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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<228>大阪保健医療大学
リハビリ医療を社会に還元
高い国家試験合格率 独自の少人数チューター制

 専門知識(学問)、技術(実習)、人間尊重(心)を重視し、きめ細やかで丁寧な実践教育を行う。大阪保健医療大学(福田益和学長、大阪市北区天満)は、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などリハビリテーション医療専門職を育成する。前身の大阪リハビリテーション専門学校を発展させて2009年に開学した。彩都スポーツ医科学研究所を設置、産学連携でスポーツ分野でのリハビリテーションの可能性を探究している。①実務経験豊富な講師陣②医療現場から期待される実力を培う臨床実習の重視③一人ひとりをフォローUPする少人数チューター制度―などが特長。今回は、学長の福田が所用のため副学長の石倉隆が取材に応じてくれた。「社会に開かれた大学を目指し積極的に活動しています。そして、最先端のリハビリテーション医療を社会に還元し続けます」と語る副学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)

社会に開かれた大学めざす

 大阪保健医療大学は、1895年に福田右馬太郎が創設した勤労者を対象に機械製図法を教える私塾、製図夜学館が淵源だ。戦後、大阪製図専門学校から大阪工業技術専門学校となり、1965年、学校法人福田学園を設立、76年、専修学校となる。
 95年、学園創立100周年式典を行い、98年、学校法人福田学園理事会で、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士養成施設の設置が決定。2000年、大阪リハビリテーション専門学校が開校。
 09年、大阪保健医療大学が開学。理学療法学専攻(4年制)、作業療法学専攻(同)、言語聴覚専攻科(大卒2年課程)の3専攻を設置。13年、大阪保健医療大学大学院(保健医療学研究科)を開設した。高い臨床力を有したセラピストの養成が目標で、より高度な未来のリハビリテーション医療を追求しています」
 現在、保健医療学部リハビリテーション学科(理学療法学専攻、作業療法学専攻、言語聴覚専攻科)、大学院(保健医療学研究科)に437人の学生が学ぶ。男女比は男子57%、女子43%。
 石倉が大学を語る。「超高齢社会を迎えたわが国では、加齢による衰えや病気や外傷によって失われた心身の機能を回復させ、社会生活に適応するためのリハビリテーション医療はますます重要視されています。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士はますます、重要な役割を担っています。小さな大学だからできる少人数教育で一人ひとりに目を配り、人間性を伴った臨床力を持ったセラピストを育てています。専門的な知識、技術も重要ですが、それに加えてコミュニケーション力、患者の心を読む力が求められています」
 昨年までは、1年間の授業は前期、後期の2期制で、入門、基礎、応用といった段階的・階層的な学修が難しかった。これを打開するために、昨年からクォーター制を導入した。クォーター制にすることで、科目を段階的に学べるようになった。「基礎を学んだあとに応用が学べることで、学生の間では『理解しやすい』と好評です」
 初年次教育にも力を入れる。初年度の授業が円滑に受けられるよう、入学準備学習を導入。「入学試験の合格者に対して、入学前からE―ラーニングなどを用いた入学準備学習を提供。これによって、入学後の学習がスムーズになります」
 入学直後は、不足した基礎学力を底上げする補習教育を行う。「入学後の講義は、スムーズな学習をサポートするため、不足している基礎学力を補うリメディアル教育を1年次前期に行います。対象者は、新入生オリエンテーションで実施するプレテストで選定されます」
 学びの特長である実務経験豊富な講師陣。「教授陣は、患者に直結した研究、臨床を実践してきた臨床家集団です。これが本学の強みで、患者に資するセラピストを育てるには最適な環境です。教員と学生の関係というより、同じ志をいだき、同じ道を歩む仲間として対等の人間関係を築き、実りある学びを実践しています」
 医療現場から期待される実力を培う臨床実習の重視。「リハビリテーションのスペシャリストを育成するために、臨床を重視。本格的な臨床実習の前に、十分な学習と準備に取り組み、参加学生全員が実習終了後、大きな成果を持ち帰られるように配慮。臨床実習で得た成果と課題をもとにさらに研鑽に励みます」
 独自の少人数チューター制度。学生一人ひとりに目を配り、履修状況を把握し、学生を支援。「一学年につき、複数名のチューターが、授業履修、実習活動、国家試験対策はもちろん、学生生活のことまで、きめ細かくサポート。それらの情報は全教員が共有し、学生一人ひとりをフォローUPしていきます」
 社会人のための大学院(保健医療学研究科)は、各専門領域で生活機能を多角的に洞察できる高度専門職を育てる。「脳神経疾患身体障害支援学領域の研究科プログラムが文部科学省の職業実践力育成プログラム(BP)に認定されました」

