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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<75>高就職率支える「家政学」
 教養、芸術鑑賞の講座  中央との文化格差排す
 郡山女子大学

  「尊敬」「責任」「自由」が建学の精神。郡山女子大学(関口 修理事長・学長、福島県郡山市開成)は、生涯磨き続ける基礎的教育を施し、「私がいるとき、私が役立つ」ことのできる人間を育ててきた。社会で活躍したり、家庭生活を主宰する女性達である。淵源である郡山女子専門学院は1947年に創立、現在、大学院、大学、短大、附属高校、附属幼稚園を擁する女子の総合教育学園に。大学は1966年に開学、家政学部1学部で人間生活学科と食物栄養学科からなる。創立以来、謙虚な心情を育てる意味で「家政学」を必修としてきた。「家政学」を教えつつ、キャリア教育に力を入れる。学科・コースにより目指す職業を明確にすることで高い就職率を維持している。中央との文化格差をなくそうと著名人らを招いて開く教養講座や芸術鑑賞講座に大学の志をみた。東日本大震災の東京電力福島第一原発事故の風評被害を乗り越え、ひたすら前を向いて進む同大の学長に学園の歩みとこれからを聞いた。
(文中敬称略)

建学の精神「尊敬」「責任」「自由」

 郡山女子専門学院の創立者である関口富左は戦後の荒廃した世相の中で、女子の高等教育の普及と向上を図らねばと痛感。「女性が一個の人間として自己を磨き、成長しうる場を創りたい」と開学した。
 1950年、郡山女子短期大学(家政科)を開設。57年、附属高等学校を新設。郡山女子大学は、創立20周年の66年、家政学部(生活経営学科、被服学科、食物栄養学科)の1学部3学科で開学。
 86年、家政学部を人間生活学科と食物栄養学科に改組した。「家政学の総合化と専門化を図るため、家政学の2方向を擁した学部構成としました。人間生活を科名にしたのは本学が日本で初めてです」
 理事長・学長の関口 修は、創立者の富左(13年1月に死去、99歳)の長男。68年に郡山女子大講師に就任、94年に教授。各学校の学長代理、校長代理などを経て03年に理事長、11年学長に就いた。
 関口が建学の精神を語る。「個人の求める、あらゆる自由な発想と研究とで個性豊かな人格を作るということです。目的は、個性を重視し、互いを理解する〈個〉の確立と〈他〉との協調をもって、自主、自立できる女性としての人間育成を図ることです。確かな学問研究と教養を備えた女性を社会に送り出したい」
「家政学」について続けた。「創立以来、女性はどうあるべきかという課題についての研究に取り組みました。本学独自の家政哲学として『人間守護』の理念をもって家政学の独自性、方法論をまとめ、『学』としての家政学を樹立しました。哲学的基盤をもった家政学だと自負しています」
 各学科の学び。人間生活学科は、生活重視、生活優先の時代に即した生活福祉、生活経営、生活情報、住生活、衣生活、食生活、人間環境、建築デザイン等々を学ぶ。建築デザインコース、福祉コース、生活総合コースの3コースがある。
 「生活総合コースは、新しい時代における新しい生活を探究し、デザインし、創造。福祉コースは、21世紀の福祉を担う、信頼される社会福祉士、介護福祉士を、建築デザインコースは、自然に優しく、生活空間を美しく創造する女性建築士を目指します」
 食物栄養学科は、67年に国から指定を受けた栄養管理士養成施設の一つで、実績がある。「食物栄養学科は、食品の安全性と健康維持をはかる管理栄養士を養成。社会や食生活の多様化・国際化に対応できる総合的な指導者を目指します」
 めざす職業は、人間生活学科が高等学校・中学校教諭、介護職員、建築士、インテリアコーディネーター、食物栄養学科が、管理栄養士、栄養士、栄養教諭、食品衛生管理者…と明確だ。
キャリア教育は、四つの取り組みを推進する。①社会的自立に向けて自己理解と進路理解を深める科目「キャリアデザインⅠ・Ⅱ」を全学に導入②4年間(大学)の段階的キャリア形成カリキュラムに支えられた、各学科・専攻の専門教育③各クラスに配置されたアドバイザー教員による学生生活支援や進路相談④就業支援として就職部が実施する具体的で専門的な指導と情報提供。
 就職率は、毎年90%を超える安定した数字を保つ。今年3月卒業の学生の中で大学院進学などを除き就職を希望した人のうち、仕事に就けた人の割合を示す就職率は100%となった。
 「社会で活躍している先輩達が築いた企業からの信頼と、早期からの進路・就職指導の徹底、学生達の就職に対する意識の高さなどの理由によって、就職難の時代にも、高い就職率を維持してきました」
 ところで、関口は、09年から短期大学基準協会理事長を務める。この3月に訪米、米国の2年制高等教育機関認定委員会と連携協定を結び、日米の短期大学の教員や学生や交流を深めることになった。高等教育に一家言ある教育者だ。
 「日本の高等教育には落第がない。これが隘路になっている。トコロテン式に卒業させることは教育のクオリティー低下につながる」、「教員は教授になれば、助教授に戻ることはない、といった教員評価の基準を明確にすべき」、「国民、そしてマスコミはもっと高等教育に注文を付けるべき。それを受け止め自省することで大学は存在価値を自覚する」
 郡山女子大では落第させるのですか?「教育の質には腐心してきた。昨年度の卒業生で平均点が60点台は1人、あとは、その上の成績だった。社会で必要とされる大学になるためにも、進級のスタンダードや学位を取得するポリシーといったベースになるものをつくりたい」
 社会に必要とされる大学とは?「三つある。真っ当な教育を施して、社会に恩返しができる。この大学へ来ないと自分の目指す勉強が出来ないという学生がいて、卒業生が胸を張って大学名を言える。大学がピンチの時、優秀な後輩に奨学金を出すなど卒業生の支援がある」

