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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<207>天使大学
他者のために、専門職業人育成
看護と栄養学科  2学科の合同授業実施

「愛をとおして真理へ」が建学の精神である。天使大学(武蔵学学長、北海道札幌市東区)は、1947年に「マリアの宣教者フランシスコ修道会」(本部ローマ)が創立した札幌天使女子厚生専門学校が淵源。看護栄養学部のみの1学部2学科(看護学科と栄養学科)のカトリック系大学。創立以来、延べ1万人以上の看護師、保健師、助産師、管理栄養士を輩出。卒業生は、国内はもとより世界各国で人々の生活支援に貢献する専門職業人として活躍している。日本で唯一の助産師養成のための専門職大学院「助産研究科」を設置、助産師のエキスパートを養成。看護栄養学部の特色を生かし、看護と栄養の両学科の学生が合同で履修する授業がある。①建学の精神とそれを活かした学び②「臨床に強い」独自のカリキュラム③100%の就職率―などが特長。「すべての人を平等に大切にし、その人の立場に立って看護と栄養の職務にあたる職業人を育てること。それが天使大学の誇りであり、アイデンティティです」と語る学長に学園の歩み、改革、これからなどを聞いた。(文中敬称略)

建学の精神「愛をとおして真理へ」

 学長の武蔵が、「マリアの宣教者フランシスコ修道会」について説明した。「1898年、パリ(当時)の修道会本部から7名の修道女が札幌に派遣されました。修道女たちは施療所(現天使病院)を開設し、日夜貧しい人々へ手をさしのべ、病める人々に献身的な看護を行いました。1935年にローマ教皇ピオ11世は、ヨーロッパで高いレベルの看護教育がよい成果をあげたことを称賛し、看護に携わる修道女たちにいっそう看護教育活動に力を入れるよう勧めました」
これを受けて、マリアの宣教者フランシスコ修道会は、札幌と東京で高度な看護教育を始めることを決定。1947年に札幌天使女子厚生専門学校が設立された。この専門学校が天使大学の前身だ。
50年、天使厚生短期大学が設立された。54年、天使厚生短期大学を天使女子短期大学に名称変更。2000年、天使女子短期大学を改組、共学化して天使大学(看護栄養学部)を開設した。
04年、大学院助産研究科(専門職学位課程)を開設。06年、大学院看護栄養学研究科(看護学専攻・栄養管理学専攻)を開設。08年、大学院看護栄養学研究科 栄養管理学専攻博士後期課程を開設。
現在、749人の学生が学ぶ。男女比は、男子が26人と少なく女子が97%を占める。出身地は、札幌市内が7、8割を占め、残りは道内だという。
武蔵は、建学の精神を語った。「建学の精神を、私は『自分の富や名誉のためではなく、他者のために、他者とともに生きること、そこにこそ人の真実の自己実現がある』と理解しています。その実現には、他者のうめきを敏感に捉える鋭い感性と洞察力、冷静に自己を見つめて己に打ち克つ勁(つよ)さが必要です。専門的知識、技術、そして他者に仕えていくための愛をともに学んでいます」
カトリックのミッションを正課と正課外で展開する。「教養科目でキリスト教や聖書を学び、毎週火曜日にアッセンブリー・アワー("集会の時間"の意)を設け、建学の精神を考える機会にしています。正課外では、年に一度の修養会、クリスマスやイースターの集い等でキリストの教えに触れています」
各学科の学び。看護学科は、看護の実践力と豊かな人間性を備えた人材を育成する。4年間を看護師課程に専念して学修するカリキュラムで、理論と実習を相互に行うことによりエビデンスに基づいた、高い看護実践能力を身に付ける。
「キリスト教精神を基盤にした豊かな人間性を育み、充実した看護技術の演習や実習により、看護の実践能力を強化。臨床現場で役立つ、高い看護実践能力を養うカリキュラムを組んでいます」
