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大学は往く 新しい学園像を求めて

<203>名古屋造形大学
充実した「創造の場」目指す
名古屋移転を構想中  「美術教育を見直したい」

 愛知県の美術・デザインの先進私大である。名古屋造形大学(山本理顕学長、愛知県小牧市)は、1967年に愛知県下で初めて設置された芸術系高等教育機関である名古屋造形芸術短期大学が淵源だ。85年に小牧市に移転。50年以上の長い専門教育の実績として社会に貢献できる人材を輩出。名古屋造形芸術大学は、90年に「地域社会の造形に対する期待から、より充実した創造の場」を目指して開学。08年、学校名を「名古屋造形大学」と変更した。①メディアデザインコースの取り組むプロジェクションマッピング②医師と患者のコミュニケーションをデザインの力で改善、解決するプロジェクト③若きアーティストやデザイナーの育成と友好を育む国際交流プロジェクトの「TRANSIT」などが特長。現在、キャンパスを名古屋市内に移転する計画を構想中。「移転によって美しい都市を造ることで地域社会に貢献したい」と語る学長に、学園の歩み、改革、新キャンパス構想などを聞いた。(文中敬称略)

地域ブランド確立に貢献

  名古屋造形大学は、学校法人同朋学園の傘下にある。同法人は、親鸞聖人の教えである「"共なるいのち"を生きる」が建学の精神で、同朋大学、名古屋音楽大学、同朋高等学校、同朋幼稚園の5つの学園を擁する。
  名古屋造形芸術短期大学が、67年、名古屋市内に開学。造形芸術科の1科のみで、日本画、洋画、彫塑、ビジュアルデザイン、プロダクトデザインの6コースだった。
  81年、造形芸術科を2つ(絵画・彫塑専攻、デザイン・工芸専攻)に分離。プロダクトデザインを環境デザインに改称。インテリアデザインコース開設。
  85年、小牧市大草にキャンパス移転。造園デザインコース開設。90年、4年制の名古屋造形芸術大学が開学。1学部(造形芸術学部)2学科(美術学科、デザイン学科)5コース。
  2000年、2学科5コースを、2学科7コースに。03年、名古屋造形芸術大学大学院開設(造形芸術研究科のみ)。06年、造形芸術学部を、2学科9コースに。
  08年、学校名を「名古屋造形大学」と変更。造形芸術学部も造形学部に変更、1学科(造形学科)17コース・クラス編成に改編。現在は、整理・統合を経て全9コースで1学科831人の学生が学ぶ。男女比は男子35%、女子65%で、出身地は東海3県が圧倒的。
  特長であるプロジェクションマッピングは6年前、愛知県犬山市にある明治時代をコンセプトとしたテーマパークである明治村から「"夜"のイベントで新しいエンターテイメントを提供できないか」と相談を受け、実現したのが嚆矢だった。
  「授業では経験できない現場の厳しさや楽しさを経験する事で、デザイナーやクリエイター、アーティストとしての資質を育て、社会に発進する力強さを身につけるのが目的。今後は、さらなる新しい表現を模索し、展開していきたい」
  医師と患者のコミュニケーションをデザインの力で改善、解決するプロジェクトは、メディアデザインコースが担う。医療の現場では、医師が細かく丁寧に紙にペンで絵や文字を書きながら説明しても、患者にとってはわかりにくい。
  「この問題を解決するためにメディアデザインコースでは、国立がん研究センター東病院とともに、医療現場での観察撮影や実験、ツールのためのイラストやアニメーションの制作などを行っています」
  グローバル化は、「TRANSIT」が牽引する。01年、デュッセルドルフ芸術アカデミーと開催した国際交流展で始まった。ドイツのワイマール・バウハウス大学に続きオランダ・アメリカなど欧米を中心とした大学との学生主体による展覧会「TRANSIT」へと発展した。近年はアジア地域に拡大し13大学と共催。
