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<15>佐久大学
“地域医療の聖地”強みに
グローカルな地域看護の取り組み

佐久市は、長野県東信地方の第2都市であり、古くは中山道と佐久甲州街道の宿場町として発展した。現在は北陸新幹線停車駅(佐久平)で、観光が主な産業の1つになっている。佐久といえば健康長寿都市であり、国内外に知られた地域医療先進地域である。人口10万人当たりの看護師数1197人、保健師数71名、助産師数34名で、高齢者1000人当たりの訪問看護利用者数は41.3名と、日本で最も訪問看護が充実する地域でもある。これらの数字を支えるのが佐久総合病院と市立浅間総合病院を中心とした医療機関。この源流に故・若月俊一医師の苦闘があった。数々の書籍やNHK「プロジェクトX」でも取り上げられ、農村医療、地域医療の生みの親とも言われる。そのような地域に看護学部単科の佐久大学がある。地域連携について、堀内ふき学長、坂江千寿子学部長、佐藤嘉夫学術顧問に話を聴いた。

●地域医療の聖地

もう少し若月医師について触れたい。若月医師は、東京帝国大学医学部を卒業後、佐久総合病院に赴任。戦後すぐの農家にとって医療費は大変高価であり、怪我や病気の際にはまじないや民間療法に頼るか、我慢するしかなかった。そうして「手遅れ」になった患者が運び込まれてくることに疑問を感じた若月医師は、定期的に近隣農村に出かけ健康スクリーニングを行う。八千穂村全村一斉健診は、予防医学の有効性を実証的に証明し、現在の健康診断のモデルにもなった。

また、農村に多く見られた回虫駆除に民間療法を導入したり(当時はサントニンが手に入りづらかった)、農家特有の「こう手」と呼ばれる病気の治療に尽力したりと、常に「農民とともに」ある医療を目指した。この農村医療こそが若月医師が目指し、「地域医療の父」として国内外に広く知れられる取り組みとなったものである。佐久総合病院に勤務した作家でもある南木佳士医師は、著書「信州に上医あり(岩波新書)」の中で、「長野県は全国でも1、2位の長寿県になったが、これは県民の健康に対する意識の高さが一因であると分析されている。若月は自ら語ることはないが、私はこの健康意識の向上に健康スクリーニング活動の与えた影響は少なからぬものがあると考えている」と記しているように、いわば、戦後日本人の健康を支えてきたと言っても過言ではない。1976年には「アジアのノーベル賞」と呼ばれるマグサイサイ賞社会指導者部門で受賞した。

若月医師は「農村医科大学」の設立にも熱心だった。結局、それは叶わなかったものの、2008年に長野県、佐久市、JA長野厚生連等の出資により設立されたのが佐久大学である。県内進学率は約7割、県内就職率が約8割はまさに「地域のため」。1988年より先行していた信州短期大学部はビジネス系学科のほか介護福祉士養成も行う。2009年に新設された別科助産専攻では助産師の養成を行うなど、医療関係者養成に尽力してきた。2012年には大学院も開設。「地域貢献の文化は短大時代から。商工会議所などとも連携事業を行っていました。地域ではむしろ短大の知名度が高いです」と佐藤顧問。

●地域に張り巡らすネットワーク

大学・短大では地域連携を2つのカテゴリに分類している。

1つが地域活動連携事業であり、①産学官連携事業(佐久市足育推進事業、LLP佐久咲くひまわりなど)、②行政機関・商工会議所・各種団体などへの協力(佐久病院祭、健康づくり佐久市民の集い、ぞっこんさく市など)、③行政機関等委員会等の委員就任、④相談事業などである。特に、②については学生のボランティア参加が多い。

もう1つが教育研究連携事業であり、①公開講座の開催・講習会等への講師派遣(佐久大学・信州短期大学部の公開講座)、②研修事業(臨地実習指導者研修セミナー、看護研究塾など)、③研究会・学会の開催(信州介護学研究会(介護環境改善研究会)など、佐久地域ケアネットワーク(SCCnet)など)である。大学としては、教員一人ひとりが自分の専門を生かした取り組みをボトムアップで行い、事後に報告を受けることで把握することが一般的である。

具体的に2つの事業を紹介する。

まず、「足育推進事業」である。足育(あしいく)とは「足や靴についての知識を得て、正しい姿勢や歩き方を身に付け、トラブルのない健康な足や身体を育てること」である。2014年に、佐久市、佐久総合病院、佐久長聖中学・高校、シューズメーカー、そして、佐久大学が産官学で佐久市足育推進協議会(初代会長は、宮地文子前副学長)を発足させ、子どもへの啓発、地域住民の健康増進を図ってきた。大学に事務局をおき「足育サポートセンター」を開所し、足や靴に関する個々の悩み相談などを受け付けているという。また、看護師は立ち仕事で足を酷使するため、学生が自分の足を把握して正しく靴を履き、足爪のトラブル予防を意識化できるように、フットプリントを取って一人ひとりの足に合った靴の提供を試みている。「足から始める健康づくり」をモットーにした地域ぐるみの取り組みに、阿部守一長野県知事は佐久市視察の際に自らもフットプリントを取りつつ、その有用性に注目した。このことが「足の集団健診用機器」開発という県予算の産学官連携プロジェクトに繋がっている。

