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特集・連載

私大の力

<12> 新文科相への期待 戦後の流れ「見る力」で
「分厚い中間層」私大がつくる

平山一城

■職員には「予算にもう少し欲を!」

 岸田文雄新内閣の文部科学相についた参議院自民党の末松信介は10月5日、就任後初の記者会見で「首相からの指名の電話は正直、驚いた」としながら、「文科省の予算は5兆3千億円ほどだが、(職員たちには)その予算に対してもう少し欲をもって折衝に当たってほしい」と語った。
 文科行政の経験が浅いことを意識して、会見では慎重な発言に終始した末松だったが、この予算要求への考え方については、前任の萩生田光一との引き継ぎで話し合っていたことを明らかにした。
 伏線があった。
 萩生田は前日4日の記者会見で、約40年ぶりに実現した公立小学校での少人数学級をめぐり、財務省との予算折衝が熾烈を極めたことを語っていた。
 「最大の決戦は何と言っても35人学級でした。本当は30人で勝負したかったが、お隣の役所(財務省)の壁が高くてなかなか攻略ができませんでした。今後も、少人数学級をさらに充実をさせていきたい」
 そして、2年の在任中の文科省の印象を聞かれると、「優等生の役所で品はいいが、(他省庁との折衝では)負けグセがついている。もちろん交渉のなかでバランスを考え、我慢しなければならないこともあるが、ここ一番、引いてはいけないところではがむしゃらに闘えと言ってきた」とし、「ガツガツ」と貪欲な他省庁の役人たちにも気後れすることのないよう求めていた。
 日本の公的教育予算は、対GDP(国内総生産)比で世界のなかで圧倒的に低い。萩生田は教育予算のあり方についてこう語った。
 「言い訳になるかもしれませんが、教育行政はすぐに単年度で結果を出せないことがたくさんあります。ですから最前線で重要性が分かっている私たちが、財政当局に『いまこれを始めなければ5年後はない』と説得力をもって説明していく必要がある」と。

■「高度経済成長」は私大の拡大とともに

 その新内閣は経済政策で「新しい資本主義の実現」をうたい、「成長と分配の好循環」と「新型コロナウイルス収束後の新しい社会の開拓」をコンセプト(基本理念)に掲げた。
 これまでの「アベノミクス」下での格差拡大を是正して「分厚い中間層」をつくり、消費や企業の投資が活性化することを目指す。コロナ後を見据えて、新たな経済・社会のあり方を議論していくという。
 首相は記者会見で、コロナ禍によって大きな影響を受けている人たちを支援するため、経済対策を策定する方針を明らかにし、「大変苦しんでいる女性や非正規、学生の皆さんといった、弱い立場の方々に個別に現金給付を行うことは考えていきたい」とも述べた。
 一方、立憲民主党代表の枝野幸男も、街頭演説などで「格差是正で、貧困(世帯)を分厚い中間層へ復活させていく」と訴えてきた。
 「中間層」は、今回の総選挙のキーワードになりそうだが、「復活」という言葉にもあるように、かつての日本は「総中流社会」と呼ばれていた。
 1960年代、農村から都市部への人口の大移動があり、大衆社会状況と新中間層が創出され、保守の安定支配のもと経済大国化が進んだ。リードしたのは自民党の現岸田派(宏池会)の生みの親、池田勇人だった。
 当時の池田政権の下で加速化した高度経済成長が、戦後ベビーブーム世代の受け皿となった私立大学の設立機運を促し、その数が急速に増えていく。やがて「高度経済成長がなかったら私大の急成長もなかったろうし、私大がなかったなら高度成長もなかったろう」というのが常識のようになる。
 そこで「総中流社会」を実現する分厚い中間層が生まれたのだから、私大の貢献の大きさは言うまでもないだろう。

■修学支援は「個人」と「機関」の両輪で

 昨年スタートした「高等教育の修学支援新制度」をめぐって、行政側と私学側とのせめぎ合いが続いている。
 今年4月の記者会見で、萩生田は次のように語った。
 「修学支援新制度が2年目を迎えました。この制度は、家庭の経済事情に左右されることなく、誰もが希望する質の高い高等教育を受けられるよう、真に支援を必要とする者に対し、授業料などの減免と給付型奨学金の支援を行うものです。初年度である令和2年度は、27万人に対し支援を行いました」
 「その対象者にアンケートをしてみましたところ、新制度がなければ進学は諦めていた者が34・2%、新制度がなければ今の学校より学費や生活費がかからない学校に進学した者が26・2%との状況であり、新制度が真に支援が必要な子供たちの進学の後押しになった面があるものと考えられます」
 日本私立大学協会(私大協)も、「修学支援新制度は、教育の機会均等の観点から画期的であって望ましい施策」と歓迎した。しかし一方で、「ユニバーサルアクセス時代の分厚い中間層への支援には早急かつ適切なる制度拡充が望まれる」と注文した。
 ことに、この新制度発足によって、それまでの私立大学等経常費補助金の「授業料等減免制度」への支援が廃止されたことに懸念を表明した。
 廃止によって、それまでの制度の恩恵を受けてきた「中間所得層」の学生に対する授業料減免がなくなり、私大で学ぶ低所得層と中間所得層の学生の間で、授業料を含む学納金負担に著しい格差が生じることになる。
 私大への経常費補助金は、教育研究の維持向上と経営の健全性確保に加え、「(学生の)修学上の経済的負担の軽減」もその重要な目的である。18歳人口の減少や必要コストの高騰などにより、私大の経営環境が一段と厳しさを増すなかでも、授業料を含む学納金そのものの軽減を目指すためには私学助成などの拡充が重要だ。
 そうした観点から、私大協としては「機関補助」と「個人補助」の両輪で制度改革が進むよう訴えてきた。
 折しも、先月発表された日本私立学校振興・共済事業団の調査結果では、私大全体の今春の入学定員充足率が初めて100%を下回ったことがわかった。
 18歳人口の減少に加え、コロナ禍の影響による外国人留学生の入国制限、文科省による都市部を中心とする大学への定員厳格化などが、その理由として挙げられる。
 私大の収入は約8割を入学金や授業料などに頼っているが、コロナ禍に伴うオンライン教育への対応、衛生環境の向上といった新たな経費負担も増えている。

■「現場に出向く姿勢」で公平性の確保を

 新文科相の末松は、就任後初の記者会見で、首相が表明したコロナ禍対策の現金給付に学生も対象として挙がったことについて「関係省庁と連携して対処したい」と述べた。
 さらに、感染が再拡大した場合も地域一斉の休校には慎重な判断が必要だとし、「学校は学習機会だけではなく人格的な成長を保障する役割もある。できるだけ対面授業を展開していくことを心掛けるべきだ」と強調した。
 また、首相が自らの「聞く力」を強調していることを引用しながら、自身は教育現場を積極的に訪れて「見る力をつけたい」という。その際には是非とも、私大関係者とじっくりと意見交換をしてもらいたい。
 参院国対委員長を務めるなど与野党にパイプのある末松には、戦後の高等教育のなかで私大が果たしてきた役割を見据えた公平な政策遂行を期待したい。
(敬称略)
 平山一城