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大学は往く 新しい学園像を求めて

<54>千葉科学大学
  生命を感じ、平和を学ぶ
  アジア初の危機管理学部  消防や警察に強い就職

 健康で安全・安心な社会の構築に寄与できる人材の養成。千葉科学大学(赤木靖春学長、千葉県銚子市)は、2004年に開学した若い大学。薬学部とアジア初の危機管理学部があり、「生命を感じ、平和を学ぶ大学」がコンセプト。一人ひとりの学生が持つ能力を最大限に引き出し、社会に貢献できるきめ細かな教育を施している。卒業後は、薬剤師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士などの国家資格を取って病院や消防署に進む者、一般の企業や公務員として危機管理に関する仕事に従事する者…「健康と安全・安心」の維持・確保が願いだ。消防署員や警察官になる学生が多いこともあり、自主防災組織である「学生消防隊」や警察支援の「スターラビッツ」というユニークなサークルがある。太平洋を望む「若い大学」のこれまでとこれからを学長に聞いた。
(文中敬称略)

薬学部は2学科 「学生消防隊」が活躍

 千葉科学大学は、2004年4月、千葉県銚子市に薬学部(薬学科)、危機管理学部(防災システム学科、環境安全システム学科、危機管理システム学科)の2学部4学科で開学。05年、本部キャンパスから3600m西側に、2年次から主に学ぶマリーナキャンパスが完成。
 06年、薬学部薬学科を4年制から6年制に変更、新たに薬科学科(4年制)を設置。08年、薬学部に動物生命薬科学科を設置。09年、危機管理学部を改組、危機管理システム学科、動物・環境システム学科、医療危機管理学科の3学科に。
 10年、危機管理学部に航空・輸送安全学科を新設。薬学部を改組、6年制の薬学科と4年制の生命薬科学科に。同年、危機管理学研究科と薬学研究科に博士課程を設置、危機管理学の博士課程は全国初。
 12年、危機管理学部に環境危機管理学科、動物危機管理学科を設置。現在、2学部7学科14コースに1750人の学生が学ぶ。
 学長の赤木が大学を語る。「政治、経済、社会、環境、食糧、伝染病、どれを見ても国内外とも不安定な状況にあり、あらゆる分野で予測が難しい時代。このような時代であればこそ、それに応えることのできる人材が求められています。
 この激動の時代こそ、本学にとって挑戦の時。どこでも必要とされる薬学部と日本に一つしかない危機管理学部を備え、『安全・安心』を科学的に追求し、『人を助けたい』という前向きな気持ちで、社会で役に立つ技術系人材を育成したい」
 教育内容について聞いた。薬学部は、医療現場での適正医療に参加するための薬剤師養成教育と地域医療環境の向上を目指す。
 「薬学科は、薬学研究者、技術者、薬剤師として活躍するために必要な学識と技能を修得。生命薬科学科は、生命科学の知識を基盤とした創薬・化粧品科学のスペシャリストを育成します」
 薬学科の薬剤師試験の合格率は今年度97.3%で、「就職は問題ない」という。生命薬科学科は、09年に化粧品科学コースを設け、化粧品の開発から安全な使用法の啓発まで学び、化粧品会社などへの就職を目指している。
 危機管理学部。防災、環境や医療などの面から暮らしの安全を守る学問領域を開拓、文系理系にまたがって5学科に分かれる。
 「危機管理システム学科は、社会の安全安心の追求、災害対策に関わる法律、組織、技術、考え方などを学びます。環境危機管理学科は、『水』、『土』などの自然環境を軸にした危機管理を学び、理科教員の育成も目指します。
 医療危機管理学科は、人の健康維持、医療に関する安全対策、災害医療に関わります。工学技術危機管理学科は、災害時に使う航空機の運用・利用や、人命救助を効率的に行える機材を設計・運用できる人材を育成。動物危機管理学科は、野生動物保護、人畜共通感染症対策、適正なペット管理などを目指す人材を養成します」
 ところで、なぜ、千葉科学大学は銚子市に開学したのか、我が国初の危機管理学部を設置したのはなぜなのか?
 同大を運営する学校法人加計学園の理事長・総長の加計孝太郎の熱い思いと人脈が関係する。加計学園は、同大のほか、岡山理科大学と倉敷芸術科学大学を擁する。野平匡邦・銚子市長は、かつて自治官僚として岡山県副知事を務めた。
 「本学の理事長でもある加計孝太郎は、銚子市長の野平さんと岡山時代に知り合いました。加計は、銚子市長になった野平ら銚子市を中心とした地元の大学誘致の強い要請を受けて千葉科学大学を開学しました」

危機管理の大切さ痛感

 加計は、かねがね危機管理学部設置の構想を持っていた。「2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件で危機管理の大切さを痛感、それに対処できる人材育成を目指していました。04年の千葉科学大学開学で、夢を実現しました」
 昨年の3月11日の東日本大震災は、加計の見通しの確かさを立証することにもなった。「私たちにとって決して忘れることのできない日となりました」と赤木が語る。
 「あのとき、学長室にいました。本部一階は水に浸かりました。春休みで学生はマリーナキャンパスに150人いましたが全員無事で、本部の建物の片付けなど手伝ってくれました。学生消防隊は隣の旭市へ救援活動に赴くなど、本学設立の目的を果してくれました」
 危機管理学部の就職状況。2012年消防官の合格者数では、全国の大学で7位、救急救命士では同4位。東京消防庁をはじめ横浜市や福島市など全国の自治体の消防に、警察では警視庁や各都道府県警に、それぞれ合格の実績がある。
 「消防警察以外でも、入国管理局(大学院生)や地方自治体職員などに合格の実績があります。04年開学という新設大学で、規模も大きくない大学として、この実績は高い評価をもらっています」

地域貢献に学生奮闘

 こうした公務員試験対策、そして地域貢献に役立っているのが、「学生消防隊」と「スターラビッツ」だ。学生消防隊は、銚子市から貸与の2台の消防車を用いて放水訓練や整備などを行っている。
 スターラビッツの主な活動は防犯パトロールや啓発活動。実際にパトロールや警備活動を行う部門の他に、防犯や薬物乱用防止などの啓発ビラを作り、啓発活動を行う班などさまざまな部門がある。警察官と一緒に活動することも多い。
 「二つのサークルとも、地元の祭や行事などに積極的に出張ります。混雑時の警備など企画から実践までこなしています。商店街など地元の皆さんとの交流も多く、警察官や消防官志望者には、実習の場にもなっています」
 社会貢献は地元だけではない。東日本大震災のさいには、学生と教職員がボランティアチームを結成、被害の大きかった岩手県陸前高田市でがれきの撤去などを行った。今年4月、ボランティアセンターを設置した。

活発なボランティア

 「危機管理学部のある唯一の大学。全員の学生にイザという時に、正確に、そして冷静に対応できる素養を身につけさせたい。ボランティア経験は、その一助になるはず」
 大学のこれからを聞いた。「危機管理を礎にいろんなことを考えていきたい。危機管理を学ぶには、あそこに行けばいい、そういう大学にしたい。都内に社会人を対象とした修士課程のサテライト校をつくる計画もあります」
 少子化、大学全入時代を迎え大学の生き残り競争が厳しくなった。「健康と安全・安心の分野で、本学の存在価値はある、この分野に特化して生き残りを賭けたい。人を助けたい、という信念のある学生は大歓迎です」。赤木の頭からは、「人を助けたい、という人の大学」という千葉科学大学の理念が最後まで離れない。