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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<204>山陽学園大学
地域とともに歩む大学
地域マネジメント学部新設 知識や技能を地域で発揮

 教育理念である「愛と奉仕」は、世代から世代へと脈々と伝えられている。山陽学園大学(齊藤育子学長、岡山市中区)は、明治19年(1886年)に岡山基督教会に集う人々の熱意と献身により開設された山陽英和女学校が淵源である。山陽学園大学は、山陽学園短期大学国際教養学科を改組転換して1994年に開学した。当初は女子大学だったが、2009年から男女共学に。現在、総合人間学部、看護学部、本年開設の地域マネジメント学部の3学部を擁する。学園創立以来、教育方針は、知力を高める教育と一人ひとりを大切にする教育を行い、教師と学生が向かい合いながら成長すること。①正規授業で学ぶ就活プロジェクトによる強い就職力②グローバルな学内環境で高める異文化理解③地域貢献活動の実践による地域志向教育―などが特長。「全学部が『愛と奉仕』の精神を基軸として、人間性そのものの鍛錬を究極目的に、多様な教育活動を営んでいます」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

「愛と奉仕」が教育理念

 山陽学園大学を傘下に持つ学校法人山陽学園は現在、幼稚園、中学校、高校、短大、大学、大学院を擁する総合学園である。中学・高校の卒業生に、1964年の東京五輪に高校1年で出場した水泳自由形短距離の故木原美知子や、最近では「楽園のカンヴァス」などで著名な小説家の原田マハがいる。
  1886年、山陽英和女学校創設。98年、山陽高等女学校に改称。1908年、上代 淑(かじろ・よし)が校長に就任。創設期を学長の齊藤育子が語る。
  「山陽学園は、明治初年わが国における女子教育の黎明期に、いち早く地方の先覚者によって創設され、その後、上代淑を教師に迎えました。上代は敬虔なクリスチャンで『愛と奉仕』の精神を携え、その生涯を教育に捧げました」
  上代は米国の最も古い女子大学のひとつマウント・ホリヨーク大学を卒業、日本女子大学創設者の成瀬仁蔵や「孤児の父」といわれた石井十次、実業家で文化事業推進者の大原孫三郎らと深い交わりを持ちながら女子教育の発展に大きな足跡を残した。
  戦後の1947年、学制改革により山陽高等女学校に中学校を設置。48年、山陽女子高等学校、山陽女子中学校と改称。69年、山陽学園短期大学が開学。
  山陽学園大学は、94年、国際文化学部コミュニケーション学科、比較文化学科の1学部2学科で開学。募集学生は女子のみ。
  09年、地域のニーズに応えて看護学部看護学科を新設すると同時に大学、短期大学を男女共学化。併せて、コミュニケーション学部を総合人間学部生活心理学科、言語文化学科へと改組。
  13年、大学院看護学研究科看護学専攻(修士課程)を開設。16年、助産学専攻科を開設。これらにより、看護学分野の教育研究体制が一応の完成をみた。そして本年4月、地域マネジメント学部地域マネジメント学科を開設。「地域と共に歩む本学として、まさに地域を支える人材養成をめざしました」
  現在、3学部4学科に658人の学生が学ぶ。男女比は、男子2割、女子8割と女性が多い。出身地は、岡山県が7割を占め、残りが広島、香川などの周辺県となっている。
  学びでは、専門知識とともに教養科目も重視している。齊藤が教育理念を語る。「教育理念である『愛と奉仕』を体得させようと1年次に「山陽スタンダード」という必修科目を設けています。学長、副学長、地域の識者らが『知的生き方概論』の授業を担当し、『生き方』の基盤となる倫理観などを養う基礎教育を行っています」
