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高めよ 深めよ 大学広報力

〈5〉高めよ 深めよ 大学広報力
  元NHK経済部記者 体験や人脈をフル活用
  科学ライターから転進 学んだ工学にロマンを

こうやって変革した(2)

 あらゆる業種の主要なポストで存在感を示す女性が増えている。大学広報の現場も例外ではなさそうだ。東京経済大学(東京都国分寺市、久木田重和学長)の広報課長は元NHK経済部記者。また、東京大学工学部(東京都文京区、保立和夫工学部長)の広報担当は女性の科学ライター出身。二人とも前職の経験を生かしながら女性の目線でUI(University Identity)確立に意欲を燃やしている。今回は、女性と前職を生かす、がキーワードになる。

 活躍する広報ウーマン
 こんな推論から入りたい。大学の広報担当は女性のほうが得ではないか。新聞記者らマスコミの人間(絶対数では、まだ男性のほうが多い)が大学の取材に行くとき、先方がむくつけき男性より女性のほうを歓迎するのは自然の摂理ではなかろうか。
 さて、二人を紹介する。東京経済大広報課長の森玲子は一橋大卒業後、NHKに入局、新潟放送局、経済部とジャーナリストの道を歩んだ。一〇年前、「NHK時代のご縁で広報に先進的と評判だった東経大に転籍しました」。昨年十月から現職になった。
 東大工学部広報の内田麻理香は東大工学部応用化学科卒、ウェブサイト「家庭科学総合研究所(カソウケン)」を立ち上げ、科学ライターとしても活躍。「昨年五月、科学ライターとしてのネタ(仕事)を探しに母校の工学部に行ったら、広報の前任者が辞めてしまっていて後継者を探していました」。昨年七月から広報担当に。
 広報と広告のコラボ
 東京経済大広報課長の森の話から紡いでいきたい。広報課は職員三人、派遣社員二人の総勢六人。広報誌やプレスリリースの作成がメインだが、学生記者の指導や大学の広告宣伝との連携など多岐にわたる。前職の放送記者時代の体験は大いに役立っているという。
 「広報の新メンバーに情報収集の大事なことやニュースバリューの判断など教えるのに、これまでの体験は生かされています。また、うちの大学の記事を書いてもらうのに、かつての記者仲間に頼んで実現したこともあります。記者時代に培った人脈は貴重だし、有難いですね」
 「父が薦める。私が選ぶ。東京経済大学」。このキャッチコピーはOBから好評だった。受験生の大学選びのキーパーソンは普通「母親」「高校の先生」「塾の先生」だそうだが、東経大ではOBである「父親」が圧倒的。東経大OBは母校愛が強い。そこで生れたのが「一〇万人のチャレンジ・メッセージ」の募集。森が説明する。
 「OBのネットワークを強めようと広報誌『東京経済大学報』で、私のチャレンジという投稿を募集しています。集まったメッセージを新聞の全面広告などで紹介して、東経大の底力をアピールするのがねらいです。これには、関沢英彦教授のバックアップが大きかったですね」
 関沢は、博報堂でコピーライターとして各種広告賞を受賞。博報堂生活総合研究所所長を務め、〇三年四月から東経大コミュニケーション学部教授(広告論・生活者発想とコミュニケーション等)となった。東経大のキャラクター「TKUチャレンジャーズ」の生みの親でもある。
 「関沢先生は広告の専門家で、広報のつくるポスターやキャッチコピーをお願いすると快く引き受けてくださいました。対外的に発表する場合でも、これは広告で、これは広報でやりましょう、とうまくいきました。関沢先生の広告と私の広報が共振したみたい」
 森に、「記者と広報では、どっちが楽しいですか?」と聞いた。こんな返事が返ってきた。
 「名刺一枚で誰とでも会えるという点では記者のほうが楽しいですが、長期的に腰を据えて人脈作りができるという点では現在のほうがやりがいはあります。体系的に、割合と時間をかけて情報収集やものを書ける、専門家もそばにいますし、恵まれているといえます」。
 広告のモデルにも
 東大工学部広報室の内田麻理香の日常の業務は、プレスリリースの作成と二ヶ月に一回、工学部が行う定例記者会見の設営。「工学部の先生は社会との接点が多いせいか、プレスリリースに私が手を入れるところは少ないですね。会見では、研究成果などをタイミングよく発表することを心掛けています。大きな記事になったときは正直うれしい」
 内田は、〇二年に立ち上げたウェブサイトの「カソウケン」では、母親として料理や洗濯、掃除などの家事の中で体験した疑問をユーモア交えて科学的に解明、本にもなった。工学部の広告のモデルを務めるなど縦横無尽の活躍。
 内田は近年の大学生の「理工離れ」を残念がっている。「技術がまわりにありすぎて、若い人は自分がやる、残されたものがないと考えているのがひとつ。もうひとつはコストパフォーマンス。メーカーと外資系の企業の給料を比較してしまう。工学部の先生方はお金より好きなものを追求しています」
 「工学にロマンを取り戻したい」「学生の理工離れに風穴を開けたい」。内田の夢であり、願いでもある。
 森同様、前職の経験が生きているようだ。いろんな仕掛けを試みた。ひとつが六月に実施した「テクノドリームⅠ」。「機動戦士ガンダム」のガンダムシリーズで知られる日本を代表するアニメ監督、冨野由悠季(とみの よしゆき)を東大に呼んだ。「私も機動戦士ガンダムの再放送を見て工学を志しました」と微笑みながら語った。
 「冨野監督と工学部の先生二人が“工学~それは夢を実現する体系”をテーマにディスカッションしました。工学部の学生だけでなく、他大学の学生や社会人、高校生もみえました。後半は企業の技術者二人が加わり、五人は工学の未来について熱っぽく語り、五〇〇人近い参加者も盛り上がりました」
 また、高校生向けの「工学体験ラボ」という前任者から引き継いだ試みは今年も開催するという。四〇人くらいの高校生をよんで工学部の先生が研究内容を講義する。土曜日の半日かけた工学部体験だ。こうしたイベントは、きっと高校生らの理工離れに風穴をあけるに違いない。
 「いまは楽しくてしょうがない」と内田は最後に話してくれた。
 「もともと研究の話を聞くのが好きだったし、これまでの仕事も役立っています。広報の仕事は、象牙の塔に閉じこもらず、社会に触れることが多い。私は、社会に対して工学、科学をわかりやすく発信できればいいなあと考えています」
 新しい血が成果生む
 そうそう、冒頭の「大学広報には女性のほうが得かも」という推論について二人に尋ねた。
 「マスコミの人脈が続いています。男性だったら、どうだったか、と考えると、得したかな、と思うこともある」(森)、「東大の各学部の広報担当者は、みんな女性だと聞いていますが、そういうことなのかなあ?」(内田)。二人とも否定はしなかった。
 二人とも、すっかり大学の水にも慣れたようだ。それまでの仕事の体験を活かしながら大学広報という新たな仕事に取り組み、それぞれ成果をあげている。大学広報は、新しい血を導入することでステップアップしている。「女性だから…」という推論は間違いだったかもしれない。