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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<178>東邦音楽大学
世界に通じる音楽人養成
キャリア教育に傾注 全学生が「ウィーン留学」

 「音楽芸術研鑽の一貫教育を通じ、情操豊かな人格形成を目途とする」が建学の精神である。東邦音楽大学(三室戸東光理事長・学長、埼玉県川越市)は、1938年、三室戸為光が設立した東邦音楽学校が淵源である。中学校から、大学院、研究所などを擁する学校法人三室戸学園が運営する。創設以来、少人数制の「One to One」教育、学生一人ひとりの顔が見える教育を施し、有意な人材を社会に送り出してきた。2014年、演奏家コースと教職特設コースを新設し、2017年には同コースをより専門性を高めた専攻としてKonzertfach(演奏専攻)、教職実践専攻に再編するなど改革を断行してきた。3年次にはすべての学生が短期留学する「ウィーン研修」を実施。「音楽家としてはもちろん、多様な分野で活躍できるグローバル人材を養成すべく、キャリア教育に傾注しています」と語る学長に学園の歩み、改革、これからを聞いた。(文中敬称略)

音楽芸術研鑽の一貫教育 情操豊かな人格形成

 東邦音楽大学は、1934年、東京高等音楽学院(国立音楽大学の前身)院長だった三室戸敬光が、豊島区西巣鴨に東京高等音楽学院大塚分教場を開設。38年に三室戸為光が同分教場を継承、校名を東邦音楽学校と改称、為光が初代校長に就任した。
 学長の三室戸が説明する。「東邦音楽学校は、全国唯一の昼夜二部制の音楽学校として開学しました。翌1939年に小石川区(現在の文京区大塚上町)に校舎が落成。豊島区から現在の文京区に移転しました」
1951年、東邦音楽短期大学が文京区に開学。4年制の東邦音楽大学は、65年、埼玉県川越市に開学した。「建学の精神を実践するために、①一貫教育の実践、②少人数制による教育、③国際化の推進、④地域社会との交流の4つを教育の柱に掲げています」
 文京キャンパスには、東邦音楽短期大学、大学院、東邦音楽大学附属東邦中学校・高校がある。川越キャンパスには、大学と東邦音楽大学附属東邦第二高校がある。広く美しい川越キャンパスは、TVドラマなどの撮影に使われている。
 2000年に音楽療法専攻を開設、2010年に作曲専攻を音楽創造専攻に改め、作曲コースに加え、メディアデザインコースを新設した。
「音楽療法専攻は、音楽の効用を心身の健康、認知症予防、リハビリなどに役立てる音楽療法を学びます。現場実習も三,四年次に五〇回程度行います。介護施設や特別支援学校で働く卒業生も少なくありません」
現在、ピアノ専攻、声楽専攻、管弦打楽器専攻、音楽創造専攻(メディアデザインコース、作曲コース)、音楽療法専攻、Konzertfach(演奏専攻)、教職実践専攻の7専攻で、男女比は男子3、女子7で、出身地は東京都、埼玉県を中心に首都圏が圧倒的。
 Konzertfach(演奏専攻)は、「半年に1回、4年間で8回、合計80日間にわたるウィーン特別研修を実施し、世界の第一線で活躍できる音楽家の輩出を目指しています。
教職実践専攻は、2年次から地元の小・中・高校でのインターンシップを導入。「教職特別講座、教育総合科目があり、さまざまな教育現場の体験、音楽教員に必要不可欠な技術と知識の習得、教員採用試験対策の徹底を図っています」
 教育改革。2014年から、学生の学習に対する意識改革と学習意欲を喚起するため、セメスター制、GPA制度、キャップ制を取り入れた。15年には、全教員がオフィスアワーを設け、履修系統図(カリキュラムマップ)を導入した。
「社会の要請に応えた教育改革を推進するため、学長をリーダーシップとする教育改革推進会議、FD委員会、教学IR推進委員会等を立ち上げました。15年度には、文部科学省の私立大学等改革総合支援事業に採択されました」
特色である「One to One教育」。「学生個々のパーソナリティと能力を見極め、学生が早く目標に到達する方法を提示し、達成感を感じさせます。レベルに合わせてクラス分けし、1クラスは多くても20人です」
このOne to One教育を具現化したのが、「東邦スタンダード」。大学1年から4年まで、クラス担任が授業を行う。この授業は音楽実技教員が担当し、一人の学生を、専攻を超えた複数の教員が指導する同大独自の教育システム。
 「社会に出て活躍できる音楽人、社会人として必要な教養やスキル、キャリア形成力を育成します。コミュニケーション力やグループワーク力が身につき、本学の学生が欲しい、という企業からのお話もあります」
キャリア支援。卒業後の進路は、音楽関係の職業のほか一般企業でも多くの卒業生が活躍。求人情報の提供だけでなく、専任の担当者が希望や悩み・質問などにきめ細かくアドバイス。学生自身でキャリア設計ができるようサポートする。
 「自衛隊による音楽隊募集説明会、就職活動に役立つマナー実践講座などを開催。インターンシップを積極的に推進し、修了者には単位を付与します。平成28年度の就職率は95%で、音楽療法専攻にいたっては100%です」
 グローバル化は、「ウィーン研修」と卒業年次ごとの海外での「卒業演奏旅行」が牽引する。
 ウィーン研修は、すべての専攻・コースの学生全員が3年次に15日間、オーストリア・ウィーン市に設置した「東邦ウィーンアカデミー(TOHOウィーンキャンパス)」に短期留学する。渡航費、授業・レッスン受講費、宿泊費、食費等の費用は授業料に組み込まれている。
 東邦ウィーンアカデミーは、1991年、ウィーン市に海外研修施設として設置。2001年、開設10周年を機にマリア・テレジアの夏の離宮「シェーンブルン宮殿」に隣接するマキシンガーシュトラッセに移転した。
「海外の音楽セミナーをホテルに滞在しながら受講し、観光もする研修とは異なり、音楽学修環境の整った施設で、ウィーンフィルハーモニー等の団員、国立ウィーン音楽大学教授等、著名な演奏家、教育者がレッスン、授業を行っています」
地域貢献は、音楽を通じた地域社会との交流。中学生・高校生の個人演奏レベルの向上と管弦打楽器の普及啓蒙を図るための「日本管弦打楽器ソロ・コンテスト」を開催。ふじみ野市の小・中学校や病院、福祉施設などではボランティアの演奏活動を行っている。
こうした地域貢献活動が認められ、文部科学省が実施する「私立大学等改革総合支援事業」(平成27年度、平成28年度)の対象校に選定、女性の国際ボランティア奉仕組織「国際ソロプチミスト埼玉」の「シグマソサエティ」にも認定された。
同大は、2018年に学園創立80周年を迎える。2年後の2020年には東京オリンピック・パラリンピックが開催される。「これを契機に、芸術文化の振興と持続的な発展や国際展開などの推進を目的とした活動にも取り組んでいきたい」と抱負を語った。
大学のこれから。「18歳人口の減少で、音楽大学はクラシックだけでいいのか、という声も出ています。リベラル・アーツなどを取り入れた音楽総合のような専攻の開設も考えています。東邦音楽短大には、ピアノやギターなどの楽器をやりたいと入ってくる社会人もいます。ジャズや伝統音楽などを取り込むことも視野に入れています」
こう結んだ。「Konzertfach(演奏専攻)は、昨年初めて卒業生を送り出しました。これからも、コンチェルト(協奏曲・独奏楽器と管弦楽によって演奏される器楽曲)を奏で、世界に羽ばたいてほしい」。
世界に通じる音楽人養成という三室戸学園創設の志は揺ぎない。