教養講座に湯川博士

 同大の教養講座は、単位が取得できる。「これまでに、ノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士、東大総長の茅誠司、林健太郎らを招請。創立50周年記念学術講演会では、哲学者の梅原猛先生と自然科学者の西澤潤一先生による対談で、学生に深い感銘を与えました」
 芸術鑑賞講座は、関口富左が「中央との文化的な格差を無くすことこそが教育である」との信念から始めた。現在、音楽鑑賞会から芸術鑑賞講座に衣更え。演劇、歌舞伎、能楽、狂言、文楽、美術展と幅を広げ、国内外で活躍する一流の芸術家や団体を招聘、170回を超えた。
 大学のこれからを聞いた。「学問は年ごとに高度なものになり、社会はより高い技術を求める時代になっています。私たちはこのような環境の中で、指導的な立場に立つ視野の広い人間を育てたいと思っています」と述べ、こう続けた。
 「男性と互して、男性と融和して人間性を高め、この社会を、この国を、そして世界を、平和と福祉との実現を図ることを実践してゆける人の育成を進めていきたい。地域社会との交流を深めていくことは言うまでもありません」

強豪のリベルタース

 同大のタッチフットボールチーム「KGCリベルタース」は強豪だ。昨年度の天童市総合体育大会のタッチフットボール競技(天童ボウル)で2年連続優勝を果たした。風評被害、何するものぞという気概が背中を押しているようにもみえた。
 「KGCリベルタース」の話になると、関口の顔が和んだ。「彼女たちは、(フクシマは決して負けない)と自分らの意地で一所懸命やっているんです。大学としても応援していきたい」
 「KGCリベルタース」が象徴するように、郡山女子大は、「尊敬」「責任」「自由」の建学の精神を掲げ、強く、たくましく、大学を、そして地域を引っ張りながら前へ前へと歩を進める。