  看護学部は、看護学教育に携わってきたベテラン教授陣と最新の医療現場を知る若手教員がきめ細かい講義や実習指導、国家試験対策を行っている。「国家資格の看護師免許取得や教員採用試験などの合格に向けて徹底サポートをしています。看護師と助産師の国家試験は100%合格を達成しました」
  また、看護学部では、学部内に「山陽看護学研究会」を設置。「学部学生・大学院生・教員が共に参画した講演会や研究会等を開催することを通じて看護学の質的向上に努めています」
  総合人間学部(言語文化学科)は、単位修得によって中学校・高等学校の英語・国語教諭一種免許を取得できる。「中学校・高等学校で長く教鞭を執った教員が、各種教員採用試験合格に向けて懇切丁寧に指導しています」
  地域マネジメント学部は、地域づくりやビジネスの基盤となる知識・技能を修得し、実践力を培う科目を充実。「ファイナンシャル・プランナー技能検定の取得をめざしています」
  就職率は100%と好調
  就職率は、100%。インターンシップにも力を入れる。地域マネジメント学部は、3年次に前期300時間の長期実習を実施。「学生が希望する企業や自治体に出かけ、学んだことを確認しさらに深く学びます。地域に学ぶことで、地域で活躍する学生を増やしたい」
  総合人間学部は、中国銀行など金融機関や両備グループ、天満屋などの地元優良企業と連携して学生の進路を広げる授業を展開。「インターンシップを2年次に前倒しして実施。早期から就職を意識したプログラムを行っています」
  グローバル化は積極的。アメリカ、韓国、ニュージーランドなど協定校へ半年から1年間の留学ができる。「総合人間学部は留学支援の助成金制度を設け、海外に飛び出す学生が増えています。夏季・春季休暇などを利用した短期語学研修、異文化理解研修もあります」
  韓国・柳韓大学からのインターンシップや、台湾・中華大学、韓国・柳韓工業高校から日本語・日本文化研修生を受け入れている。「アジアの留学生が多く、キャンパスにいながら異文化交流が可能です」
  地域貢献活動も活発。教育理念として「愛と奉仕の精神を培い、多様性を尊重しつつ新しい価値観を創造して、地域に貢献する人材の育成」を掲げ、教育方針の中で、「地域志向」を明確にしている。
  新設の地域マネジメント学部は、地域のモノやコトを使って、地域をもっと元気にするのがねらい。「例えば、岡山名産の桃を使って、新しい品種の選定、スイーツの開発、観光資源としてのPRといった地域マネジメントの手法を学び、地域産業の発展に貢献したい」
  看護学部は地域重視
  看護学部は、地域が少子高齢化の深刻化といった課題に直面する中での専門人材の育成を担っている。「地域社会において信頼を得るに足りる看護専門職者を育成し、地域の保健・医療・福祉の向上に貢献することが使命です」
  毎月開催する「オレンジカフェ」は、家族に認知症を抱える人が集い、楽しく認知症への理解を深める催し。「看護学部の学生らが、地域の公民館などに出かけ、珈琲を飲みながら予防の折り紙制作などに取り組みます。地域の皆さんに喜ばれています」
  総合人間学部は、都市化が進み社会的ニーズ・課題が多様化し複雑化する地域社会の中で、アイデンティティを確立できる人材を育成。「次世代を担う人材の養成を通じて、社会に貢献することを使命としています」
  大学のこれから。「教育理念である「愛と奉仕」をしっかりと守っていくことが第一です。これがブレない形で社会のためになる改革を進めていきたい」と述べたあと続けた。
  岡山の地で人材育成
  「この地域にある大学として地域とともに歩む大学でありたい。自治体や企業など地域のいろんな人たちの力を借りて、ここ岡山の地でやれる人材育成が大切になる。一緒に活動することで身に付けた知識や技能を地域で発揮し、活かすことが求められている。学生は、地域と関わりを持つことで、自分の愛する地域に戻ってほしい」こう結んだ。「地域とともに歩む大学であり続けたい」繰り返した言葉は、静かだが重く響いた。