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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<112>常葉大学
 3大学統合で受験者大幅増
 教育研究の向上 運営の効率化 スケールメリット生かす

 「知徳兼備」「未来志向」「地域貢献」の3つを教育理念に掲げる。常葉大学(西頭徳三学長、静岡市葵区瀬名)は、2013年、常葉学園大学・浜松大学・富士常葉大学の3大学を統合、10学部19学科からなる総合大学に発展した。学校法人常葉学園が1980年に常葉学園大学、88年に浜松大学、2000年に富士常葉大学を開学、統合と同時に名称変更した。統合のスケールメリットを生かした教育研究の質の向上や大学運営の効率化、3大学のネットワークによる就職支援強化などにつながった。さらに、総合大学になった利点などがステークホルダーの理解を得て受験生数は統合前を大きく上回った。「統合は、学部の数が増えただけでは意味がない。いろいろな分野の学びが学部を越えてつながることで、いままでにない新しいアイデアが生まれ、挑戦できることが増えるはず」と語る学長に学園の歩み、統合の意義や効果、大学のこれからなどを尋ねた。
(文中敬称略)

10学部19学科の総合大学に

 3大学の統合効果は、数字に、はっきり見てとれる。学生の応募数は、統合前の2012年は4263人(3大学の合計)だったが、統合後の2014年は1万7278人となった。
 統合効果を生んだ要因は?「スケールメリットもありますが、3つに分散されていたのが1つになって、10学部、19学科の総合大学になり、ネームバリューも上がりました。常葉という大きな傘の下にバランスの取れた学部学科が入ったことがステークホルダーの気持をつかんだのではないでしょうか」
 常葉大学の「常葉」は、創立者の木宮泰彦が、「万葉集」にある聖武天皇の御製、「橘は実さへ花さへその葉さへ枝に霜ふれどいや常葉の樹」に因み、学園の理想の姿を橘に託した。
 学長の西頭が解説する。「霜雪に耐えてつねに青々とした葉を繁らせ、純白で香り高い花を咲かせ、豊かな黄金の実を結ぶ橘こそは、常葉学園の教育理念の象徴です。この精神を踏まえつつ、時代の変化に対応し、かつ地域社会の需要に応えていきたい」
 続けて、統合した大学を語った。「3つの個性ある大学が統合したことで、新しい教育が可能になりました。地域社会をキャンパスにした体験型の授業の展開、将来のキャリア教育や地域貢献を見据えたカリキュラム改革にも着手しました。学びの視点を空間軸、時間軸ともに広げていくことで、学生1人ひとりの可能性も広がります」
 常葉大学は、歴史学者、教育者で旧制静岡高校教授だった常葉学園の創立者、木宮泰彦が1946年に静岡浅間神社北回廊を仮校舎として創立した静岡女子高等学院が淵源である。
 1980年、常葉学園大学が教育学部(初等教育課程)1学部で開学。84年、外国語学部を開設。88年、常葉学園浜松大学(経営情報学部・環境防災学部)が開学。90年、常葉学園富士短期大学(商学科、国際教養科)が開学。
 2000年、同短期大学を改組し、富士常葉大学(流通経済学部)が開学。02年、常葉学園大学に造形学部、05年、浜松大学に健康プロデュース学部、別科に留学生別科をそれぞれ開設。06年、富士常葉大学に保育学部、09年、浜松大学に保健医療学部を開設した。
 次々と学部・大学を設立したのは?「前理事長の木宮和彦先生には、将来は総合大学にしたいという思いがありました。時代のニーズに応え、地域に貢献できる大学・学部を設立しました。浜松大学は浜松市、富士常葉大学は富士市とそれぞれ地元の要請も強くありました」
 2013年の3大学統合と同時に、法学部と健康科学部を静岡市の中心地に新設。これが、静岡キャンパス水落校舎(静岡市葵区水落町)である。
 統合はいつごろから考えていたのか?「3つの大学はずっと競い合ってきましたが、前理事長の木宮和彦先生は10年前から“3本の矢”の発想で統合を構想していました。木宮健二現理事長が2010年から本格的検討に入り、同年暮れの理事会で、常葉学園大に法学部を新設するのを機に統合が決まりました」
 統合の効果について。「統合でめざしたのは、地域社会の人的基盤を支え、地域経済の牽引車になるといった使命を果たすことです。運営面では、集中と選択が実現してウェブやパンフの一本化など効率化が進みました。教育・社会貢献の面でも、それらの活動が生み出す機能がひとつのシステムとして運営出来るようになりました」
 静岡県全域にまたがって3キャンパス4校舎がある。静岡キャンパスの瀬名校舎(葵区瀬名)は、教育学部、外国語学部、造形学部。浜松キャンパス(浜松市北区)は、経営学部、健康プロデュース学部、保健医療学部、富士キャンパス(富士市大淵)は、経営学部、社会環境学部、保育学部がある。
 現在、3キャンパスに6250人の学生が学ぶ。3キャンパスの特徴を語った。「静岡の瀬名校舎は、教員養成など教育がメインで、水落校舎の法学部は静岡県内の大学では初の法学部。自動車や楽器メーカーなどがある浜松は経営情報系、富士は環境・経済系というイメージがあります」
 教育・研究について。「教育力ある大学づくりを目標に、教育情報力の強化をめざした入学センターを設置、入試広報の全学的支援を実現。現在、教育の質をさらに高めるためカリキュラム改革を行っています。キャリア教育の強化とともに、地域とのつながりを重視、地域改革ができる学生を育てるのがねらいです」

教員公務員に強い就職

 就職では、教員合格者数130名、公務員合格者数44名(2013年3月卒業生実績)が強み。「3キャンパスにキャリアサポートセンターを設置。すべてのキャンパスの学生が、3地域の企業の就職情報を利用できるようになり、業界研究や職業選択の幅が広がりました。同センターとキャリアアドバイザーのきめ細やかな指導で、実践力を養い、学生の希望に沿った就職をめざしています」
 同大の学生は九割が静岡県出身で、卒業生の大半が県内に就職する。

静岡経済の発展に寄与

「今後とも、地域密着型大学として人材面から静岡経済の発展に寄与していくのはもちろんですが、産業構造の転換にも対応して県外や世界も視野に入れていきたい」
 グローバル化について。「静岡キャンパスの外国語学部が学生の留学、富士、浜松キャンパスは留学生の受け入れに力を入れています。統合の際、全学的な国際交流委員会を設置、国際的視野を広める教育に傾注しています」
 地域貢献について。「総合大学として、教育研究の質の向上をめざすと同時に、地域社会から求められている人材の育成に応えるため、ボランティア活動を含め地域社会への貢献にも努めています」
 3キャンパスの個性が発揮される。静岡では、大学が支援する「ま・あ・る支援支隊」が子どもたちを対象とした学習支援、浜松では、天浜線の駅名が常葉大学前駅に変更されたのを機に沿線の環境美化プロジェクト、富士では、富士山を知り、守る「富士山学習」を展開している。

教育の質を高めたい

 統合後の大学のこれからについて。「教育の原点に戻ることだと思います。それは、教育の質を高めることで、これはカリキュラム改革で実現したい。現代の日本に一番欠けているのは、『創造力』です。創造力の源泉は、対話にあります。社会や教員と対等に対話し、自分の意見を言える人材を育てたい。同時に、地域密着型の大学として、地域貢献ができる有能な人材を地域社会で育成することです」
 西頭のめざす大学のかたちは、教育の質の向上、創造力の育成、地域密着型という3つの言葉に収斂されていた。