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地域共創の現場 地域の力を結集する

<9>四国大学
学長の強いリーダーシップで推進
地域連携コーディネーターを2地域に配置

徳島県は、地理的に東部・南部・西部に分かれるが、徳島市のある東部に人口が移動する傾向にある。しかし、徳島市も淡路島を挟んで京阪神に近いため、さらに東に人口が移動していく。産業といえば、農業のほかに養蚕・藍染めが有名だ。また、期間中は徳島市の人口の3倍近くが訪れるという阿波踊りは、県を挙げての盛大なお祭りとなる。そのような徳島市の中央市街地である徳島駅から吉野川を越えてすぐに四国大学は立地している。長い女子大学時代を経て、1992年に共学化。現在は文学部、経営情報学部、生活科学部、看護学部、短期大学部を有している。同大学の地域での取り組みを松重和美学長、石田義夫参事、徳山直人・久米直哉両地域連携コーディネーターに聞いた。

●2市町との戦略的な連携

同大学は、文部科学省の2014年度「地(知)の拠点整備事業(大学COC事業)」採択を契機に、「SUDAchi(Shikoku University Dream Achievement四国大学夢実現)」をコンセプトに掲げ、地域での取り組みを本格的に開始した。主な連携先は、徳島県、徳島市、県北西部の美馬市と県南部の美波町である。

美馬市は、県西部の中心都市ではあるものの、年々人口が減少、高齢化も進んでいる。「うだつが上がらない」という慣用句の「うだつ(裕福な家の象徴)」の町並みが有名である。2009年度NHK後期連続テレビ小説「ウェルかめ」の舞台となった美波町は、県南部に位置し、ウミガメの産卵、漁業や漁村留学による町おこしで全国的に有名になった。こちらも人口減少と高齢化が進む。

両自治体はともに、人口減少・高齢化に危機感を抱き解決策を模索していた。特に若者に大きな期待を寄せていたため、大学からの呼びかけに対して、スムーズに連携事業や包括的連携協定に話が進んだという。ユニークなのは、自治体側からのオフィスの積極的な提供(役所内)により、「スーパーサテライトオフィス(SSO)」を設置したこと、企業出身コーディネーターを招聘しSSOに常駐してもらったことだ。中心市街地駅ビルや大都市圏にサテライトオフィスを置くケースは多数あるが、地域連携を目的として常駐スペースを設置するケースは少ないのではないか。

「国立大学等でもサテライトオフィスにコーディネーターを配置しますが、多くは教員が兼任します。するとオフィス不在のことが多いですし、研究者なので自身の研究対象を優先させがち。また、市民からは「敷居が高い」とも聞きます」と松重学長。一方、徳山・久米両地域連携コーディネーターは地域ニーズ中心に仕事をする。「常駐しますから、市民や自治体職員がよく足を運んでくれます。そこで悩みを聞いたり新しい政策の話をします。彼らのニーズから本学のどの教員が適任かを考えマッチングしていきます」と徳山コーディネーターは説明する。企業出身ということが功を奏しているのだという。

●松重学長のリーダーシップ

京都大学でベンチャー・ビジネス・ラボラトリー施設長、国際産官学連携・イノベーション担当副学長を歴任した、産学連携の専門家である松重学長の強いリーダーシップのもと、「SUDAchiプロジェクト」を大きく、①教育、②地域研究、③地域貢献にカテゴライズし、それぞれ象徴的な取り組みを定めた。地域からのボトムアップの取り組みも当然あるが、地域連携のコンセプトを一枚の絵に描き切ったことはまさに松重学長の腕の見せ所だった。

具体的に見てみよう。まず、①教育は、「新あわ学」に代表される。これは、教職員をはじめ、学外有識者、NPO、学校、教育委員会、マスメディアなど徳島に関わるプレイヤーを大きく巻き込み、歴史、文化、生活といった知見・知識、そして、阿波踊り、藍染め、人形浄瑠璃といった実演・体験、また、地域活性化の処々の取り組みを、体験型の「あわ検定」として体系化・教材化し、同大学をはじめ教育機関で活用・普及するもの。この蓄積は、この春に『大学的徳島ガイド―こだわりの歩き方』と題した書籍にもなる。また、研究や地域貢献に資する「新あわ学研究所」の開設も行なう。

②地域研究は、「地域志向型研究」と位置付けて、教員に学内公募を行っている。中には地域体験型学習と連動させ、学生が参画するものもある。2015年は10課題、2016年は11課題で、「食用藍の機能性成分に関する研究」や「阿波みかん発祥の地・勝浦町で学ぶ農家の課題解決」などが採択された。①教育にもリンクするが、地元からの進学率・就職率が高い同大学においては、学生が地域の魅力を知り、地域を再発見する非常に重要な取り組みである。美馬市での活動に参加した学生の次の感想が端的にそれを表しているのではないだろうか。

「素晴らしい景色や自然、地域の料理や文化に触れたこと、もてなしをしてくださった地域の皆さんと交流したことで、もっと多くの人にこの地域を知ってほしいと思うようになった」。

また、次の感想は、大学にとって喜ばしい"成果"でもあろう。「地域の中での四国大学への信頼感が増した」。

最後に、③地域貢献である。これは先述の2つのSSOが大きな役割を担っている。実績として、美馬市SSOへ要望があった事項は2015年度に45件、2016年度(~1月)に32件、美波町SSOへ要望があった事項は2015年度に14件、2016年度(~1月)に19件であった。これら要望を教員に橋渡しし、学生を巻き込みながら課題解決に取り組む。これは①教育にも②地域研究にもリンクする。