栄養学科は、食を通して生活へのサポートを自律して実践できる管理栄養士を養成。「臨床に強い」独自のカリキュラムで、実践力を培う。国(厚生労働省)の規定(4週間)を大きく上回る最大9週間の「臨地実習」に取り組める。
「カリキュラムの特徴は臨地実習。3年次から始まり、病院、福祉施設、小学校、保育所、保健センターなどの現場実習体験が可能です。管理栄養士として問題意識を持ち、主体的に考え行動できる能力を養います」
両学科の学生が3年次と4年次に合同で履修する授業。「命を考えたとき、食は切り離せません。医師、看護師、管理栄養士等による保健医療福祉チームが実践されています。多職種との連携で学ぶことによって、こうしたチームの一員としての活躍を期待しています」
3年次の栄養・看護演習。「看護師、管理栄養士の専門性を理解し、実践事例を通して具体的な生活の質の向上をめざした栄養と看護の支援と関係職種の連携・協働について学びます」
4年次の合同特別演習。「臨地現場をフィールドとし、学科混成チームを編成。このチームで健康障がいのある対象者の健康問題に関するアセスメントから計画、実施、評価までの実践を通して学びます」
就職力。両学部とも就職率は100%。「看護学科は、1~3年次に『人間形成とキャリアデザインⅠ・Ⅱ・Ⅲ』、栄養学科は、1年次に『管理栄養士論』をそれぞれ開設、早くから自ら目指す専門職業人としての心構えを育んでいます」
グローバル化も積極的。同大の卒業生の中には海外で活躍する人も多い。「フランシスコ修道会の縁でアフリカのマダガスカルで助産婦として働くOGもいます。国際化・グローバル化に対応できる教養や語学力が求められるなか、希望者を募り、毎年、2週間程度の海外研修を行っている」
「看護学と栄養学における海外の現状を学び、異文化交流を深め、客観的に日本や自分をとらえられるようになることを目的に実施。海外の看護・福祉・給食施設を見学、ホームステイ体験で異文化を理解し、主体性を育てます」
地域貢献活動。同大の専門性を活かして幅広く展開している。地元の東区とは、6月の「天使祭」での地域住民を対象とした血圧測定や食事指導、独居老人宅への訪問や子どもを対象とした食育フェアなどに取り組んでいる。
「天使健康栄養クリニック」は、地域住民が対象で、メタボリックシンドロームの現状調査、啓蒙、予防・改善指導を行い、効果を評価する。「管理栄養士が地域の人たちに食事や運動の指導をして、メタボの改善に努めます。毎年、20人~40人の住民が参加しますが、皆様から喜ばれています」
学生のボランティア活動も活発。「東日本大震災の被災地を訪れての復興支援ボランティアをはじめ、病院等の夏祭りボランティア、フィリピンの子どもたちへの募金、物資の支援等を行う「PEC」など、多くの学生がさまざまなボランティア活動に取り組んでいます」
大学のこれから。「かつて、『知識の北大、技術の札幌医大、心の天使』といわれたように、北海道にあって、健康医療面で天使大学は高い評価を受けていました。建学の精神「愛をとおして真理へ」で言っているのは、苦しんでいる人、弱い人に仕える看護師、管理栄養士を育てるという伝統は、これからも守っていきたい」
具体的には?「小規模な大学として大学院を充実させたい。博士課程は、栄養管理学専攻にはありますが、看護学専攻にも設けたい。現在、新校舎を建設、キャンパスも整備中ですが、図書館や食堂を地元の人に開放するなど地域との連携をより強めていきたい」
こう結んだ。「超高齢社会を迎え、保健医療面では、『患者は病院から在宅へ』が流れになっています。看護、栄養(食)において、この変化に対応できる学生を育てるのが、これからの本学のミッションになります。『愛をとおして真理へ』は永遠なのです」
武蔵の頭からは、「建学の精神」が片時も離れない。