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大学は往く 新しい学園像を求めて

<182>酪農学園大学
実学重視の全人教育実践
定着した学群制度  創立者(黒澤酉蔵)の教え引き継ぐ

キリスト教の精神に基づく「神を愛し、人を愛し、土を愛する」の「三愛精神」が建学の精神である。酪農学園大学(竹花一成学長、北海道江別市)は、創立者の黒澤酉蔵が唱えた「健土健民」の理念の下、一人ひとりの個性を磨き、身に付けた知識や技術を社会で活かす力をはぐくむ実学重視の全人教育を実践してきた。広大なキャンパスで、酪農を中心とした農学・食品科学・経済学・獣医学・食品流通学・環境共生の研究・教育を行う。2011年、学部体制を廃止し、2学群5学類体制に改編、進みたい分野を見つけてからコースを選択できる。大学ブランドのハムやチーズを製造・販売、附属動物医療センターの診療件数は全国一。「農・食・環境・生命を基軸に、自然との調和の取れた循環農業の維持・発展を図り、人と動物の生命の存続と福祉に貢献できる人材を育てています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

農・食・環境・生命を学ぶ

広大なキャンパスは、農作地や放牧地が多く、緑あふれる。野幌森林公園に隣接、エゾリスやアカゲラなどの野生動物が観察できる。135ヘクタール、東京ドーム28個分以上の敷地は、単独の私立大学としては日本最大。学生は自転車で校内を行き来する。

札幌市中心部から東へ約20キロメートル、札幌駅から最寄りの大麻駅までも快速電車で13分。キャンパス内は、一般人の立ち入りが自由で、犬の散歩や近所の子供たちの遊ぶ光景がみられる。「おらが街の大学です」と学長の竹花が笑う。

創設者の黒澤酉蔵の原点は、足尾鉱毒事件で知られる田中正造との出会いにあった。茨城の貧しい農家に生まれた酉蔵は、16歳のとき、田中正造の知己を得る。竹花が創立者の黒澤を語る。

「黒澤酉蔵は、田中正造の正義感と人間愛に深い感銘を受け、人間にとって国土がいかに大切かを知り、20歳の時、北海道へ。先駆者から牛飼いは『役人に頭を下げなくてもよい』『牛が相手だからウソをつかなくてもよい』『牛乳は人々を健康にする』という『酪農三得』を教わり、一生を酪農に捧げる決心をします。

1909年に牛1頭を借りて念願の酪農自営を果たし、北海道畜牛研究会を結成。酪農家自らが製品を作って売る北海道製酪販売組合(現在の雪印メグミルク)を立ち上げました。

寒冷地農業に必要なのは酪農を軸とした『循環農法』でなければならないとの思いから、『人が育たなければ、酪農が育つわけがない』と、教育の必要性を実感。1933年に酪農学園大学の前身である北海道酪農義塾を開校しました」

北海道酪農義塾は、戦後の1949年、酪農学園大学部(各種学校)となる。50年、酪農学園短期大学が開学。60年、酪農学園大学(酪農学部酪農学科)が開学。62年、農業経済学科を設置。

64年、獣医学科、87年、食品科学科、93年、食品流通学科を設置。95年、獣医学部(獣医学科)を設置。97年、環境システム学部を設置。2004年、環境システム学部に環境マネジメント学科と生命環境学科を設置。

酉蔵の教えは、現在も引き継がれている。「初年次に"酪農学園学"として『黒澤酉蔵と建学の精神』や『酪農学園の歴史と使命』などをテキストに自校教育を実施。教員も先生の考え方を講義に取り入れるなど三愛精神を具現化しています」

11年に2学群5学類体制に改編した。農食環境学群は、循環農学類、食と健康学類(管理栄養士コース含む)、環境共生学類の3学類。獣医学群は、獣医学類、獣医保健看護学類の2学類。

2学群5学類の学び。「学群・学類システムでは、農食環境学群、獣医学群問わず、1年次には全員が基盤教育として共通科目を履修。入学後の1年間は、2年次からの始まる専門の教育への基礎力をじっくりと養います」

