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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<95>いわき明星大学
 グローカルな職業人育成
 大震災を乗り越え東北の未来を創る人材を

 全人教育に基づいた地域社会に貢献できる人材の育成を目指す。1987年創立のいわき明星大学(山崎洋次学長、福島県いわき市)は、薬学部、科学技術学部、人文学部の3学部からなる。薬学部は、問題発見・解決能力のある質の高い薬剤師、科学技術学部は、持続可能な社会の構築に寄与できる技術者、人文学部は、地域社会の発展と安心に貢献できる職業人を送り出してきた。充実した教員陣と施設設備による高い教育の質と、資格取得に直結する「学内スクール」などの就職支援が後押ししてきた。ところが、2011年の東日本大震災による風評被害などで大学運営は大きな影響を受けた。2015年度から科学技術学部の募集を停止、人文学部を教養学部地域教養学科(予定)に改組転換する。地域に根差したグローバルな、「グローカルな職業人」を育成するのが狙いだ。「時代、地域、学生のニーズに応え、東北の未来を創る人材を育てたい」という学長に学園の歩み、震災、改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)

資格取得で就職支援
教養学部を新設へ

 キャンパスは、東北地方の最南端、太平洋を望むいわき市に位置する。白を基調にした建物と緑あふれる自然が調和した美しくて広い学びの園となっている。勉学の環境として最適の立地だ。
 いわき明星大学は学校法人明星学苑が母体で、明星大学(大橋有弘学長、東京都日野市)とは兄妹校である。明星学苑の教育方針は、人格接触による手塩にかける教育、凝念を通じて心の力を鍛える教育、実践躬行の体験教育。
 いわき明星大学は、「和の精神のもと、世界に貢献する人」という建学の精神のもと、1987年、理工学部(基礎理学科、物性学科、電子工学科、機械工学科)と人文学部(日本文学科、英米文学科、社会学科)の2学部で開学。
 2005年に理工学部を改組し科学技術学部を設置。同年、人文学部を表現文化、現代社会、心理の3学科に再構成、大学院に臨床心理学専攻を新設。07年に薬学部を設置。「薬学部は、向学心旺盛な学生に広く門戸を開き、成績優秀な学生を経済面からサポートするスカラシップ入学試験を実施しています」
 10年、科学技術学部の3学科を統合し、4コース制の科学技術学科に改組した。「理工系分野における学習環境ニーズに応えるため、効果的な基礎教育の仕組みを築き、ハード・ソフトの両面から充実した教育環境を整え、きめ細かいサポート体制を作り上げました」
 現在、3学部に1469人の学生が学ぶ。学長の山崎が大学を語る。「総合大学だからこそできる幅広い基礎教育と先進的な専門教育で、学生一人ひとりの夢の実現をサポートし、『本物の力』を身に付けさせたい」
 学部の学び。「人文学部表現文化学科は、日本や欧米文学など言語表現や映像表現を中心に表現者としての人間について、現代社会学科は、国際比較や社会福祉・精神保健福祉及び文化政策など人と人との関係について、心理学科は、認知や発達、心理療法やカウンセリングを中心に人間の心の働きについて学んでいます」
 科学技術学部科学技術学科は、環境エネルギー、生命科学、電子情報、機械システムの4コース。「強く結び付き合っている八つのキーワード(エネルギー、環境、バイオテクノロジー、生物、ネットワーク、コンピュータプログラミング、ものづくり、機械)を通した学びがあります」
 薬学部薬学科。「科学技術の基礎力を身につけ、応用展開力とともに多角的に判断できる能力を育成。地域の医療と健康増進に役立つ、多くの人から感謝される薬剤師を育てるため、その目標を到達できるきめ細かな教育を行っています」
 高い教育の質。薬学部の「イグナイト教育」をあげた。「やる気に火をつける教育です。1、2年次に新聞記事を読んでレポートをまとめたり、アナウンサーや薬害の被害者の話を聞いて発表したり、専門とは別に自ら学ぶ習慣、時間内で自分の意見を言う力を身に着けます」
 こうした初年次教育で薬剤師国家試験の合格率も堅調だ。「1期生の合格率は91.49%と全国8位、北海道・東北ではトップでした。この薬学部のイグナイト教育は、他の学部でも形を変えて実施しています」
 学生一人ひとりの夢を叶えることができる充実したキャリア教育。平成24年度卒業生の就職内定率は、科学技術学部は92.0%、人文学部は82.7%、薬学部は100%。
 資格取得を目的に正課外の学内スクールとして「IMUビジネスカレッジ」がある。「公務員・ビジネス講座基礎編・実戦編」、「PCスキル講座2級・準2級」など5講座を実施、一部のテキスト代を除き、無料で受講できる。

キャリアの専従教員

 「現場経験があり、大学院で学んだキャリア教育の専従教員2人と客員教授2人を採用しました。本学規模の大学では異例で、今後ともキャリア教育に力を入れていきたい。一部上場企業に毎年、数人ずつ入れたい」
 地域貢献活動も活発だ。図書館や学習センターは、市民に開放され、広く利用されている。05年に開設された地域交流館は、1階に「地域交流室」、1~2階に「心理相談センター」、3階には「産学連携研究センター」などがある。地域交流室は、地域の住民に施設を貸し出している。
 2011年3月11日に発生した東日本大震災。山崎が、あの日と現在(いま)を語る。「建物の被害はありませんでしたが、4月に入学予定の仙台と福島の学生2人が津波の犠牲になりました。学生の安否確認に2週間以上かかりました」
 「ひとことでは言えません」と続けた。「校舎の崩壊などがハード面の被害があれば再建はわかりやすいのですが、福島原発に近いという風評で翌年から志願者は激減しました。こうしたソフト面の被害は、予算をかければ解決できるというものではありません」

英、理の小学教員養成

 15年度新設の教養学部地域教養学科。「このままでは(大学の)自立は難しくなると判断して学部の改組転換に踏み切りました。大学のおかれている立場、時代や学生のニーズを踏まえ、グローバルな改革を意識しました。グローバルな人材養成は当然として、活躍の場はローカルになります。グローカルな地域基盤型職業人の育成です。具体的には、英語や理科に強い小学校の教員を養成したい」
 現在、福島県内の三つの県立高校が同大をサテライトキャンパスとして使っている。「大学院など二つの建物を貸しています。高校生を受け入れたことで、本学の学生にも兄さんや姉さんの自覚が生まれたのかな、自分ら何かをしなくては、と勉学やボランティア活動に積極的に取り組むようになりました」
 大学のこれから。「大学で学ぶ意識を高めるため、いままで以上に少人数・演習形式の初年次教育、個々の学生に対応した基礎教育、時代を見据え、地域に根ざし、体験を通して学ぶ専門教育、専門を超えた教養教育に力を入れます。学生一人ひとりの夢を叶えることができるようキャリア教育もより充実させたい」
 昨年7月、15年度の学部再編を発表した明星学苑の吉田元一理事長のコメントの一節。「(東日本大震災と原発事故により)現在もなお厳しい学生確保の状況並びに経営環境が続いているのは事実であります。この環境が直ちに改善するとはいえませんが、本学は、むしろこうした状況や環境であるからこそ、これを乗り越え、地域と共に歩んでいかなければならないと考えています」

大学の使命は地域貢献

 学長の山崎は、吉田理事長の覚悟を代弁するかのように力強く語るのだった。「大学の使命は社会貢献であると考えています。さまざまな活動を通して、いわき地域との交流を図り、地域の発展に寄与し、地域に必要とされる『開かれた大学』として、これからも地域社会と共に歩んでいきたい」