特集・連載
私大の力
<58>「大槌火災」で活躍
クマ対策も効果的
「ドローン授業」大学に拡大
■「エッセンシャル」な仕事の助っ人
大型連休前に発生した岩手県大槌町の山林火事は、なかなか消し止められなかった。ようやく鎮火に向かうのは2週間後の5月6日、最終確認にはドローン(無人航空機)が使われた。
火の範囲が拡大し、そのうえ周辺には、クマの目撃情報が複数あった。消防隊員も不用意に山林に入ることはできないため、ドローンによる空からの確認作業となった。
これを「スマート防災」などと呼ぶが、ほかにも農業や物流、インフラ点検・測量へとドローンの利活用の範囲が広がるのに対応し、各地の大学で「ドローン授業」が急ピッチで増えている。
ドローンの操縦は2022(令和4)年12月から、「無人航空機操縦者技能証明」という国家資格になった。趣味で飛ばすだけなら必ずしも必要ではないが、25〓〓以上の機体や、特定の場所や夜間飛行などの場合には、1等または2等の免許取得が求められる。民間のドローンスクールも各地にできている。
このドローンを、大学の授業として履修し、卒業に必要な単位に取り込みながら、同時に国家資格の取得を目指す。帝京大(東京都)や酪農学園大(北海道)、岐阜女子大(岐阜県)などでは、早くから、ドローンに関する科目を設置しているが、最近はドローンに特化した専攻プログラムも増えてきた。
とくに専攻課程で目立つのは、単に操縦技術を身につけるだけでなく、ドローンをさまざまな「社会課題の解決」に利活用するための知識やスキルを学べる授業として位置づけていることだ。
災害対応はもちろん、農業、物流、インフラ点検などの現場では、地域社会に不可欠な職種(エッセンシャルワーク)での深刻化する人手不足がある。大学がこれに対応する地域人材を育成することで、就職の範囲が拡大する。大学によっては民間企業と連携して授業内容を工夫したり、さらには、大学発ベンチャーを立ち上げて収益事業に結び付けようとしたり、といった大学もある。
政府も、総務省や国土交通省などを中心に、「官民が共に、ドローン技術の社会実装を加速するためのプラン」を進めており、各地の大学の貢献も期待される。
■単位を修得しながら国家資格を取得
立正大(東京都)のホームページには、「ドローンの国家資格に興味がある学生さんに、進路選びの新たな選択肢として注目してほしい」と、新設の「ドローンアカデミー」について説明するコーナーが設けられた。
そこには、「本学は、国土交通省から登録講習機関(ドローンスクール)の認定を受け、2025(令和7)年度より『立正大学ドローンアカデミー』を設置しました。熊谷(埼玉県)キャンパスを拠点とするデータサイエンス学部と地球環境科学部の2年生から『ドローン講義』『ドローン実習』という授業を受講することによって単位の修得と2等無人航空機操縦士の資格取得が可能になりました」とある。
そして「ドローンの活用は、たとえば地球環境科学部では測量士補との組み合わせにより測量分野への就職に有利となり、環境測量分野、フォトグラメトリー分野などへの就職も期待されます。またデータサイエンス学部においては、強化クラブなどのスポーツなどへの応用、地域防災への協力も見込まれます」と。
強調するのは「大学の授業としてドローンを学べる」という点だ。単位修得と国家資格の取得を並行して目指しながら、ドローンによる地域社会の課題解決に結びつけるアカデミーでの授業を今後、他学部にも展開するとともに、1等国家資格も取得できるよう体制を整備していくという。
日本工業大(埼玉県)では2025年5月、スマート農業センター長(電気情報工学科教授)の平栗健史らの研究課題が、国立研究開発法人が主宰する「スマート農業技術の開発・供給に関する事業」に採択された
同大では、複数のドローンが飛行して通信ネットワークを形成することで、地形や建物に邪魔されずに活動ができる「空中ネットワーク構築」の研究に力を注いできた。一方、小型ドローンの研究では、農作物の受粉にドローンを活用することを考え、ハチの行動からヒントを得て、特殊な通信システムを開発し、トマトなどの農作物の受粉を自動化する技術開発に取り組んできた。
