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大学は往く 新しい学園像を求めて

<44>大阪工業大学
  理系グローバル人材を育成
  知的財産学部を設置  神田外語大と英語で提携

 国際競争力向上に貢献できるグローバル人材の育成をめざす。大阪工業大学(井上正崇学長、大阪市旭区)は、工学部、情報科学部、そして国内唯一の知的財産学部の三学部を擁する理工系総合大学である。前身の関西工学専修学校は、工業化する大阪の都市改造の現場で即戦力として活躍できる人材を輩出する目的に創立された。現代(いま)、日本が世界を相手に競争力を高め、持続的な成長を遂げるには「先端技術開発と知的財産戦略の両立が不可欠」として、これらに対応した教育・研究を行っている。知的財産を専門分野とした知的財産学部の設置、海外の有力大学との提携、神田外語大学(酒井邦弥学長、千葉市美浜区)と連携したネイティブ講師による英語実践講座など改革には間断がない。大阪工業大学のこれまでとこれから、とくに後者を重点に学長から聞いた。
(文中敬称略)

社長数は理工大№1 即戦力の人材輩出

 大阪工業大学は、1922年に本庄京三郎と片岡 安らが創設した関西工学専修学校が淵源にあたる。1940年に関西高等工業学校を増設。摂南高等工業学校、摂南工業専門学校と校名変更を経て、1949年の学制改革の際、摂南工業専門学校を母体に新制大学として設立された。
 創立当初の学科は、建築と土木だった。大阪の御堂筋など都市改造に卒業生が関わり、時代と地域に貢献した。学園創立から90年経た今、学部・大学院合わせて約9万6000人にのぼる卒業生は、産官学各界で活躍している。
 学長の井上が大学を語る。「本学は、世のため、人のため、地域のために『理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人の育成』」を行うことが建学の精神。開学以来、一貫して社会の要請に応える人材育成に取り組んできました」
 こう続けた。「即戦力たるフィールド・スペシャリストを現場に供給することで、徹底した時代・地域貢献型の教育機関として歩んできました。現在でも、本学出身の社長数は、全国理工系大学の中でトップという実績があります」
 1996年、情報科学部を新設。2003年、知的財産学部を新設。05年、知的財産研究科の専門職大学院を設置した。
 知的財産学部の新設について。「権利の侵害が企業の存在を脅かすケースがしばしば起きています。そうした特許、著作権、商標など知的財産を学び、専門家を養成しようと設置。この先駆的な取り組みは、企業からも評価されています」
 同学部の教員は、特許庁、経済産業省出身者や、パナソニック、キヤノンなど民間企業の知的財産分野で活躍した専門家が多い。「知的財産の専門家として活躍するために必要な法律知識と実務能力を学べる専門教育を実践しています」
 学生は、弁理士など法律の専門家になるか、知的財産を学び企業に貢献するか、将来の目標に合わせた二つのコースがある。「知的財産の最前線をリアルに感じる実務研修や、特許・法律事務所でのインターンシップも充実しています」  
 知的財産の専門職大学院は、社会人学生も多い。2年間の教育課程で所要単位を取得し、修士論文に合格すれば知的財産修士(専門職)の学位が与えられる。所定の要件を満たす成績優秀者は、学部の3年次生から進学でき、5年間で卒業できる。
 つぎに、教育について。「ものづくりを体験する中で人間力や問題解決能力などを養うPBLに力を入れています。NHK大学ロボコンなどで実績を上げているロボットをはじめ、ソーラーカーや学生フォーミュラ、人力飛行機などのプロジェクトを学部・学科の枠を越えて取り組んでいます」
 「PBLは、学生に、いかに付加価値をつけるかも課題です。次代を担う技術者に必要な環境共生の理念を養うのも目的のひとつで、奈良県川上村の豊かな自然をキャンパスにした取り組みがそうです」

就職に強い大阪工大

 就職について。「就職に強い大阪工大」として知られる。データがそれを裏付ける。2011年度卒業生において、就職率97.3%(2012年5月1日現在)、就職満足度95.9%、求人数1万2423件(就職希望学生一人当たり11.1件)、卒業生が社長に就任している人数2292人。
 「『知識・技術的な成長』と『人間的な成長』を促すための就職支援プログラムを導入、学生一人ひとりが納得できる就職の実現をサポートしています。とくに、職業意識を高める年次ごとのきめ細かな支援が高い就職実績に結び付いているのではないでしょうか」
 同大では、国際社会の舞台で活躍できる「理工系グローバル人材の育成」が最重要課題のひとつ。「学生は、幅広い教養と人間力を身につけ、グローバル化が進む知識社会で活躍できるバランスのとれた人間として成長してほしい」

海外との交流も活発

 具体的には?「米・独・ポーランドの提携校と国際シンポジウムを開催したり、多くの学生が海外の研究者たちと交流しています。世界レベルを目のあたりにした学生はたくましく成長するし、周囲の学生にもよい刺激になります。学生には、そうした機会を多く与えていきたい」
 最近では、台湾の国立台北科技大学と学術交流協定を締結、知的財産分野を中心に学術交流を推進する。「世界の有力大学との研究交流や海外研修は、学生たちが世界に目を向け、グローバルな発想を生み出す視点を養う機会です」
 神田外語大学との連携は、このように学生が行う海外の大学との研究交流や国際学会でのプレゼンテーションに必要な英語によるコミュニケーション能力の向上を支援するためのもの。
 「近年、大学院生や学部四年次生が国際学会・会議で論文発表する機会が増えてきました。学生にとって、専門知識・技術に加えて、実践的な英語能力の修得が必要不可欠となっています」

実践的な英語力を修得

 導入するのは、実践講座「プラクティカル・イングリッシュ」。英語によるコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の向上を目指す。対象は、大学院生、大学院進学を目指す学部四年次生。「今後、対象を広げていきたい」
 実践講座は、大宮キャンパスの正面手前に、このほど完成した『Chast』というガラス張りの瀟洒な建物の二階で行われる。「LLC(Language Learning Center)」と名付けられた英語・英会話の自立学習サポートセンター。
 「3人のネイティブ講師が常駐、神田外語大の英語教育のノウハウと成果を教育ソリューションとして、大学院生や学部四年次生に教えます。それ以外の学生も予約をすれば正課の授業以外で“生きた英語”に触れることができます」
 大学のこれからを聞いた。「いま、少子高齢化が進み、18歳人口が減り、大学を出れば就職できる世の中でなくなった。それにみんなが気付き、学生時代の問題意識の有無で差がつく時代」と現状認識を述べた後、語り出した。
 「本学がめざすのは、建学の精神に基づく『理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人の育成』です。最先端の研究は、実践を通して応用に結び付け、時代の変化に対応し、生きた教育として学生に還元してこそ意味をなすと確信している。どんな成績優秀な学生でも、“指示待ち人間”では、イノベーションに関わる研究など出来ません」

夢、目標、気概を持て

 そして、こう結んだ。「われわれが求めているのは、漠然でもいいから夢、目標、そして技術者をめざす気概、これらを持った若者です。総合大学では、とても出来ない丁寧な教育によって、真の理工系グローバル人材を育てること。それが私大としての生き残り策につながると確信しています」
 井上は、最後までグローバル人材の育成にこだわりをみせた。それは、知的財産学部の設置、海外の有力大学との提携、神田外語大学との英語実践講座での連携といった、これまで蒔いてきた改革の種によって必ずや実を結ぶに違いない。