  「展示作品は小さなものから現地で組み立てる大きなもの、その国の環境でしか制作できないものなど様々。パートナーを変えて交流展を開催、外国語でのコミュニケーションを通し、学生達は多くを学んでいきます」
  就職力。就職決定率(平成29年度)は、91.9%。コースによって異なるが、アニメ・CGや建築・インテリアデザイン、ライフデザイン、ジュエリーデザインなどのコースは100%。
  就職支援は、「教育課程内にキャリア関連の科目を必修科目として設け、1年次から3年次にかけて段階的に就職に対する意識付けを行っています。同一法人3大学の専任教員による進路アドバイザーの体制が整えられています」
  地域貢献の取り組みに、「やさしい美術プロジェクト」がある。病院や医療福祉施設における安らぎの環境の創出を通して、地域社会に貢献すると同時に学生の実践的な教育研究。このプロジェクトは、2011年度、愛知県芸術文化選奨新人賞(団体)、13年、グッドデザイン賞を受賞した。
  さらに、各種企業や地方自治体と連携し、ロゴデザインやキャラクターデザインを開発。さらに、各キャラクターを活用したグッズや着ぐるみが制作され、地域ブランドの確立に貢献している。
  「学生は、どんどん地域社会に出ていって活躍してほしい。先生方にも、地域において新しい芸術運動を起こすなど学生とともに地域社会に貢献してほしい」
  学長の山本は、この4月に就任したばかり。東京芸術大大学院美術研究科建築専攻を修了。横浜国立大大学院教授や日本大理工学部特任教授を歴任し、建築設計事務所の山本理顕設計工場(横浜市)を主宰する。
  宮城県岩出山町の岩出山中学校やはこだて未来大学、埼玉県立大学など新しい教育システムを導入するなど、ユニークな学校建築を数多く手掛けている。日本建築学会賞、日本芸術院賞はじめ多数の受賞作品がある。
  名古屋造形大を運営する学校法人同朋学園が、新キャンパス構想を山本氏に相談、協議していく中で、山本自身が学長就任の意思を持つようになった。
  地元紙によると、〈名古屋造形大を運営する同朋学園は、同大を移転するため、名城公園東側にある国有地の取得を目指している。この南側には愛知学院大が名城公園キャンパスを3年前に開設。造形大の移転が実現すれば名城公園東側地域の「大学の街」への変貌が加速しそうだ〉
  首都圏や近畿圏で顕著になっていた、郊外にあった大学が都心に戻る大学の都心回帰が名古屋でも広がりつつあるようだ。
  山本は、「都市は美学だ!」のタイトルで公開シンポジウムを始めた。3月の第1回シンポは、憲法学者の木村草太氏と建築史家の陣内秀信氏を招いて「美しい都市は、住みやすい都市である」をテーマに行った。
  「芸術活動は、都市環境や市民生活に深く関わっています。芸術と都市生活はどうあるべきか、本学が、その理想を目指して、新しい取り組みを始めました」。2回目は6月25日、建築評論家でもあるアンドレ・アラーニャ・コヘーア・ド・ラーゴ駐日ブラジル大使を招いて開催した。
  移転構想の意義を語る。「名古屋は、自動車のトヨタ、JR東海のリニア新幹線、名古屋城のリニューアルなど元気があります。こうした名古屋の都市環境と市民生活とをどう調和させるか、私たちに何ができるのか、美術・デザイン系の大学として地域社会に住む人たちのために快適な環境をつくり、共感を求めることが使命だと考えています」
  移転に際し、学科やコース、教育内容も変えるという。「プロダクト、グラフィック、建築などのデザイン系を含め、絵画、イラストレーション、マンガ、アニメーションなど、今、美術分野はますます細分化され多様化しています。単に社会のニーズに合わせるのではなく、美術教育そのものをもう一度総合的に見直す必要があると私は思っています」
  「移転は、単にキャンパスが移るということでなく、今までの美術教育とは違った、新しい大学をつくる、そうした思いです」。新学長の決意が伝わってくる強い言葉だった。