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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<98>埼玉医科大学
 教育目標「すぐれた医療人」育成 
 患者中心の医療実践

「すぐれた医療人」の育成が教育目標である。埼玉医科大学(別所正美学長、埼玉県入間郡毛呂山町)は、1972年に開学、地域医療を担う第一線病院を原点に、患者中心の医療を実践してきた。そのための教育環境の整備、教育カリキュラムの改善、教職員の資質向上などの改革を断行してきた。6年一貫統合カリキュラムの推進や、診療参加型臨床実習、学生による授業評価の実施、授業収録システムの運用といった医学教育の改革は特筆される。こうした改革によって現役卒業者の医師国家試験合格率は年々上昇、2003年は100%を記録、その後も高率で推移している。大学病院は、使命である教育、診療及び研究にも力を入れ、優れた医療人育成を目指すだけでなく、最新鋭の医療機器を設置、多様化する患者へ高度な医療を提供している。学園の歩み、改革、医師不足や高齢化社会における医療、そして大学のこれから、などを学長に聞いた。(文中敬称略)

医学教育改革続く 地域医療担う第一線病院

 埼玉医大は埼玉西部の毛呂山町を中心に点在する大学附属病院、短期大学、看護専門学校などで埼玉医大グループを形成。稼働病床数は3400床、約6700人の教職員、約3000人の学生がいる。さながら埼玉医大城下町のよう。
 1892年に設立された毛呂病院が淵源である。毛呂病院は精神科の病院としてスタート。その後、県西部の医療を担う総合病院に発展、同医大の設立母体となった。開学時、県内には医学部が存在しなかった。
 建学の理念は、「生命への深い愛情と理解と奉仕に生きるすぐれた実地臨床医家の育成。自らが考え、求め、努め、以って自らの成長を主体的に展開し得る人間の育成。師弟同行の学風の育成」である。
 学長の別所が設立の趣旨を語った。「福祉社会の実現に寄与できる、人類愛に燃え、豊かな人間性と幅広い知性に裏付けられた、高度な医学知識と医療技術を身につけた地域医療に関心をもつ優れた医療人および医学研究者の養成にあります」
 大学の現在(いま)を続けた。「少子高齢化が進行し、医師不足、医師および診療科の偏在などの問題も指摘されています。『埼玉医科大学の期待する医療人像』に描かれた『すぐれた医療人』となって保健・医療・福祉の分野で活躍し、社会に貢献する意欲のある学生を受け入れ、教育目標に掲げた医師および保健医療技術者を育て社会に送り出して、保健・医療・福祉の発展に寄与したい」
 開学と同時に埼玉医科大学病院、1985年、総合医療センターが開院。89年、埼玉医科大学短期大学(看護学科、臨床検査学科)が開学。2006年、保健医療学部を設置。07年、国際医療センターが開院した。
 現在、医学部(医学科)に746人、保健医療学部(看護学科、健康医療科学科、医用生体工学科、理学療法学科)に1019人の学生が学ぶ。医学部では近年、女子が増えている。
 キャンパスは4つ。毛呂山町に医学部・大学院・短期大学・大学病院、日高(埼玉県日高市)に保健医療学部(理学療法学科を除く)・ゲノム医学研究センター・国際医療センター、川角キャンパス(毛呂山町川角)に保健医療学部理学療法学科、川越に総合医療センター・看護専門学校がある。
 3つある附属病院のひとつ、総合医療センター(999床)は、地上10階、地下2階で、最新鋭の医療機器を設置。診療科目は36診療科からなり、外来患者数は1日約2100人と地域の基幹病院となっている。

