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特集・連載

キャリアデザインの時代

<4>キャリアデザインの時代
  どこまでも学生第一で
  山梨学院のキャリア支援を振り返る

山梨学院 就職・キャリアセンター課長 土橋久忠

 キャリアデザインの時代―やや遠大なこのテーマを前に想起したことがある。今から20数年ほど前、私は日米の就職担当者の交流のためアメリカの地を踏んでいた。ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学など数校を見学させていただき、その教育システムの充実度に目を見張った。特に強く印象づけられたのは、進路・就職の相談を受ける職員全員が「キャリアカウンセラー資格」を持っているということ、また、卒業前の就職指導が極めて実践的であったことである(サマージョブ制度―今で言う「インターンシップ」―が当然のように定着していた)。欧米の地理的な距離の遠さとともに、そのソフト面の時代的先行に遠大な思いをもった。そして、当時の日本の大学の就職、キャリア教育の有り様を振り返り、その遅れを痛感せざるを得なかった。
 帰国してすぐ、期せずして自身の海外視察の経験が本学の運営に役立つこととなった。その頃、経営情報学科の新設が間近に迫っており、この特徴の一つとして「インターンシップ」制度をゼミの必修とする案が持ち上がっていたのである。同制度が未だ社会的に認知されていない時代、その実現に向けて教務部及び職員スタッフ一体での共同作業が続いた。
 試行錯誤の共同作業の末、その案は「企業実習」の名称で実現。当時、文系大学としては逸早いインターンシップへの取組みであった。その後、地方自治体での公務実習も含めて充実し、現在は単位化され、各学部の特性を生かす形で全学部で実施されている。インターンシップを通じて仕事の実際を知ること、仕事のやりがいや面白さを感じることで参加学生は、希望する業界のイメージが作りやすくなり、キャリア意識向上の効果を得た。
 また、大学人としてキャリアカウンセラー資格も先駆けて取得でき、キャリア理論、キャリアカウンセリングマインドを生かした取組みにチャレンジしてきた。
 その後も、教職員一体となってのキャリア支援は止まることなく加速していった。「どこまでも学生第一」、学生の声を原点にオリジナルなメニューを開発していった。
 まずは就職合宿セミナーの実施(昭和59年)。学生の希望と就職環境に配慮して企業の人事担当者や外部の専門講師を招き、就職活動の仕方、自己表現法、論文・作文指導、模擬面接、集団討論等を実施し、毎回工夫を重ねながら充実させていった。これらを学生に集中して疑似体験してもらうことで、実際の採用選考対策の一助としてもらった。本年で25回を迎える。これまでに数校の大学が見学に訪れ、大学ごとにアレンジを加えて実施されている。
 多くの相談に応ずる中で、自己分析など就職活動期に一般に必要とされる就職情報、実戦的アドバイスは手帳のような形で常時携帯できるようにした方がよいと判断した。これは本学オリジナルの就職手帳という形で実現した(昭和62年)。三年生全員に配布しており、就職活動の不可欠のツールとなっている。実施当初から他大学からの問合せも多く、多数の大学において就職ノート作成の際の見本とされた。
 さらに、今も続く、入社後三年以内に離職する若年層の割合増という社会的傾向(いわゆる「七・五・三問題」)を受け、就職活動を終えた四年生に対しても講座を設けた(平成元年。「社会人としての心構えやマナー」を習得してもらうもの)。キャリア形成をこれで終わりとせず、仕事を通じ、また生涯を通じたキャリア形成意識をもってもらいたいと考えたからである。
 その後に起きたバブル経済崩壊は就職活動にも決定的な影響を与えた。学生相談でも、経済面で就職活動に支障を来す悩みに多く遭遇した。こうした経済変動と学生の状況を背景として、学生が満足のいく就職活動を行い得るように、活動費を援助する目的で就職活動貸付金制度を創設した(平成6年)。
 また、バブル崩壊後の就職活動の厳しさは、まだ活動が本格化していない三年生他、低年次生にも不安と焦燥を与えた。早期の効果的就職指導が必要であった。そこでまず就職活動を直前に控えて不安や焦りを持つ三年生に対して、就職の内定した身近な先輩(就活アドバイザーと名付けた)から就職活動の実体験を直接聞き、アドバイスを受けることのできる機会を提供する相談会を設けることとした(平成14年。就活アドバイザー制度)。
 また、低年次生をも対象として、生涯を通じたキャリア形成の意識を持ったうえで、意欲と自信を持ち就職活動に向かえるように、自己分析法から選考試験対策までを主体的、実践参加的に習得するための講座を、年間を通じて設けることとした(平成15年。キャリアプラン講座)。
 さらに、学生の資格への関心とニーズの高まりを受け、より一層、資格取得の機運を高めるべく、図書カードを贈呈するキャリアアップサポート制度を設けた(平成16年)。
 また、自分「彩」発見セミナーという講座も設けた(平成16年)。ラベルワークとキャリア・カウンセリングとグループワークを通して、興味・関心・能力・価値観を再発見するメニューである。山梨県内のキャリアカウンセラーに協力してもらい、一日コースで本学オリジナルの講座を開発した。参加した一、二年生からは、新たな自分との出会いによって、学生生活の目標、また将来のキャリアビジョンが描けたと好評である。
 さらに、キャリア教育科目として各学科の特性を生かした形での数講座、さらには各学部共通の科目としてキャリア教育の幹となる科目を開発した。キャリア開発で一番大切な自己理解のための「キャリアデザイン」、また、環境理解のための「産業と職業の研究」をコアとして、就職・キャリアセンターが中心となって企画・運営している。
 こうした取組みはいずれも、直接学生と向き合い、実際に就職活動、また日々の勉学や生活に励み、時に躓き、悩む、学生一人ひとりとの対話の中で生まれた。実際に今、学生のキャリア形成を支援し、他大学でも共感され、普及されて、学生の成長、キャリア形成、またキャリア意識啓発のための一助とされていることは幸いである。
 これまでの歩みは、立ち止まることの許されない社会経済変動下における、スタッフ共同での舵取りであり、試行錯誤の連続で駆け抜けた道程であった。今思えば、米国での個人的驚嘆が自身のキャリア形成の一大エポックであり、原点であった。この経験により自身の大学職員としてのキャリアは本当の意味で前方転回し、深化していった。そして、グローバル化の波とIT化、また100年に一度と言われる世界同時不況の激変下で、今も自身、またスタッフ各人のキャリア形成の歩みは続いている。
 本センターには、キャリアカウンセラー、各業界、公務員、資格等のプロフェッショナルがスタッフとして待機している。各人が「学生第一」の理念を共有して専門分野を担当し、先に見た各種対策講座等において自ら講座の講師を務めるなど、その豊かな経験と専門的知識に基づいて、学生各人の個別状況に応じた具体的できめ細かな学習指導アドバイスを行うとともに、スタッフ自身もまた研鑽を続けている。