの進路指導は、ICTの活用は必須であり、対面指導を併用したハイブリッドな進路指導が推進されていくだろう。また、多様な生徒一人ひとりに応じた個別最適化された質の高い進路指導を推進するため、高大接続改革や予測不可能な未来社会における入試の変化に、臨機応変に対応できる進路指導体制を構築する必要があるだろう。