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特集・連載

大学は往く 新しい学園像を求めて

<29>福岡歯科大学
  歯学から口腔医学へ
  西日本唯一の私立歯大 医学と歯学の一元化を

 一人の人物が大学の性格を決定づけてしまうことがある。福岡歯科大学(田中健藏理事長、北村憲司学長、福岡市早良区)は、西日本唯一の私立歯科大学。開学以来、3800余名の卒業生を送り出し、全国でも有数の歯科医学教育・研究の場となった。中興の祖が、元九州大学学長で理事長の田中健藏である。モットーは「学生が意欲を持って学び、卒業生が誇れる母校、地域の歯科医療・保健・福祉への貢献、医歯学の進展への寄与」。1992年の理事長就任以来、将来構想や中期財政計画を立案して実施。歯科医師国家試験の合格率を全国上位に押し上げるとともに、地域貢献や教育・研究の場として介護老人保健施設と特別養護老人ホームを設置。特筆されるのは、「歯学から口腔(こうくう)医学へ」の旗を掲げて、「口腔医学」の学問体系の創設・育成に力を注いでいることだ。手掛けた改革や大学経営、そして口腔医学について理事長の田中に聞いた。
(文中敬称略)

国家試験の合格率向上 理事長の改革が結実

  福岡歯科大学は、福岡市西部に位置する。地域の医療センターとしての福岡歯科大学医科歯科総合病院がある。臨床実習の場でもあり、歯科だけでなく医科(内科、外科、麻酔科、耳鼻咽喉科、形成外科、心療内科、眼科)の診療科もある。
 1973年に開学。81年、附属歯科衛生専門学校を開設、97年、同校を福岡医療短期大学に改組。85年に福岡歯科大学大学院歯学研究科を開学。歴史の新しいフレッシュな大学である。教育・研究、診療面から尋ねた。
 教育面から。「教育目標は、教養・良識および国際感覚を備えた優秀な歯科医師を育成し、社会福祉に貢献するとともに、歯科医学の進展に寄与することです。これらの目標を達成するため6年間一貫教育システムを導入しました」
 「この独自の教育システムは、教養科目、専門基礎科目、専門科目および臨床実習が段階的に学べるようカリキュラムを編成しました。また、学生の勉学や生活上の問題に対し、助言教員を配置し、きめ細かく対応しています」
 研究面では、同大学の共同研究プロジェクト「疾患における遺伝的、環境的要因の相互作用とその制御」が1998年、文部科学省の「学術フロンティア推進拠点」に選定された。これは、03年に継続事業になった。
 2008年には先端科学研究センターを設立。ゲノムと環境因子の相互作用に関する研究プロジェクトが開始された。「研究センターには多くの最新設備が備えられ、多数の大学院生がこの施設を利用し研究しています」
 診療面では、05年、中期構想に掲げた「口腔医学の確立」の一環として、附属病院名を「福岡歯科大学医科歯科総合病院」に改称。「隣接医科の充実を図っています。再来年には、小児科と整形外科を開設する予定です」
 田中本人の話に移る。1922年、東京生まれ。1946年、九州大学医学部卒業、63年、九大医学部教授、75年、医学部長、81年から九大学長を務めた。「世界の九州大学」を目指して九大の発展、国際化に貢献した。

父は歯科医、子は医師

 田中の父親は東京医科歯科大を出た歯科医で、東京の日本橋で開業した。関東大震災で医院は潰れ、これを機に父親は、九州・佐世保の海軍病院に勤務することになった。
 「親子三人で佐世保に来ました。父は『大学を出た医者は中尉で、医科専門学校出は少尉、歯科医は嘱託』とよく話していました。ここに、私が主張している“医学と歯学の一元化”の原点があります」
 田中は、92年から福岡歯科大学理事長に就任した。当時、私立歯科大学を取り巻く情勢は、少子化、高齢化、教育の大衆化、歯科医師需給など極めて厳しい状況にあった。

