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大学は往く 新しい学園像を求めて

<13>工学院大学
 日本初の建築学部設置
 受験者は大幅アップ 125周年記念事業も進む


 新学部設置は「吉」と出たようだ。工学院大学(水野明哲学長、東京都新宿区西新宿)は2011年の今年度、建築学部を新設した。既存の工学部建築学科と建築都市デザイン学科を改組・再編し、まちづくり学科、建築学科、建築デザイン学科の三学科。建築学部設置は、日本国内の大学で初(近畿大学とともに)だった。今年度の建築学部の受験者数は前年の建築学科と建築都市デザイン学科合計に比べ7割アップ、さらに、他の学部の受験者も前年比三割増という波及効果を生んだ。2012年には創立125周年を迎え、教育・研究の環境整備、学生・生徒の自主的活動支援、地域・社会貢献といった記念事業も進む。工学系総合大学として新しく生まれ変わろうとしているように映った。建築学部の設置、創立125周年、125周年以後のことなどを学長に尋ねた。
(文中敬称略)

工手学校の伝統引継ぐ
幅広い社会貢献活動

 工学院大学の前身の「工手学校」は、1887年、帝国大学(現東京大学)初代総長の渡邊洪基が設立。発起人は帝国大学工科大学の教授、助教授14人。設立時は、土木、機械、電工、造家(建築)、造船、採鉱、冶金、製造舎密(化学)の8学科。
 当時、政府の富国強兵政策のもと産業の近代化が進められた。しかし、近代産業を育成するための指導者を育てる高等教育機関は整備されていたが、近代化を達成するための職工が不足。これを受けて、設立された職人学校が工手学校だった。国木田独歩の「非凡なる凡人」で主人公が通う学校である。
 「教員の多くは、昼間、帝国大学で教鞭を取り、夜間に工手学校へ教えに来ていました。社会的に要求の強い、実践力のある技術者を育成しようという設立時の思想は今日まで脈々と引き継がれています」と学長の水野。
 新宿キャンパスの高層棟は地上29階、地下6階、高さ143m。大学専用の建物としては日本一の高層キャンパスである。現在、四学部、約6000人の学生が在籍。情報学部以外の1、2年生は八王子キャンパスで、情報学部と全学部の3、4年生と2部の学生は新宿キャンパスで学ぶ。
 建築学部設置について水野が話す。「新制大学になって、機化電建(機械、化学、電気、建築)の4系列でやってきました。建築には10年前から学部化の動きがありました。09年5月に理事ら経営側と大学が一緒になったワーキングチームを設け検討して決めました」
 設置のねらいは?「建築学部を作ることによって、これまで工学部の教育のなかではやや難しかった学問分野、例えば美学、社会学、心理学、法学、歴史学、地理学、福祉学といった新しい分野を幅広く取り入れることが容易になります。従来の固定的な建築の殻を破った学部です」
 一番の特長は「本学の建築は、建築学科時代から多くのデザイン系の教員もおりユニークでした。建築は芸術、アート、マネジメント、歴史と幅広い。まちづくりからインテリアデザインまで学べるようにしました。ハードからソフトまで広がりのある学部です」という。
 受験生が増えましたね?「建築学部の受験生の多寡は、本学の存亡に関わると全学挙げて後押ししました。広報宣伝でも建築学部を前面に出して、『ソフトからハードまで広がりのある新学部』とアピール。おかげさまで受験生らの反応はよく、他の学部まで波及しました」
 建築学部に期待することは?「まちづくりを学ぶことによって、就職でも行政関係に行く道を広げました。それと、インテリアデザインなど女子学生が興味を持つ学科もあり、女子学生が増えることも期待しています」
 このあと、水野は、こう切り出した。「今年度は、大学院工学研究科のシステムデザイン専攻もスタートさせました」
 「工科系大学の学生は、専門には強いがマネジメント力がないと言われ続けてきました。そこで、専門にプラスして経営、マネジメント、リーダーシップ、コミュニケーションを学びます」
 定員20人と少数精鋭で、授業料も学部の3分の2と安いという。授業は平日の夜と土曜日にも行うので社会人も通えるように工夫した。「技術系の経営幹部、技術リーダー、技術力を基礎にした起業家を育成します」としっかりアピール。
 こうした改革が行われるなか、変わらないものがあるという。「それは、面倒見のよい大学ということです」と水野は、三つあげた。
 父母の自主的な大学後援会である父母懇談会が60年前から全国で組織されている。「教員が子どもの成績を見せるなど、その後の指導に役立てています。落ちこぼれそうな学生を救うことなどにつながっています」
 05年4月、学習支援センターを設立。「入学後基礎科目を個人レベルでサポート。数学、英語、物理、化学の基礎講座を開設、個別指導もあり、年間1万3000件の相談があります」
 就職活動に対する支援体制。「インターネットによる求人情報の配信やOBによる就職支援アドバイザー制度も独自のもの。さらに、10万人を超える卒業生が、強力なネットワークをつくって支援してくれています」
 社会貢献活動も幅広い。「エクステンションセンターや理科教育センターを設置し、社会人教育から小中学生、高校生の理科教育支援まで行っている。教員の多くが政府や公共団体等の委員会で学識経験者として委員を務めています」
 若者の理科離れにも力を貸す。「子どもの頃から理科に親しむのが大事。小学校では理科の実験ができない先生が多い。そこで、先生を集めて理科実験を教えています。125周年記念事業として、地方で、小・中、高校生を対象に『理科教室』も開催しています」
 リケジョの問題(理系女子が少ない)は工学院大学も抱える。「09年に応用化学科を改編、薬や食品を学ぶコースを設け、翌年から女子学生が増えました。しかし、全体では2割弱とまだ少ない。繰り返しますが、建築学部には、その面も期待しています」
 創立125年を聞いた。「初代総長の渡邊洪基は、いまでいう転職の達人でした。外務省で大使、都知事、帝大総長と素晴らしい経歴の持ち主。125周年を機会に学生に、大学の歴史、学祖のことをもっと教えていきたい」と述べ、こう続けた。
 「125周年を単なる祝典とは考えず、少子化、大学全入と厳しい外部環境のなか、学園発展の基盤を更に強固にするマイルストーンとして捉えています」
 水野は、最後に、力強くこう語った。「125周年の来年には、25年後を見据えた『ビジョン150』を打ち出したい。大学が生き残るため、もっと教育力を高める教育改革がメインになります。トップクラスの学生をさらに伸ばす施策なども考えています」。身ぶり手ぶりで話す水野は125周年の先を見ているようだった。