ドクターヘリも活躍

 1999年に厚生省から高度救命救急センターの指定を受けた。2000年、総合周産期母子医療センターを開設、07年には県からドクターヘリ基地病院の指定も受けた。救急医療でも県民に大きく貢献している。
 また、国際医療センター(700床)は、①がん②救命救急③心臓疾患の3つの難度の病気診療に当たる。開院6年目の手術実績では、脳血管内治療149件、頭蓋内手術等281件と全国の病院でトップとなっている。
 6年一貫の統合教育
 医学部の学び。コース&ユニット制で総合的に医学を学ぶ。従来の医学部では、内科学、外科学というように、学問体系ごとに学んできた。これを臓器別・系統別に統合し直した「6年一貫・統合教育」が特長だ。
 「医師になり、患者さんに接した際、内科、外科等の学問体系にとらわれることなく、多角的に病める人を診る目を養います。また、増加の一途をたどる医学・医療の知識、臨床医として必要な技能と態度を効率的に習得することが可能です」
 特色あるカリキュラム。課外プログラムは、夏期休暇、春期休暇、放課後などに教員から出されたプログラムに学生が応募、医療の実際や医学研究を体験。アーリーエクスポージャーは、1年次から施設訪問で臨床体験したり、外来初診患者に付添実習する。
 教育環境では、クリッカーを用いた講義が注目だ。「全学生にクリッカーを貸与、出欠はもちろん、教員の授業評価も即時にできます。授業評価は数日で教員にフィードバックされ授業の改善にもつながっています」
 医学部では教育、診療、研究の3つが評価対象になる。「研究は論文などで、診療も患者数などで定量的に評価できますが、教育が難しい。本学は、個々の教員の教育活動実績を定量的に測定、集計、解析するシステムで評価しています」
 大学改革では、2006年、理事長の丸木清浩が示した「本学の新しい管理運営方法」が画期的だ。「経営・管理は法人が当たり責任者は理事長、診療は病院が当たり責任者は病院長、教育研究は、学部・大学院が当たり責任者は学長、というように責任分担が明確になり、組織が引き締まりました」

高い国家試験合格率

 こうしたさまざまな改革が医師国家試験合格率に結びついたようだ。今年度の国家試験合格率は現役卒業者97.1%、全体では93.5%。
 研究は、医学研究センターが中心になって担う。「科学研究費の採択件数、金額とも年を追うごとに増えています。2013年度は120件、2億円に。特許権実施収入は1200万円と医系単科大学では2位、私立大では5位でした」
 2001年に開設したゲノム医学研究センターは日本で唯一のゲノムの研究所。06年、進行性化骨筋炎(FOP)の原因が、遺伝子の異常によるたんぱく質の変異であることを同センターのグループが突き止めた。
 懸案でもある医師不足と03年度からスタートした新臨床研修医制度について。別所は全国医学部長病院長会議会長を務める。「医学部新設はナンセンスな議論。医師過剰にならないため、2019年には医学部定員減が必要になる。」
 新臨床研修医制度についても、「研修医にアンケートや聞き取りを行い、3病院を自由に回れるプログラムをつくるなど改善しています」
 学生は、勉強ばかりでなくサークル活動にも熱心に取り組む。「県内の4大学間連携で、薬学部や工科大学、社会福祉系の学生と一緒に学んでいる学生もいます。専門分野以外のことも学べて視野が広がると張り切っています」
 「21世紀ビジョン会議」(2011年設立)は、理事長の丸木が委員長を務める。「課題の多い時代を乗り越え、創立50周年に向け、21世紀を通じて建学の理念を実現するために何をすべきかを検討する」会議だ。
 同会議が提唱したのが、「日本のメイヨ―クリニックを目指す運動」だ。「メイヨ―クリニックは、本学と同じように米国ミネソタ州の小さな町にある総合病院。患者のニーズを最優先にして、世界中から難病を抱えた患者が訪れることでも知られています」
 別所はこう締めくくった。「少子高齢化が進むなか、医療に介護や保健といった周辺の専門職と連携して地域医療に貢献していきたい。これからも患者中心主義でいきます。意識改革こそが医科大学の生き残る道です」日本のメイヨ―クリニックを目指す運動のスローガンは、「Your Happiness Is Our Happiness」である。