最初に財務健全化

 最初に手掛けたのは財務の健全化だった。「予算は、94年から学長重点配分経費、病院長重点配分経費を設け、教育・研究経費の重点配分を実施。将来計画の実現のため、93年から隣接地の取得を開始し、1万平方mに及ぶ用地を拡充しました」
 続けて、「福岡歯科学園の新世紀へむけての将来構想」(2000年)、「福岡歯科学園の中期構想」(04年)を掲げ、諸施策を断行した。時系列でみると―。
 01年、大講座制を導入。「科学の進歩、歯科医療の変化、社会の変化に対応できる弾力的な教員組織作りを行った。4部門、13講座、30分野からなる大講座制に改組。大学活性化を図るため重点配置教員制度を取り入れました」
 04年、教職員の人事考課制度導入。「教職員が設定した目標の達成度やその業績、意欲・態度を評価し、教職員が有する能力を育成・活用することにした。これによって、結果を処遇に適正に反映させることができ学園の活性化が図られた」

教員の任期制を導入

 05年には、教員の任期制導入。「学園の将来を見据えて、全教員を対象にしました。教授、准教授、講師の任期を五年、助教を3年にし、任期満了となる教員の再任審議は教員評価委員会が行うようにしました」
 さて、「口腔医学」について語ってもらおう。「歯科医学」から、口腔を一つの臓器とみなし、その機能全体を向上させる「口腔医学」への脱皮である。なぜ、いま、口腔医学なのですか?
 「近年、超高齢社会の到来、病気の種類・頻度の変化、患者さんのニーズの多様化等に対応するには、治療の対象を歯のみに限定せず、口腔機能や全身状態並びに患者さんの気持ちを十分理解して医療を行うことが必須条件となります」
 「一般医科の基礎的知識を持ち、医師と連携のもてる医療人の育成が目標。口腔という臓器の疾患についての高度な知識・技術に加えて、全身疾患を学び、医学全般の研鑽を積むことのできる歯学教育の改善・充実に取り組んでいます」

全国8大学と連携

 一歯科大学の取り組みでは訴求が弱いのでは?「口腔医学という新しい歯学教育を提案、全国の八大学で連携しました。現在の医師・歯科医師育成のあり方、医学部・歯学部の設置形態についても検討し、医学・歯学を統合した一体教育を実施します」
 8大学(代表校が福岡歯科大で、北海道医療大、岩手医科大、昭和大、神奈川歯科大、鶴見大、九州歯科大、福岡大)が連携した「口腔医学の学問体系の確立と医学・歯学教育体制の再考」は、平成20年度の文科省戦略的大学連携支援事業に選定された。
 「法制度を含めた改革を厚労省や文科省、そして医科学会や歯科学会に働きかけています。当初は猛反発していた眼科や耳鼻科の先生方の考え方も昔と変わってきています。医学と歯学の一元化は時代の流れ、どんどん発信していきたい」

進む海外大学との提携

 福岡歯科大学では、海外の大学との提携も盛んだ。中国の上海交通大学口腔医学院、韓国の慶熙大學校歯科大学をはじめアジアの3大学と姉妹校提携を結び、カナダブリティッシュコロンビア大学と相互交流を実施している。
 上海交通大学口腔医学院の学生訪問団が、9月中旬に来日。同大を訪れた学生5名は病院の実習に参加するとともに基礎系講義等を受講。また引率の3名の教職員のうち2名の教員が同大の大学院生を対象に講演を行った。
 田中は、最後にこう話した。「経済・社会・文化の変革期にある日本で、歯学教育は厳しい状況に直面しています。しかし、福岡歯科大学は、教職員と学生の勇気と才気によって、口腔医学の未来を切り拓いています。いま行っている活動が、未来の歯科医学の希望への道となると固く信じています」
 田中の頭の中、いや全身が口腔医学のことでいっぱいだ。口腔医学の未来は、田中のリーダーシップと教職員と学生の情熱と英知で、必ずや切り拓けるに違いない。