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高めよ 深めよ 大学広報力

〈51〉高めよ 深めよ 大学広報力 こうやって変革した47
  既存学部に大きな刺激
  成果はこれから看護リハビリテーション学部設置
  甲南女子大学

 京女(きょうじょ、京都女子大学)の次は、南女(なんじょ)。東日本では馴染みが薄いが、関西で、南女といえば知らない人はいない。甲南女子大学(坪内良博学長、神戸市東灘区)。神戸にあるお嬢さん大学として知られる。この甲南女子大が07年に看護リハビリテーション学部を設立して大きな話題になった。「お嬢さん大学の南女が、なぜ看護やリハビリを?」。共学化志向、少子化といった環境のなか、甲南女子大は大きな改革を断行した。この改革は既存学部に刺激を与え、受験生増に結びついたが、看護リハビリテーション学部そのものの成果が問われるのはこれから。最初の卒業生を送り出す来年以降になる。南女が踏み切った大きな改革とこれからの展望、そして広報の関わりなどを大学トップに尋ねた。
 (文中敬称略)

「お嬢さん大学」が殻破る

 甲南女子大のキャンパスは、海の見える明るい丘の上にある。港、船、桟橋など見えるのが神戸らしい。最寄り駅からスクールバスを利用しないで歩くのは、少ししんどい。健康法としてはいいが、坂道を歩く学生はあまりいなかった。
 実業家で、教育にも尽力した安宅彌吉らが1920年に設立した甲南高等女学校が前身。その後変遷を経て、1964年、甲南女子大学が開学。現在、文学部、人間科学部、看護リハビリテーション学部(一年から三年生)の三学部に3600人強の学生が学ぶ。
 学長の坪内が大学を語る。
 「本学は、創立以来『全人教育、個性尊重、自学創造』の教育方針で、誠実で品位ある女性を育て、世に送り、社会の信頼と期待に応えてきました。校訓は『清く、正しく、優しく、強く』です」
 この女子大が、07年に、看護師や理学療法士の資格が取れる看護リハビリテーション学部(看護学科、理学療法学科)を新設した。「お嬢さん大学が、実学の大学に転換するのか」、大学関係者は一様に驚いた。坪内が説明する。
 「大学の生き残りには、大きな転身が不可欠と判断、21世紀に求められる新学部・学科を企画しました。これからの女性は実社会で手に職を持つ必要があり、そこで、本学と関係が深い甲南病院と連携して、看護、リハビリの学部を開設することにしました」
 文系のみの大学に理系の学部が加わるのは大変だった。企画広報課長の竹井誠が説明する。「卒業生の中には、反対の声もありました。また、当初は看護やリハビリの専門家がおらず、学部設置の提出資料も作成だけでなく教員と実習先の確保が大変でした。でも、教職員が一丸となり開設にこぎつけました」
 看護リハビリテーション学部設置は、大学全体にプラスに働いた。「理系の新学部ができるということで、既存の学部も負けじ、と改革を行いました。新学部開設を発表した06年の受験生は各学部とも前年を上回りました。大学全体に与えたインパクトは想像以上に大きかった」
 問題はこれからだ。看護リハビリテーション学部は、看護師、保健師、助産師、理学療法師の国家試験の受験資格、養護教諭の免許などを取得できる。一期生(現在の三年生)の国家試験合格率は新学部の浮沈だけでなく大学のブランド力にも関わってくる。
 坪内が話す。「臨床実習では病院に丸投げせず、学生一人ずつにベテランと若手の教員がアドバイザーにつくなど、きめ細かな指導をしています。国家試験対策委員会を設置して模擬試験を行うなど本番に備えています。教員・学生とも本気になっているし、心配はしていません」
 甲南女子大の改革は、看護リハビリテーション学部開設が嚆矢ではない。「社会の需要に応じて新学科創設、カリキュラム改革などを行ってきました」(坪内)。
 01年、人間科学部を開設、文学部に多文化共生学科を設置。同学科は「神戸には外国人が多く住み、いろんな文化があります。街と共に生きる、多文化との融合をめざし、他大学に先駆けて設置、現在、多文化コミュニケーション学科に進化しています」(竹井)
 06年、文学部に情報社会に対応するメディア表現学科、人間科学部に幼稚園教諭や保育士の資格もとれる総合子ども学科を加えた。「女性が男性に交じって活躍するのがあたり前の時代、お嬢さん大学から社会で活躍できる女性を育むという時代背景もあります」(竹井)
 06年から新入生が大学や大学生活を多様な面から体験し、大学をよりよく知る「大学探検」を開設。また、マナー講座を必修化すると共に、ANA総合研究所の協力を得て、エアライン実習、ホスピタリティ入門を09年度から開講した。
 甲南女子大は、就職率は高く、キャビンアテンダントになる学生も多い。「就職や社会に対する意識を高め、進路の多様化にも応えるために、授業として『キャリア形成支援プログラム』を提案、一年次から体系立てたキャリア教育の実施に取り組んでいます」(坪内)
 女子大らしいユニークな制度も。教員表彰制度がそうだ。学生による「後輩に勧めたい授業科目・教員について」の投票の結果に基づいて選出された大学教員を「ベスト・ティーチャー賞」として表彰。今年も二名の教員が受賞した。
 広報の話題に入る前に、竹井が、最近の広報でうまくいったケースを紹介した。同大は、源氏物語の研究でも有名だが、昨年、所蔵する源氏物語「梅枝(うめがえ)の巻」が、現存する梅枝の写本では最古級の鎌倉時代中期のものであることがわかった。
 しかも、幕末の軍艦奉行、勝 海舟の蔵書印もあった。源氏物語の代表的な写本である藤原定家の「青表絵本」などと異なる記述も多く、「源氏物語の解釈に影響を与える可能性もある」と注目された。
 「源氏物語千年紀の昨年、本学の教授が所蔵の写本を調べ直したさい、わかりました。1973年に京都の古書店から購入したものだそうです。当時は、本学に古書を持ってくれれば値切らずに買ってくれる、と多くの古書店が訪れたそうです」(竹井)
 この源氏物語の最古級写本発見では、昨年10月29日、学内で記者会見を行った。源氏物語千年紀の年とあって、一面で扱う新聞もあり、テレビや雑誌などにも大きく取り上げられた。
 さて、ここで紹介してきた様々な改革などを、どのように発信してきたのか。広報活動を聞いた。「広報では、ホームページの充実と共に、進学情報誌、新聞など広告媒体を厳選し、内容の充実を図ってきました」(坪内)とまずは模範解答。
 同大は、来年2010年、学園創立90年を迎える。坪内が語る。「創立90年を前にブランド戦略本部を設置、この下にUI導入、広報宣伝、記念事業という三つのタスクフォースを設けた。ブランド力向上には学内の意識付けも大事ですが、外へ向けての発信、すなわち広報戦略がとても重要になってきます」
 「改革と広報は不即不離の関係にある」と続けた。「いくら立派な改革を行っても高校の先生や受験生らに伝わらなかったら意味がありません。これからは、ただ発信するのでなく、中身をわかりやすく、見せていく、といった工夫が必要になります」
 学園創設から90年、女子大として40年余、神戸を代表する女性のための大学として成長してきた甲南女子大。幾多の変革を経て新たな時代、新たな大学に生まれ変わろう、とブランド力強化をめざす。広報の役割は益々大きくなる。