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<66>「五つの力」掲げて改革 100周年を機に
 学力、教育力向上 温かい人間性の涵養
 大阪歯科大学

 「誇りと誓い 蓁蓁(しんしん)たる大樹へ」。大阪歯科大学(川添堯彬理事長・学長、大阪市中央区・枚方市)は、伝統を生かして人間性豊かな歯科医師を養成する。創立100周年を迎えるにあたり、2008年、「五つの力(りょく)の目標」を掲げて、新たな改革に乗り出した。私立歯科大学を取り巻く厳しい状況に対応するため、学生の学力や教員の教育力向上、温かい人間性の涵養などがねらいだ。創立100周年の2011年には、①学生の国際交流力増強、②大学院力の増強、③研究力の向上という「三つの力」の追加目標を立てて補強。12年から新カリキュラムを導入した。「学生を甘やかすのではなく、一人ひとりの顔が見える少人数体制のもと、歯科医師に必要な素養を身につけるための教育を行っていきたい」と語る学長に100年の歩みや教育改革などを中心に聞いた。
(文中敬称略)

建学の精神 「博愛公益」蓁蓁たる大樹へ

 まず、冒頭の言葉を、理事長・学長の川添に聞いた。「創立100周年の標語で、誇りは、本学の歴史と伝統に対する思い、誓いは次の100年に向けての宣言。樹木の枝に葉が茂りやがて大樹となっていく、蓁蓁たる大樹のように、本学も、社会の中にしっかりとした根を持つ大樹へとさらに成長していきたい」
 大阪歯科大学は、1911年、大阪市野田に創立された大阪歯科医学校が淵源。創立者の藤原市太郎が唱えた「博愛公益」が建学の精神。東京歯科大学、日本歯科大学とともに、明治期に創設された歯科医師養成教育・研究の専門単科大である。
 その後、1917年専門学校令による指定を受け、大阪歯科医学専門学校に名称変更。1947年に旧制大学に昇格。49年、歯学部歯学科(旧制)を設置。52年の学制改革で新制大学に。付属の大阪歯科大学歯科技工士専門学校、大阪歯科大学歯科衛生士専門学校がある。
 現在、約800人の学生が二つのキャンパスで学ぶ。学生の出身地は近畿2府4県が大半で、男女比は、男子6、女子4の割合。近年、女子の学生が増えているという。
 天満橋学舎附属病院(大阪市中央区大手前)は、地下鉄谷町線の天満橋から歩いて約5分。南に大阪府庁、西に大阪市庁が隣接する都市型キャンパス。創立100周年事業の一環として建設中の100周年記念館は、5、6年生を一貫教育する講義室・自習室を設けた。
 楠葉学舎(大阪府枚方市楠葉花園町)は、大阪と京都の中間に位置し、97年に高度情報化社会に対応するインテリジェントキャンパスとして建設された。点在する住宅など周辺環境と調和している。
 川添は、最初に歯科界の現状を語った。「現在、80歳になっても20本以上の自分の歯を保持する『8020運動』の展開や、自分の歯と変わらない人工歯根を入れる『インプラント再生先進技術』が推進されています。口腔内の治療法はもとより、できるだけ長く自然な歯で、食が楽しめるような医療知識、医療技術の研究が進んでいます」
 大阪歯科大学について語る。「近年、社会が歯科医師に求めているのは、優れた技術のみではありません。患者さんへの思いやりや温かな心を持った歯科医師へのニーズが高まり、細やかな配慮ができる医師が必要とされています。これからの本学の使命は学力と人間性を両輪とする歯科医師の養成です」
 大学改革は、創立100周年が呼び水となった。「伝統校の宿命でもありますが、志願者に卒業生の子弟が多くなった。意識、無意識にかかわらず伝統と歴史に甘える傾向が出てきて、それは国家試験合格率の数字にも表れた。藤原市太郎先生が遺された『博愛公益』の精神を再確認し、これを学生教育に取り入れる必要があると改革に乗り出しました」
 改革のスローガン「五つの力の目標」とは?「①募集ブランド力の向上、②学力の向上、③教育力の向上、④人間性涵養力への注力、⑤教員人材育成力への注力、という五つの目標を実現することです」
 具体的には?「柱のひとつ、学生の学力向上は、学生が意欲を持って学習できて、国家試験への備えとしても万全のカリキュラムの導入。教員の教育力向上は、海外留学を積極的に推奨し、グローバル化に十分耐えうる筋道と研究力を後進の学生に身につけさせ、将来の進路拡大への大きな励みにさせたい」
 「人間性の涵養は、『Student Oriented System』(学生中心主義)を標榜し、学生と教員のふれあいの場を数多く設けると同時に、社会奉仕活動を正規の授業に取り入れるなど、多様な人間性教育を行っていきます」
 新カリキュラムの導入。医療技術の進歩や高齢化の進展、さらに質の高い医療を求める患者の増加などにともない、医療へのニーズが高度化・多様化している。こうした社会的背景を受けて、21世紀の歯科医師像に求められる歯科医師の養成が目的だという。
 「1年生から6年生の間に、一般教育から基礎系・臨床系歯科医学教育、総合医学教育、臨床実習教育まで行います。特長は、科目ごとに系統講義を行う点にあり、勉強する上での疑問が生じた際、どの講座を受講すべきかを容易に選択できるようになっています」
 「五つの力」の進捗状況を聞いた。「五つの力の目標を全て達成するには5年はかかると思っていました。今年の卒業生が、それにあたりますが、彼らをみていると、学力向上や大学ブランド力など徐々に上がってきています」

国際交流に力を傾注

 三つの力の追加目標を立てたのは?「グローバルな時代をむかえ、国際化に耐えうる知力と研究力が求められます。学生の国際交流力を強めるため、英国、ハンガリー、中国、ベトナムなどの大学と学生の相互乗り入れを実現。将来の優れた研究者・教育者を確保して大学を発展させるため、大学院や研究力を充実させます」
 社会貢献は歯科大学らしさが垣間見られる。05年から、天満橋学舎附属病院に隣接する国家公務員共済組合連合会大手前病院の入院患者の希望者に口腔ケアを、沖縄県では2年ごとに1か月間、現地に滞在して歯科巡回診療を、それぞれ行っている。
 昨年6月には、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールド内で飼育されているカバの歯を附属病院の医師が検診。虫歯予防と歯の大切さを訴えるイベントだったが、見守った地元の保育園の園児や観光客らの歓声をあびた。

「未来に志を持て」

 川添は、常々、学生に、こう話している。「未来に志を持ちなさい。一流の研究者になることでも、開業医になることでも、歯科医師とはまったく異なる将来像を描いても構わない。まずは歯科医師資格を取得することを考え、社会に出たその先に夢を託してほしい」
 大学のこれから。「何と言っても、五つの力の目標を地に付いたものにしたい。具体的には、国内の大学間競争に勝つ、それは歯科医師国家試験の合格率を高めること。学生の国際交流力の増強、それは異文化と触れあうことで心の広さや頭の柔軟さを養うことです」
 最後に、こう語った。「学生には、『Science、Art&Heart』(科学的知識と技術と思いやりの心)を持つ医療人になってほしい。この言葉は、創立者の藤原市太郎が唱えた『博愛公益』という建学の精神と重なるのです」。自分に言い聞かせるように、静かながらも重たい口吻だった。