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高めよ 深めよ 大学広報力

〈53〉高めよ 深めよ 大学広報力 こうやって変革した49
  地域とともにある大学
  研究など地元密着 学生食堂も市民に開放
  中村学園大学

 地域とともにある大学の凛とした存在感。近年、教育と研究という二つの大学の存在意義に加えて地域貢献が重きをなしている。とくに、地方の大学では、その傾向が強まっている。九州にある中村学園大学(藤本 淳学長、福岡市城南区)は、学生の八割が県内出身、残りも九州や隣接する山口県で、就職先も福岡など九州がメインだ。大学の付属研究所、付属施設、そして、学生食堂なども地域と密着している。地域連携の公開講座やシンポジウムなども積極的。「いままでも、これからも地域とともにある大学でありたい」という中村学園大の確信と自負。広報担当者に、地域密着の歩みと展望、それと広報の関わり、などを取材した。
 (文中敬称略)

就職の中村3系統に分け専任職員

 中村学園大学は、地下鉄七隈線「別府駅」から歩いて2~3分と福岡の中心地に近い。創立者の中村ハルが1953年、学校法人中村学園を設立し、翌54年、開校した福岡高等栄養学校が前身。57年、中村栄養短期大学(栄養科)を開学、65年、中村学園大学(家政学部)となった。
 中村ハルの教育の信念は「人間は頭の良し悪しや学力の優劣よりも何よりも人物が出来ていることが基本である」。実学教育のもと、興味や好奇心をしっかりとした知識や技術に変え、人間性豊かなスペシャリストを社会に送り出してきた。
 事務局長の渡邉 章が大学を語る。「人間教育を基本に、学生を中心とした教育に取組んでいます。学部教育では、食を通じての健康づくり、子どもの成長を支援できる人づくり、流通の理論と実際を生かした社会づくりをめざしています」
 2000年、流通科学部を開設、02年、家政学部を栄養科学部と人間発達学部に改組した。現在、栄養科学部、人間発達学部、流通科学部の三学部に約2800人の学生が学ぶ。開学以来、共学で現在、男子学生が580人(20%)いる。
 食へのこだわりは強い。それは「食育館」と名付けられた学生食堂にも象徴される。キャンパスに入って、すぐのところにあり、近所の人たちも自由に利用できる。取材の日には、小さな子供連れの母子が数組、学生に交じって楽しそうに食べていた。
 食育館をつくった目的を渡邉が説明する。「毎日の食事を通して①どんなものを食べたら安全か危険かという「選食」の力②健康の維持・増進のために「何を」「どれだけ」「どのように組み合わせて」食べたらよいか③食に関する感謝の念と理解、食糧や農業に関する問題、環境問題の認識―を学びます」
 ここで、食事をすると、レシートには、選んだメニューの「食事バランスガイド」の数字が表示される。同ガイドは、農水省と厚労省が決めた望ましい食事の取り方や、おおよその量をわかりやすく示したもの。一日に「何を」「どれだけ」食べたらよいかが一目でわかる。
 驚いたのは、この施設が同大の直営であること。59年設立した中村学園事業部で同学園の収益事業部門。九州各地の企業や病院などの食堂を運営、年間55億円の売上げがある。卒業生の就職先として開設したが、評判がよく徐々に拡大したという。収益は、同大の国際交流や奨学金、研究費に基金として寄附されている。
 食育館は地域密着型だが、同じように地域と関係の深い施設が他にもある。「大学・短大・大学院・付置研究施設などが連携して地域貢献に積極的に取り組んでいる」(渡邉)のが特長だ。
 「健康増進センター」が主となって毎年実施している健康栄養クリニック。生活習慣病予防に関心の高い市民を20人枠で公募し、約四ヵ月間にわたる肥満症治療を実施、病状の改善の効果を出すとともに、そこで得られたデータを収集・検証し、治療方法の充実に生かしている。また、「栄養クリニック」では、地域医療機関と連携しながら、メタボリック症候群改善のための栄養支援に取り組んでいる。
 「発達支援センター」では、幼児・児童の発達に関する臨床的研究を行い、保育・教育にかかわる講座を定期的に開催。「流通科学研究所」は、「食」を通して、流通のあり方を学術的に解決していく。
 渡邉が語る。「健康増進センターおよび栄養クリニックでの肥満予防等の栄養支援、発達支援センターによる保育・教育講座、流通科学研究所のセミナーなどを組み合わせ、地域とともにを念頭に、本学の栄養・教育・流通という三つの専門領域の特徴を生かしていきたい」
 就職状況は好調である。「就職の中村」といわれている。卒業生は、管理栄養士・栄養士、小学校・幼稚園教諭、保育士、公務員、銀行、商社、流通業、食品業など、様々な企業で活躍している。地元、福岡など九州が多い。最近では、小学校教諭は、採用が多い大阪や東京などの大都市圏も視野に入れている。
 「就職の中村」を「証明」するものとして、学事課長の辻原陽一は、三つあげた。①管理栄養士国家試験合格者数は全国トップクラス②充実した資格取得支援講座などを開講③系統別就職指導で毎年高い就職決定率。
 なぜ、就職率がよいのか、辻原が続ける。「学生の志望により、企業系、栄養士系、幼稚園・保育園系の三つの系統に分けて、その系統別に専任スタッフを配置しています。求人先との接触から履歴書の書き方までマンツーマンできめ細かい指導を徹底しています。そのあたりが要因かもしれません」
 教育と研究の面でも頑張っている。栄養科学部が優秀な管理栄養士養成のために取り入れている独自のカリキュラムは「21世紀型管理栄養士養成システムの構築」として文科省の平成18年度「特色ある大学教育プログラム」に選定された。
 このプログラムは、人間発達学部。幼児発達学専攻は幼稚園教諭や保育士、児童発達学専攻は小学校教諭や幼稚園教諭をめざす。同学部が取組む「小学校教員採用試験受験支援のためのe―ラーニング演習の構築」が、文科省の平成21年度「大学教育・学生支援推進事業(学生支援推進プログラム)」に採択された。
 全国各都道府県で実施された小学校教員採用試験問題を収集、e―ラーニングによる採用試験問題演習システムの構築に取り組む。一分野当たり500~2000題(全12分野計10000題)のプールコンテンツを作成、分野ごとにランダムに出題するe―ラーニング演習システムを構築する。
 「これにより、学生に自学自習を促すとともに教員側からの指導体制も強化し、学生の基礎学力の向上と教員採用試験現役合格率の向上をめざしたい」(渡邉)
 大学広報はどうか。学生募集広報は入試課、一般広報は学事課が担当している。新学部・学科の設置といった大学改革などでは一体になって取組んできた。学生募集は高校訪問に重点を置き、広告媒体としては最近、テレビCMを活用しています」と入試課長の小川康生。
 渡邉が最後に語った。「テレビCMの放送エリアは九州・山口と地元中心です。広報誌、ウェブ等で発信するニュースも地域連携、地域貢献モノが増えています。この傾向は、今後とも続くと思います。大学広報とは、大学のファンをつくること。大学の取組みを知っていただくという謙虚な姿勢、ホスピタリティー精神をもって内外に発信することで、『中村ファン』を拡大していきたい」
 地域とともにある大学、その大学の広報もまた、地域とともにある。