農食環境学群は、農・食・環境がテーマ。循環農学類には、酪農や畜産、農業経済を学ぶ4コース。食と健康学類には、食品の持つ栄養や機能、食品開発、流通を学ぶ3コースに加えて、管理栄養士コースの全4コース。

「この2学類の学生を対象に農業科教員を養成するための実践的教育を行う教職コースを設置。環境共生学類には、野生動物、生命環境について学ぶ2つのコースがあり、興味ある科目を履修することもできる柔軟な教育システムです」

獣医学群は、獣医学類と、新たに設置した獣医保健看護学類の2学類。「ともに、生命・自然を尊ぶ豊かな人間性を育み、人と動物の福祉などに具体的に貢献できる人材育成を基本に教育を展開しています」

「獣医学類では獣医学とその関連分野における高度な知識・技術を有した獣医師を養成。獣医保健看護学類では、獣医学に関する基礎知識と動物看護学に関する専門知識を習得して幅広い獣医保健看護業務を担える人材を育成します」

現在、3500人の学生が学ぶ。男女比は、男子55%、女子45%。意外だが、約半数の学生が北海道以外。「都会では、土をいじろうにも土がない。土があり、動物がいて、附属農場がある。土と農業に憧れて本学に来る学生が多いようです」

キャンパス内にあるフィールド教育研究センター。酪農生産、肉畜生産、作物生産の3ステーションを整備。「農・食・生命についての知識と経験を養う"農場実習"の場です。実際に作物を育てて収穫する畑作物栽培実習や、インテリジェント牛舎などで酪農体験を行います」

酪農生産ステーションは、草地・飼料畑74ヘクタール、乳牛170頭を擁し、肉畜生産ステーションは、肉牛・豚・鶏・めん羊・実験子牛を飼養している。作物生産ステーションは、環境制御型のガラスハウス、ビニールハウスなどがある。

入学から卒業まで面倒を見る担任教員制度がある。1年次から基礎ゼミに所属、学生10人に1人の担任教員が付く。「1年次の基礎ゼミでは、学生に開放された畑で野菜などをつくり、収穫祭を行うなど土と農業に親しみます」

学生支援も手厚い。約7割の学生が自宅外通学のため、希望寮(男子)、清温寮(女子)と2つの学生寮がある。「遠隔地出身者が多く、経済的、精神的に安定して学業に専念できるよう、授業料免除や一時給付金、独自奨学金など経済的支援をしています」

「キャリア教育」は、入学と同時に実施。「早い時期から自分の潜在的能力を発見して自己啓発できるようサポートします。入学する学生の目的意識がしっかりしており、学群学類と関連ある企業や団体などに進んでいます」

就職率は97.0%。「かつては、農業や酪農の跡継ぎが結構いましたが、近年は少なくなりました。獣医師国家試験はもちろんですが、食品衛生責任者や管理栄養士、鳥獣管理士といった資格・検定の受検もきめ細かく支援しています」

学生のクラブサークル活動もユニーク。「肉牛研究会は、種付けから肉になるまでを手掛け、中小家畜研究会は羊やミニブタを種付け、出産、出荷まで行い、それぞれ売り上げはサークルの活動資金としています」

地域貢献活動。地元獣医師会と共催の「動物愛護フェスティバル」は、同大が会場で毎年、1万人の入場者を数える。江北地区で開催した「ひまわり迷路」や観光や農業支援で、「ドローン」を使って地域おこしも展開する。

大学のこれから。「少子化という厳しいなか、生き残るには、ステークホルダーの理解を取り付けることだと思います。それは、教員が質の高い教育を施し、学生に知識や技術といった社会で活かす力を付与して送り出すことです。保護者懇談会は、『北海道にきてください』と本学で開催、授業や教員、友人を見てもらって大学の全容を知ってもらいます」

最後は、全人教育に戻った。「学群学類制度は、定着しましたが、もっと基盤教育、教養教育を伸ばしていきたい。『専門家である前に人であれ』、とこれからも言い続けます」