ドローンの自動化やネットワークの構築で、人の操作が必要だった災害現場や農業分野での利用を目指し現在、ドローンに興味のある学生に向けて5つの学科で、ドローンの設計や製造の基礎、ドローンが収集したデータの分析と活用などが学べるようになっている。
■大学発ベンチャー企業で収益事業も
ドローン技術研究を1つの柱にしようと、北海道の酪農学園大(江別市)では早くも、2009(平成21)年からドローンを用いた環境、農業、防災に関する研究を開始した。JICA(国際協力機構)でのドローン研修や北海道ドローン協会と協力しての安全飛行の講習会などを積極的に進めてきた。
今年4月に開設した農環境情報学類准教授、小川健太の研究室では、ドローンを用いた野生動物の自動カウントの研究を進め、ドローンの空撮画像をAI(人工知能)によって解析して「アザラシや渡り鳥の数を自動で数えるシステム」の技術開発が海外からも注目された。
こうした成果を元に、学校法人酪農学園では収益事業推進課を組織し、学園認定ベンチャー第1号として株式会社インターリージョンを立ち上げ、「大学の『知』の社会実装と社会貢献とを両立させる〓社会的企業〓ソーシャルビジネスのモデル」を目指して活動を始めている。
「これまでの人脈、技術を活かし、ドローンや人工衛星画像を利用した解析、GIS(地理情報システム)を利用したデータの活用、空間情報システムの開発などを通して、北海道の地域づくり、開発途上国への技術協力など、社会に貢献して参ります」という。
名古屋市の大同大のホームページからは、「名鉄ドローンアカデミーが大同大と連携、国内初、ドローン操縦国家資格の取得を支援する大学カリキュラムに協力」との見出しで、2024年1月の記事が見つかった。
それによると、名古屋鉄道が運営する名鉄ドローンアカデミーは2023年2月に愛知県で初めてドローン操縦士国家資格取得に対応する講習を開始し、多くの国家資格取得者を養成しているが、「ドローン人材の育成を通し、地域のドローン産業発展に貢献したい」として大同大のカリキュラム開設に協力することになった、という。
ドローンによって「変革」が期待されるエッセンシャルワークでは、①山間部や離島などに日用品や医薬品を配送する 物流・配送②橋梁やトンネル、送電線、太陽光パネルなど従来、人がやっていた危険な重労働であるインフラ点検・測量③災害時に人が立ち入ることが困難な被災状況の確認や、孤立した地域への緊急物資の運搬などの災害対応・救助、そして④高齢化と担い手不足が深刻な農業分野では、農薬散布や作物の生育状況のモニタリングにドローンを活用する農業(スマート農業)がある。
ドローンをビジネスとして展開するためには、安全確保と適切な操縦技術が求められ、大学でしっかりとしたカリキュラム編成も重要になっている。
■社会実装につなげる「知」の拠点へ
総務省は昨年5月、「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」でのDX(デジタルトランスフォーメーション)アドバイザーに、東京の株式会社スカイビュージャパン代表取締役でドローン操縦士の日高雄一郎を初めて起用し、官民が協力してドローン技術の社会実装を加速することになった。
同社は、たとえばスマート農業の分野では、群馬県嬬恋村で通常、キャベツ畑の生育状況の調査や農薬散布前の測量時などに使用しているドローンを、豪雨災害の際には被災状況を把握するために転用することを目指している。「平時からの運用体制を確立しながら、ドローンのみならず、トラクターをはじめとする他の農機具などを含めた自動運行も想定した仕組みづくり」を推進して注目されている。
日高は、ドローン技術を単なる「飛行するデバイス(機器)」にとどめず、データ収集・分析・活用を含む「総合的なデジタル変革」の重要な要素と位置づけている、という。そのデバイスをあらゆる現場に社会実装するためには、行政サイドとも協力して、共通認識のもとにその知見を活かした戦略立案がますます重要になるとしている。
ドローンのテクノロジーは日々進化するものの、一方で、その利活用のための自治体レベルでの戦略をまとめ、その戦略をもとに社会実装につなげる人材が不足している。
いま、まさに地域課題の解決に、「知」の拠点を自認する大学の出番が来ている、と言えそうだ。
