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大学は往く 新しい学園像を求めて

<77>北東北の知の拠点に
 工学部と感性デザイン学部 在学中の資格取得支援
 八戸工業大学

 建学の精神は、「正己以格物」(己を正し以って物に格る)で、教育理念は、「良き技術は、良き人格から生まれる」である。八戸工業大学(藤田成隆学長、青森県八戸市)は、北東北で唯一の私立理工系大学。1972年の開設時は工学部のみだったが、建設環境・建築系の学科を次々に新設、現在では全国でも珍しい学部名の感性デザイン学部(2005年設置)との2学部体制に。工学部の教育プログラムは技術者教育の国際水準を認定する日本技術者教育認定機構(JABEE)の基準に沿って設計、工学部の全学科の5コースがJABEE基準に達していると認定。教育の内容と質、教育方法ともに保証されている。在学中の資格取得を支援するなど就職活動に力を入れ、就職率も高い。「北東北における人材育成、産学官金連携事業の知の拠点として、その役割を果たしたい」という学長に、これまでの大学の歩みと改革、今後を聞いた。
(文中敬称略)

JABEE基準に認定
保証された教育の質

 八戸工業大学の淵源は、1956年に開校した八戸高等電波学校である。同校は、無線通信技術者の養成を急務とする地域社会の強い要望があったことを受けて、社会の負託と時代の要請に応えることが目的だった。
 八戸工業大学は、1972年、工学部(機械工学科・産業機械工学科・電気工学科)1学部で開学した。95年、大学院工学研究科修士課程(機械システム工学専攻,電気電子工学専攻,土木工学専攻)を設置。
 2005年、感性デザイン学部(感性デザイン学科)を設置する。感性デザイン学部設置は、「デザインについて地域産業界からニーズもあったし、文化系学部の開設で女子学生の入学者を増やしたいということもありました」
 現在2学部に1192人の学生が学ぶ。出身地は青森が7割で、東北地方で9割を占める。男女比は、感性デザイン学部は男女半々だが、全体で女子が占める割合は12%。「女子をもっと増やしたいし、出身地では東北以外を増やしたい」
 学長の藤田が建学の精神について語る。「正己以格物とは、儒教の根本精神を表した四書五経の一つ『大学』に拠るもので、物の道理をよく見極め、広く知識を求め、社会における自己の役割が如何なるものかを、深く認識し、高い倫理性をもって行動することの重要性を説いています。
 本学は『良き技術は、良き人格から生まれる』という教育理念を掲げています。専門知識とともに豊かな人間性と確かな判断力をもち、地域社会の発展に寄与する、良き職業人を養成したい」
 教育の特徴を語る。「各学科に将来の目的に合わせて選択できる専門コースの設置と、人間力形成、将来設計、専門知識・スキルなど学士力と専門力を身につけることができるカリキュラム」
 2学部の学び。工学部は、機械情報技術学科、電気電子システム学科、システム情報工学科、バイオ環境工学科、土木建築工学科からなる。
 「豊かな人間性と総合的な判断力をもった技術者、工学の基礎原理を踏まえ高度な応用展開能力をもった技術者、地域社会への関心とともに国際的な視野をもった技術者を育成しています」
 感性デザイン学部は、感性デザイン学科の1学科。「現代社会が抱える問題を発見、理解できる能力、並びにその問題の解決ができるデザイン能力を有し、豊かな生活と幸福な社会づくりに貢献できる人材を育成していきたい」
 教職員と学生の関係が密接だ。教職員は、フェイストゥフェイス(face to face)で学生とコミュニケーションをとっている。「全教職員が、学生の一人ひとりの夢を実現させるため、学修支援、就職支援の二つをきめ細かく行っています」

キャリア教育も充実

 就職力。平成24年度の就職内定率は94.3%。キャリア教育は1年次から実施し、同大独自の就職ガイドブックを配布。「進路指導については90%の学生が満足し、自分の進路も89%の学生が業種や職種において満足しています」
 就職力につながるのが資格取得支援。全学科で修得できる資格はもとより、機械情報技術学科では自動車整備士、システム情報工学科ではITパスポート、土木建築工学科では建築士というように、学科特性を生かした支援をしている。
 「卒業生は、本学の教員、県内外の企業・研究所の技術者、高校教諭、中学校教諭および国・地方職員として活躍しています。特に、県内の工業高校の専門学科教員は本学の出身者が最多で、現在も全国に250人のOB教員がいます」
 地域貢献は活発だ。「八戸市民病院と共同で、緊急電源用太陽光発電パネルを設置した移動型手術室を造ったり、八戸市中心街に設けたサテライトキャンパスで子どもたちと災害対応を話し合ったり、電気自動車を製作したり様々な活動をしています」
 東日本大震災以降、地域再生のための取り組みが目立つ。青森県、八戸市、おいらせ町の復興計画策定に深く関わった。被災地の復旧・復興支援を早期に行うため、2011年に「防災技術社会システム研究センター」を設立した。
 「東日本大震災後の復旧・復興を日本のみならず世界の英知を集めて早期に行う必要があると考えて設置しました。学部・学科・研究所を越えて教授や准教授などが参加、防災と復興の知の拠点をめざしています」

防災の国際会議開催

 2012年12月7日には、災害ロボット、熱核融合、超伝導電力貯蔵など海外の専門家を招いて国際防災フォーラムを開催した。同センターの取り組みは、文科省の2011年度大学等における地域復興のためのセンター的機能整備事業に採択された。「地域の知の創造拠点として活動が一層加速されます」
 今後とも、地震・津波対策、港湾プラン、火災防止、復旧復興経済活動、放射線防護、電力セキュリティー、情報通信セキュリティー、被災心理ケア、福祉・住環境プラン、交通網設計、港街づくり総合プランなど、地域に根ざした多面的な検討を行ない、再生実施プランを提示する。

高大連携も活発に

 高大連携にも熱心に取り組む。学内に高大連携推進協議会を設置した。「高大連携の最新情報と研究成果を共有、新しい時代の教育の在り方を議論しています。教員は、八戸市内の高校で環境・エネルギー講座を開催したり、東北各県の高校で防災関連の出張講座を行っています」
 学生たちは、文化活動、スポーツに奮闘する。工学部の学生がETロボコン東北地区大会で総合3位になり、感性デザイン学科の女子学生が全国きものデザインコンクールで全国染織連合会賞を受賞するなど活躍している。
 「スポーツのほうでも、アーチェリーやスキーマラソンで全国レベルの成績を残した学生もいます。卓球では、東北学生卓球連盟の新人戦で男子団体が優勝するという快挙を成し遂げました」
 大学のこれから。「日本の技術力沈下が言われています。オンリーワンの技術で世界に進出する必要がある。そのためにも、グローバルオンリーでなく、国内外の地域の文化などを理解したグローカルな人材が求められている」と総論。

地域で活躍できる人材

 具体論を続けた。「地域に必要とされない大学は存在する価値がない。地域と共にあって、地域が抱える課題を解決する、そして、地域で活躍出来る人材を送り出すのが本学の役目だと思う。東北地方は産業基盤が強くはない。大学には研究によって新たな産業を育てる役割もある。産業が育てば雇用も生まれる。人材育成と地域貢献を両輪に前進していきたい」
 北東北における人材育成、産学官金連携事業の知の拠点をめざす学長の藤田の夢は大きいが、実現に向けて一歩一歩、近づいている。