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特集・連載

教育改革

「教授法が大学を変える」
26大学から実践が集まる「アクティブ・ラーニング」テーマに

 平成24年11月上旬、金城学院大学薬学部の授業「薬学PBL」を拝見するため大学へ伺った。この科目は学部1年生(定員150名)の必修科目で、前期に「薬学PBL(1)」、後期に「薬学PBL(2)」が開講されている。これは極めて組織的・継続的・重層的であり、学部の育成したい学生像が強く反映している。その詳細を紹介しよう。
 薬学部では、「高いコミュニケーション能力を備え、人のこころが分かる専門性の高い薬学ジェネラリストを育て、地域社会並びに医療現場で信頼される薬剤師として活躍する人材を育成する」ことを目標としている。その実現のため、1年次に「薬学PBL」、1~3年次に「薬学セミナー」、4年次に「CBL(case-based learning)」などの科目群が配置されており、そこで用いられている手法の一つが、具体的な疑問や課題、症例を基にした少人数・問題発見解決型教育(いわゆるPBLチュートリアル教育)である。高校までに受けてきた教育は受身であることが多く、入学後すぐに本格的なPBLを実施すると、学生側の対応能力の個人差が大きいために、積極的に参加する学生とそうでない学生との間で学習効果に格差やばらつきが大きくなる場合がある。そこで、大学入学初期にこの差を出さない様にするため、「薬学PBL」が導入科目として1年次に配置されている。この科目の到達目標は、これからの薬剤師に必要な能動的な学習能力や問題解決能力を身につけること、患者に寄り添うことの出来る薬剤師としてホスピタリティーマインドや高いヒューマンコミュニケーション能力を身につけること、である。医療の現場ではマニュアル型では解決できない様々な問題が発生するが、これからの薬剤師には、こうした問題に柔軟に対応し自らの力で問題を解決していく能力が強く要求される。このような背景ゆえに、「薬学PBL」以下の科目群が設定されたといっても過言ではない。
 この取り組みが極めて組織的・重層的であることを如実に表しているのが、「金城学院薬学部屋根瓦方式PBLT」と名付けられた学習方法だろう。1年生を12~13人ずつのグループに分け、学科の教員が持ちまわりで各グループに毎回1名つく。さらに、その教員の「薬学セミナー」生である2年生4~5名がチューターとして参加する。一つの課題は2週間(1コマ90分×4回+授業外学習)で完結する。1年生12~13人は課題ごとに司会グループ一グループと調査・発表グループ2グループに分かれる。教員およびそのセミナー生は課題ごとに変わるが、1年生12~13人ずつのグループは固定で、1年間に4回ほど組み替えがある。2年生が正課授業の一環として1年生のサポートにまわることで、2年生が1年生にとっての格好のロールモデルになっている。また、2年生にとってもこれは貴重な学習機会である。その意味で、この方法は極めて緻密に考えられたシステムである。
 2週間の授業の流れは、次のとおり。
 【1回目(テーマ設定)】司会グループの1年生が2年生の協力を得ながら司会を担当し、興味あるテーマについて意見交換しながら、テーマと調査内容・方法を決める。この過程で疑問点を明らかにし、調査内容を煮詰める。更に、調査事項をグループで文献やインターネットを使いながら調査する
 【2回目(調査・レジュメ作成)】1年生全員がPC教室に集まり、PCや書籍を使って調査、レジュメ作成を行う
 【3回目(グループ内発表)】二つの調査・発表グループが発表し、質疑応答を行う。発表後、2年生および教員からアドバイスを受ける。その後、発表および司会に関する評価シートと振り返りを提出する
 【4回目(全体報告会)】1年生全員がPC教室に集まり、各々の司会グループがグループ内発表の内容を報告する。教員が総括し、振り返りシートを記入する
 持ちまわりの教員および2年生は、1回目と3回目の授業に参加する。2年生は必要に応じて1年生に適切なアドバイスをおくり、サポートすると共に、教員による1年生の評価にも参加する。これは人を客観的に見て評価する訓練に役立てるとともに、複数の目で1年生の学習態度やレジュメをチェックすることにより、学習評価の妥当性や信頼性を向上させることにも繋がっている。4回の流れは1年生の動きに焦点があてられているが、その裏で、指導教員による2年生への綿密な指導、教員間の指導の統一化、全体の流れのマニュアル化など、多大な労力がかけられていることが窺われる。
 拝見させて頂いたのは1回目のテーマ設定をする授業で、体に関する指定された枠内(例えば、呼吸器、消化器、循環器等)で疑問に思うこと、既に知っていることからテーマが絞り込まれていた。年度当初は自由設定のテーマが多いということだが、薬学部の学生らしいテーマ(例えば、サプリメント、化粧品と肌、アロマ等)が設定され、学生の学びに対する興味・関心が喚起されていることが窺われる。また、司会を担当する1年生の不慣れな様子に比べ、2年生のしっかりとした様子が印象深く、1年間の経験の差が如実に見て取れることに、導入科目としてのこの科目の当初の目的が概ね達成されていることを感じとる事ができたように思う。
 ICTを使った学習支援策としては、ラーニングポータルとしての「Moodle」と、オンデマンドビデオ教材「ビジュラン」が用いられている。これらにより、授業外での自己学習が自宅からでもすることができる。また、「Moodle」にアップされたレジュメをお互いに評価したり、全体報告会の後に、ベストグループを選んでもらうための投票道具として利用することもできる。お互いに報告内容や説明の仕方を評価することで、自らの報告を検証することができる。
 この学習方法を導入して6年が経過し、この教育法を受けて社会に飛び出した学生への評価は概ね良好である一方、いくつか課題も明らかになっているとのことだった。例えば、PBLに関するアンケート結果の解析から、同級生とのコミュニケーション能力に劣る学生は2年生や教員への依存心が大きい、自己学修時間が通常の座学中心の講義と比べて増えていないと申告する学生も2割弱いる、などである。とはいえ、これまで述べてきたように、この取り組みは極めて組織的・重層的である。他大学で活用できる取り組みとして紹介される事例の中には、開発者個人の多大な努力と頑張りに依存する例が散見される。しかし、この取り組みは開発第1世代から第2世代へ順調に移行していると見られることから、継続性も担保されていると感じた。
 自身の大学での取り組みもこうありたいと痛感し、良い事例を拝見できた喜びを感じつつ帰路についた。この場を借りて、同学部の関係者の方々に感謝申し上げたい。