美馬市では、シバザクラの名所として知られる広棚地区の「芝桜祭り」で学生が来場者アンケート調査を行い、利便性の向上などを提案した。美波町では、薬王寺(四国霊場の一つ)の絵画、石造物、古文書、典籍など文化財調査を行い、住民に発表するなどした。

もう一点、2015年度からは「サテライト双方向遠隔講座システム」を利用した講座を美馬市、美波町、古川キャンパス、徳島駅近くの交流プラザで開設し、「四国大学SUDAchi講座」として行う生涯学習プログラムを行っている。

こうした取り組みは、地域教育・連携センターの学内組織「SUDAchi推進室」に集約される。また、徳島地域活性化SUDAchi連絡協議会は、協定を結ぶ徳島県・徳島市・美馬市・美波町・産業界をメンバーとして開催される。「他にもCOCの会議では様々な自治体に参加してもらいます。こうした会議の場で自治体間の連携話に発展することもあり、大学が地域の様々なセクターの連携を促す触媒として機能することもあります」と石田参事。同大学は、美馬市や美波町のほかにも、産業界、学校、県や市町村との協定締結数は実に100を超えるが、大学が連携協定先同士を繋げていく「仲介」機能が期待できよう。

国立の徳島大学も同じ立ち位置にあり、四国大学より多くの地域にサテライトオフィスを構えている。しかし今のところは、県内の高等教育機関同士でうまく差別化や競合しない地域で取り組みが行われているという。国公立大学、私立大学がバランスよく県内で連携できれば面積の広い県でも全域カバーが可能となるかもしれない。

一市一町との連携した取り組みは、2015年度から現在に至るまで、週に数回ペースで徳島新聞をはじめメディアに取り上げられ、その名が徳島中に知れ渡っている。その効果も相まって、2016年度から定員は充足。2017年度もさらに入学者増になる見込みだという。地域連携、教育、広報がシナジー効果をもたらした結果である。

●実は地域活性モデルの宝庫・徳島県

徳島県は、全国的に地域活性化で有名な地域が多い。神山町、上勝町など、ここでは紹介しないが、いずれも全国モデルになっている地域である。県南の市町が2015年、県内外の大学生が県南の課題や歴史を学ぶ「県南地域づくりキャンパス事業」をスタートさせているように、地域側も学生を呼び込むことに熱心でもある。

ある意味で、同大学はこうした豊富な「地域資源」を教育に活用していると見ることができる。地域の力を借りなければ、本格的に地域での取り組みを始めて、この短期間で爆発的に取り組みを伸ばすことは不可能だったかもしれない。加えて、四国には「讃岐男に阿波女」という言葉があるように、女性は元気で働き者であるという。こうした県民性のもと、長らく女子大学であった同大学では、地元で地域の取り組みに携わる女性、あるいは夫人は同大学出身者ということも少なくなく、それが地域の、同大学への信頼に繋がっていったのである。

大学が地域に取り組む理由を四国大学、特にSSOの事例から2つ見出すことができる。

1つ目に、SSOがあれば、大学が立地しない地域のニーズ・課題の吸い上げが比較的容易になる点である。この場合、同大学のような常駐の地域連携コーディネーターの役割が重要となる。松重学長が指摘したように「コーディネート」に徹し、地域の本当のニーズと大学のシーズをマッチングさせなければならない。

一方、大学とSSOが離れすぎていてもその後のフォローが難しくなるため、同一県内程度の範囲でのSSOが望ましいと言える。SSOはまさに地域連携の最前線基地であり、自治体との関係に好循環を生んでいる。自治体側からは、大学COC事業終了後も補助金を付けるので継続してほしいという話もあるという。

また、こうした活躍を聞きつけて、2月には同県石井町とも連携協定を結ぶこととなった。小林智仁町長は、「(町役場内に)1階の窓口に近い場所に円卓を用意し、気軽に寄れるようにした(日本経済新聞電子版、2017年2月14日付)」と述べるように、連携に高い期待を寄せる。

2つ目に、大学がない自治体がSSOと組むことで、都市部の民間シンクタンク等を頼らずに地域活性策を立案できる点である。シンクタンクに丸投げするといつまでたっても地域にその能力が定着しない。SSOが間に入りながら大学がその任を得ることで地域が自立していく力を育てていくことができる。

とはいえ、小規模私立大学にはできることが限られている。SSOもすべての市町村でできるわけではない。看護や管理栄養など、特に得意なジャンルと地域ニーズがマッチした場合に限られる。久米地域連携コーディネーターは、「お互いの危機感がないと実のある連携にはならないと考えています。名ばかりの協定にしないためにも、経費負担は双方で行います」と述べる。

同大学では、地域活性化に資する人材育成のため、地域教育を体系的に整備するとともに、その一環としてボランティア活動やスポーツを中心とした学生の課外活動支援にも積極的に取り組んでいる。これまで陸上、サッカー、バレーボールの各協会や弓道連盟と包括的連携協定を締結して各クラブの強化と競技力の向上に努めてきたが、2016年には、県ラグビーフットボール協会と包括的連携協定を結び、女子ラグビークラブを創部してオリンピックや国体で活躍できる選手の育成を目指す。

矢継ぎ早に連携を打ち出す四国大学には並々ならぬスピード感がある。上勝町で葉っぱビジネスを展開する「いろどり」の横石知二社長が2015年に同大学生の前で「できない理由を付けて逃げるのではなく、プラス思考でやっていくことが大切(徳島新聞、5月18日付)」と語りかけたことは、大学にこそ当てはまると言えよう。