スポーツ医科学研設置

 彩都スポーツ医科学研究所は、リハビリテーションの重要なテーマの一つである、スポーツ傷害の予防・治療を研究。スポーツをモデルに、最新設備を利用して人の動きを解析・究明し、運動器リハビリテーションの実践に反映させる。
 「研究の成果を、病態の解析、リハビリテーション治療の開発、健康増進プログラムの開発などにつなげ、社会に貢献することを目指しています」

充実の国家試験対策

 就職率は、100%。高い国家試験合格率(2018年度)。理学療法士は100%、作業療法士は62・9%。言語聴覚士は100%で、18年連続全国1位。1年次からスタートする充実した支援体制が国家試験合格に結び付いているという。
 「資格を取っても、就職1年目に患者が診られるセラピストは少ないのが現状です。本学では、高い臨床力を有したセラピストを育成することで、資格取得後、仕事に就いてすぐに患者を診られるようになることを目指しています」
 「国家資格以外にも、初級・中級障がい者スポーツ指導員、社会福祉主事任用資格、福祉住環境コーディネーターなどの関連資格取得に応じた講義を開講、ダブル・トリプルライセンスで活躍することもできます」
 社会貢献活動は独自色がある。定期的に開く公開講座は、健やかな毎日の送り方や、安全なスポーツの楽しみ方、障がいのある人々の社会生活などについて考察を深められる。「毎回、興味深い内容ばかりで、学内外から多くの参加者を集めています」
 知的障がいのある人々とそれを支える人たちが元気になるスポーツイベントを開発するプロジェクトを行う。「学生たちは一緒にチームに加わり、知的障がい者チームと対戦したり、障がい者の選手のメディカルチェックに協力するなど、さまざまな形でサポートしています」

海外ボランティア活動

 国際的な活動として、カンボジアスタディツアーを実践する。専攻に関係なく、希望者全員が参加できる海外でのボランティア実習。児童養護施設の子どもたちとのサッカー大会など、海外の福祉の現場を体験する。
 「各自が学んでいる理学療法や作業療法の観点で、どのような支援ができるかを自分たちで考え、実行します。国際化が進む中、セラピストとしての視野を広げる絶好の機会となります」

医療の質を高めたい

 大学のこれから。「18歳人口の減少に対する対応、大学の生き残り対策も必要ですが、まずは、リハビリテーション教育を通して医療の質を高めるのが先ではないかと考えています。いま、医療は、急速に発展、知識・技術も高度化しています。これに対して、リハビリテーション医療専門職のレベルは決して十分といえるものではないと思っています。昨年から導入したクォーター制をはじめとする教育改革における医学教育の成果を確認し、急速に発展する医療に対応できる教育システム、その成果としての高い臨床力を持ったセラピストの輩出が喫緊の課題です」
 具体的には?「高度化・細分化するリハビリテーション医療ですが、対象となる患者は1人です。理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が力を合わせて1人の患者にリハビリテーションを実施する。その意味では、リハビリテーション学として学ぶことが重要であると考えています」。留まることのない不断な改革を力強く語った。