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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<85>地域社会の要請に応える
 丁寧な学生支援 高い就職率と英語教育
 茨城キリスト教大学

 建学以来、キリスト教の精神に基づいた人間形成を行ってきた。茨城キリスト教大学(小松美穂子学長、茨城県日立市大みか町)は、戦後、日立市及び周辺のクリスチャンとアメリカ人キリスト教宣教師たちが設立したシオンカレッジが淵源だ。1967年、文学部のみの単科大学としてスタート。その後、生活科学部、看護学部、経営学部を開設、現在は4学部7学科の総合大学に発展した。教職員は、「顔の見えるサポート」で丁寧な学生支援を行っている。一人ひとりの希望や学科の学びにあわせ、就職活動を着実にサポートし、高い就職率を誇る。英語教育に力を入れ、多様な留学制度に基づく国際交流も盛んだ。「本学の教育理念『隣人愛』は、学生が主体的に人と関わる中で、自らを振り返り『ともに生きる』喜びと『謙虚さ』を知ることにあります」と話す学長に学園の歩みと改革、これからを聞いた。
(文中敬称略)

ともに生きる謙虚さを知る
教育理念は「隣人愛」

 キャンパスが広くて綺麗だ。約18haの広大な面積を誇る。幼・中・高・大・院の校舎が立ち並ぶ。以前は日立製作所所有のゴルフ場「大みか倶楽部」の敷地で、キャンパスには、大きな松の木や芝生が広がる。
 茨城キリスト教大学は、1949年に設立されたシオンカレッジが前身である。1950年、シオンカレッジを茨城キリスト教短期大学に改編。1967年、大学文学部を設置し、4年制大学としてスタートした。
 2000年に生活科学部、04年に看護学部、11年には経営学部を開設し、現在は4学7学科に、2400人の学生が学ぶ。男女比は女子7、男子3、出身は茨城県内が9割を占める。
 学長の小松が大学を語る。「教育理念は、キリスト教の精神に基づき、謙虚に真理を追究し、公正を尊び、真の隣人愛をもって人と社会に進んで奉仕し、人類の福祉と世界の平和に貢献する人間の育成が目的です」
 キリスト教概論は必修である。「『ともに生きる』をキーワードに、現在、教養科目の見直しを行っています。カリキュラムも変え、『隣人愛』という建学の理念を中核にして心身ともに豊かな市民になるための教育を施したい」
 2000年から生活科学部、看護学部、経営学部と新学部を相次いで開設したのは?「生活科学部は、短大の廃止再編に伴い、生活に密着した学部として専門性を重視して設置。看護学部は、県北の看護師養成という地域の要請があり、経営学部は、グローバル時代を迎え、経営を学ぶべきという地元の要望に応えました」
 各学部の学び。文学部は、文化交流学科、児童教育学科(児童教育専攻、幼児保育専攻)、現代英語学科。「Unity and Diversity(統一性と多様性)、各学科・専攻が個性的な教育内容を備え、進路もさまざまですが、『自己と他者との関わりにおいて相互理解をめざす』という共通の教育目標を掲げています」
 生活科学部は、心理福祉学科と食物健康科学科。「心理福祉学科は、心理と福祉のスペシャリスト育成をめざします。食物健康科学科は、現代日本における食生活の社会ニーズに沿ってカリキュラムの変更・充実をはかり、より地域に貢献できる管理栄養士の養成をめざします」
 看護学部(看護学科)は、人々をより健康にするためのケアについて学び、看護師や保健師、養護教諭をめざす。「専門的知識を修得し、質の高い看護を提供するための実践力を身につけます。人の生命に寄り添う看護は、さまざまな状況におかれた人々について理解しなければなりません」
 経営学部は、①幅広い豊かな教養・倫理観と専門教育とのバランスがとれた教育②就職を意識した早期のキャリア教育③個別指導が可能な少人数教育という三つの教育を重視。「行動力を高めるリーダーシップ開発、実務家による講義など理論と実務を融合した学び、簿記検定試験など課外講座も実施しています」
 就職力。『就職に強い大学2014』(読売新聞社発行)で、2013年就職率私立大学全国39位(県内大学中第1位)にランクされた。学生のメンタル面までをきめ細かくサポートするキャリア支援センターが、その実績を支えている。
 「キャリア支援センターには、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーがおり、職員7人が各学科を担当、就職以外のことまでフォローしています。教職指導室や公務員試験対策室を設けて、学生の進路ごとに個別の支援も行っています」
 国際交流に力入れる
 国際交流のプログラムは多彩だ。「交換留学、海外語学研修、海外文化研修など、自分に合った留学制度を選べるのが特徴です。留学以外にも、バディ(学友)制度など、キャンパスでの国際交流と理解にも力を入れています」
 前身のシオンカレッジ以来、「シオンの英語」と言われ、OBOGには英語教員も多い。「話せる英語に力を入れ、米ハワイ大学と英語研修プログラムで連携、この夏には学生と地域の公立中・高教員が学んできました。今後、県とも提携して強化したい」

社会・地域貢献も活発

 社会・地域貢献も特色がある。「東日本大震災のつらい体験は私たちに自然との共存、他者へのやさしさ、そしてこの苦難を乗り越える強い精神力の必要性を教えてくれました。このことはまさに大学における使命であります」という小松の言葉に象徴される。
 「3.11では、福島にも近いこともあって、大学の責任として支援してきました。学生のボランティア活動も学生課が窓口になって積極的に行っています。ボランティア活動の単位化も視野に入れています」
 地域貢献も積極的だ。「本学は、地域で生かされてきたと言っても過言ではありません。日立市などと連携協定を結び、学生が市の活性化プランを立てたり、生活科学部の教員が地域の住民の栄養改善などに取り組んでいます」
 大学のこれからについて。現在、中期経営計画(2012年~2016年)の途上にある。小松は、まず、中期経営計画について説明した。
 「教学面では、教育の質をどう高めていくかがポイントです。全学的に、それぞれの部署で目標を立て、具体策を実行して進捗状況を把握。成果を出すよう、教職員が一体になり話し合いながら行動に移しています」
 具体的には?「ひとつは、先に述べた教養教育の充実で、来春、全学教養課程センターを発足させ、建学の理念をカリキュラムにいれる作業を行います。また、教育研究の外部資金の調達のための教育研究センターを立ち上げ、調達が容易に着実に行われるようにしたい」
 少子化、大学全入という大学にとって厳しい時代に、どう立ち向かいますか?

教育の質を高めたい

 「キリスト教精神という教育理念を中核に、これからも伝統と文化を大切にしつつ、地域社会からの要請に応える教育機関として努力していきたい。それには、高校生や保護者の理解を得るため教育の質を高めていく必要があります。そして、これまで以上に入口から出口まで学生支援を充実させなくてはなりません。地域の大学としてグローバル化への対応も怠ってはいけません」
 小松は最後に、再び、建学の理念に戻るのだった。「教育理念の根底をなすキリスト教の精神は『隣人愛』に集約されます。人々に対して、世界に対して、よき隣人になること、そうした人間を育てていきたい」。噛みしめるように、付け加えた。「これまでも、これからも」