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高めよ 深めよ 大学広報力

〈78〉高めよ 深めよ 大学広報力 こうやって変革した 74
 相次ぐ改革で受験者増
 今年は3万人超 入試制、新学部、新校舎…
 芝浦工業大学

 キャンパスの分散は、受験生確保に支障をきたすと敬遠する大学も多い。3つあるキャンパスが「3本の矢」になって、それぞれ独自性を発揮している大学がある。芝浦工業大学(柘植綾夫学長、東京都江東区豊洲)。「実学教育」を重視、長らく科学技術立国・日本を支える人材を育成してきた。キャンパスは、本部のある豊洲のほか大学発祥の地、東京・芝浦と埼玉県・大宮にある。若者の理工系離れがいわれるなか、4年連続で志願者を伸ばしている。入試制度の改革や新学部・学科の開設、新校舎への移転などが主な要因だという。企業との共同研究も多く、就職率は堅調。06年からの改革には目を奪われる。新キャンパスの開校、新学部や学科の開設…と矢継ぎ早だった。豊洲を訪ね、相次いだ改革とその成果などを学事部長らに尋ねた。
(文中敬称略)

 「三本の矢」のキャンパス 実学主義で就職堅調

 芝浦工業大学は、東京帝国大学の大学院生だった有元史郎が、1927年、東京・大森(その後、港区芝浦に移転)に開設した東京高等工商学校が前身。戦後の1949年、学制改革により芝浦工業大学となった。
 学事部長の大坪隆明が大学を語る。「本学の実学教育は、社会の様々な姿に学び、人類の福祉、社会に貢献する技術者の育成です。卒業生は堅実に仕事が出来る技術者として評価を受け、我が国の技術・工業の発展に寄与してきました」
 芝浦工大の改革の嚆矢は、1991年のシステム工学部の開設。ここ数年の改革がめざましい。
 03年、日本で初のMOT専門職大学院を設置。06年、豊洲キャンパス開校。08年、システム工学部に生命科学科を増設。09年、芝浦キャンパスを開校、デザイン工学部を開設。システム工学部をシステム理工学部に名称変更。
 「時代に沿った改革をしてきました。新しいデザイン工学部は工学と人間の感性および社会との調和融合を図り、創造的なものづくりの能力を持つ、実践的な人材の育成にあります」(大坪)
 現在、3学部に約6800人の学生が学ぶ。豊洲キャンパスは、工学部の3、4年生と大学院の学生が学ぶ。臨海部の大規模再開発事業として建設、周りには高層ビルが林立。凱旋門のような形の研究棟が目を引く。
 「都の再開発計画で周囲との開放性を失う塀のようなものを作ることは禁止され、校門を作ることができず、学校のシンボルとなる物を模索しました。その結果、凱旋門のようなデザインの研究棟ができました」と大坪。
 大宮キャンパスは、JR宇都宮線東大宮駅が最寄り駅。工学部とデザイン工学部の1、2年生とシステム理工学部の全学生と大学院生が通う。広大な敷地に緑があふれ、地球に優しい「グリーンキャンパス」をめざす。学生サークルの活動は、大宮がメインだ。
 芝浦キャンパスは、旧芝浦キャンパス跡地の再開発計画「芝浦ルネサイト」の一角を担う。デザイン工学部の3、4年生が通う、小さいがデザイン性に富んでいる。
 改革は、ハード面ばかりではない。「創立90周年を迎える10年後も輝き続ける大学でありたい」と08年4月からスタートさせた「チャレンジSIT-90」作戦。07年12月に着任した学長の柘植が立ち上げた教学改革。大坪が話す。
 「創立80周年記念式典で示された『教学ビジョン』の世界水準の授業の提供、基礎から積み上げる専門教育の充実、骨太な実践技術者教育など『7つの挑戦』に沿って、各組織が改革項目を立てました。教職員と学生が一体となって様ざまな改革を進めています」
 入学志願者は、4年連続で増えている。今年は3万人を超え、全国の大学で20位、工学系大学ではトップ。要因は、冒頭に上げたとおりだが、「もうひとつの要因がある」と大坪が話す。
 「入試広報は、伝統的に、受験生の目線で物事を見ることの出来る若い職員の企画やアイデアを取り入れています。これにより、新鮮で思い切ったことができるのも志願者増につながっている」
 同大の若い職員は「SOS(サポート・オブ・シバウラ)」という自主的な団体をつくり、学生をサポート。「SOSは学生と一緒に大学をよくしたいと誕生。独自のイベントなどを行い学生との交流を深めています」
 「就職に強い大学」として定評がある。だからこそ、06年から卒業生全員の就職先を明記した冊子を発行している。「学生の就職先については、包み隠さず実績を明らかにしています。これも受験生の信頼につながっていると思います」
 「就職は職業人生のスタートと位置づけ、卒業生1人ひとりが5年後・10年後、各業界のエンジニアとして最大限に実力を発揮できるよう、キャリア支援。『仕事に強い大学』をめざしている」(大坪)
 多いロボサークル
 学生のサークル活動は、芝浦工大らしさが満ちあふれている。ロボットサークルが多い。大会参加がメインの「文化会SRDC」、主に小学生を対象としたイベントを行う「文化会ロボット遊交部からくり」などがある。
 「Team Birdman Trial」は08年の「鳥人間コンテスト」で準優勝。二人乗り人力飛行機として、3044.00mという世界記録(自称)を持つ。
 産学官連携にも力を入れる。深海探査ロボットプロジェクト「江戸っ子1号」。東京東信用金庫に持ち込まれた町工場の提案が発端。「海洋大とともに、2012年の完成を目処に、深さ1万1000メートルの海底資源探査に挑む夢のあるプロジェクト」と大坪。
 大学広報について、広報課長の芝田真澄が語る。「昨年6月、HPをリニューアル。これまでリンク集のようで全体のイメージがわかりにくかった。ブランドイメージを打ち出し、使い勝手もよくなりました」
 これからの広報を芝田が続けた。「芝浦工大のイメージは堅実、真面目と漠然としていました。芝浦工大の名前イコールブランドイメージになるようにしたい」 
 現在、「MADE IN 芝浦」プロジェクトを進行中。このロゴを様ざまな媒体で露出、「本学の人や技術の社会への貢献、卒業生の活躍などを伝え、質保証の証し、としたい」(芝田)
 質保証にこだわり
 大坪が付け加えるように語った。「実学主義を唱える以上、社会から求められる大学として存在しなければ未来はない。グローバル化、技術の高度化が進むなか、社会は本学に何を求め、どう評価しているのか、今一度整理して、更なる教育の質向上を目指したい」
 芝田と同じ「質」という言葉を使った。芝浦工大は、大学の質の保証と向上にこだわって前へと進む。