次に、「SAKU看護管理研究会」や「看護研究塾」などの勉強会である。教員が草の根で行っているもので、SAKU看護管理研究会は2014年から始まった。徐々に参加者が増加し、東信地区の16か所の病院の看護部長から看護主任まで100名弱が登録している。人事管理や労務管理、安全管理などマネジメント知識は病院管理者からのニーズが高く、遠くは山梨県の病院等からの参加者もいる。看護研究塾は、卒業生からの要望に応じる形で企画された。現場の若手看護師が研究活動を行う際、研究課題ごとにサポート教員がつき、また、大学設備を利用して文献収集や統計解析ができるなど、「ここに来れば知りたいことを知ることができる」ことを目指した勉強会であり、近隣の看護師が参加して2年目となる。また、開学以来実施している臨地実習指導者研修セミナーでは、臨床の看護師、看護管理者を対象として、各自の教育観や指導者役割の獲得を目標に学び合う。県外からの参加もあり、本企画は定着している。他にも短大では、JA長野会と「信州介護学研究会(介護環境改善研究会)」を開催し、介護の質を上げる取り組みを行っている。こうした研究会は現場の看護師、ケアワーカーのニーズに合わせて担当教員ができる限りのリソースを提供している。

●毎月1組の海外研修受け入れ

過去に若月医師が誘致した「国際農村医学会」などで、佐久の地域医療が世界に知れ渡ったころから、佐久の医療機関への海外視察希望者が増加した。大学でも開学当初の2008年より徐々に受け入れ、国際協力機構の「要援護高齢者等のための介護サービス開発プロジェクト(LTOP)」で、タイの研修団を受け入れてきた。年々増加する海外研修に対応するため、市と大学は「保健・医療のつばさプログラム」として受け入れ体制を強化した。現在は台湾、アフガニスタン、コンゴ民主共和国、グアテマラ共和国、ブラジルなどから、毎月平均1組、時に20名を超える視察や研修を受け入れ、法制度の理解、保健活動や支援センターの運営、病院の施設見学、訪問診療、人材育成、在宅医療体制、介護の研修プログラムなどを行っている。「大都市圏の受け入れでは座学で終わってしまうところ、本プログラムは、病院からの訪問診療や訪問看護ステーションからの在宅ケアにも同行し、家庭内で見学ができます。こうした取り組みは市民の理解があってこそ。佐久地域は医療機関と市民、そして、市と大学が厚い信頼関係で結ばれています」。地域(ローカル)の最先端の取り組みが、世界(グローバル)に繋がる好例と言えよう。

大学と佐久市とは、前述の足育、国際協力のみならず市長から現場レベルまで友好な関係が築けている。市は「世界最高健康都市」を目指して、2011年に「世界最高健康都市構想実現プラン」を策定したが、この実現には当然、大学の協力が織り込まれている。世界最高健康都市懇話会の初代会長は竹尾惠子前学長であった。

栁田清二市長と堀内学長は顔を合わす機会が多く、その都度、今後の連携事業について話し合うし、多くの教員が市の各種委員会委員に就任しており街づくりに貢献する。「逆に大学も実習などで市の医療機関などにお世話になりますから、持ちつ持たれつの相補的な関係です」と坂江学部長は説明する。

●国内外に有名な病院との連携も

当然だが、佐久総合病院をはじめ、病院・医療センターなど地域の医療機関との深い信頼関係も構築されている。「大学開設当初は、実習の受入機関としての関係という程度でした。しかし、卒業生が地域の医療機関に就職をしたり、教員が病院の評議員なども積極的に引き受うけたり、研究会等で病院管理者と繋がったりと、本学の取り組みを好意的に受け止める医療機関が増えてきました」と堀内学長。その結果、新規事業を行う際には、「佐久大学が行うなら」と広く協力が得られるまでになった。

例えば、2018年4月から、大学院で特定行為研修を予定しているが、大学院教育の中で行う体制は、全国160校ほどの看護系大学院では9番目、長野県内では初めてになる。このような教育における講義や実習においては、現場の医師の協力が必要不可欠だ。「地域の病院への協力依頼はスムーズに進みました。これまでの信頼関係があるからこそ実現したと思います」。この取り組みに対しても地域で周知されてきており、大学院で学びたいという受験生も集まりつつあるとのことだ。

「外部からの依頼にはできるだけ全て応える姿勢です。フットワークの軽さ、学内の風通しの良さが小規模私立大学の良さではないでしょうか」と坂江学部長。JAの力が強い長野県下において、その関係性も追い風となっているようであり、JAからの奨学金を全学生のほぼ三割が受給している。「医療機関との信頼関係構築において、何より重要なのは良い教育をして、良い看護師を養成し、各機関に輩出し、良い評価を頂く。これに勝る信頼はありません。この評価が更なる学生の就職先にも繋がります」。長野県が次期総合5か年計画策定に向け6月12日に、学生からの提言を受けた際には、「若者が食べることを楽しみながら健康づくりを考える「祭り」の開催や、若者が地域の健康イベントの情報を得やすい環境づくりなどが話題に上った(信濃毎日新聞、6月13日付)」とあるように、看護師の卵である学生たちの「健康」への意識は高い。

地の利に甘んじることなく、地域医療に何ができるかを模索した結果、その特性を十分に発揮した取り組みを実行してきた。収容定員360名という超小規模の単科大学ながら、国公立大学ではできない取り組みを進め、広く医療機関からの信頼も勝ち取り、結果として、学生の実習先、そして、共同研究先を開拓してきたのである。地域ニーズに寄り添う姿勢は、まさに若月医師の、住民主体で、住民と共に健康的な生活を過ごすことを目指していくという意思を受け継いでいるともいえる。

現在、大学では地域医療、在宅ケア等に重点を置いた看護教育に力を入れようとしている。全国に看護学部が急増する中、国内外で名声のある佐久の地域資源を十分に生かした看護師の養成という方向性は正しい。また、「日本のケアは、看護と介護が連携してその人丸ごと支援をします。これは非常にアジア的だと思います。更に佐久ではケアの理念を住民と一緒に学べます。日本のケアの良さを更に世界に打ち出していけると思います」と堀内学長が述べるように、グローバルを視野に入れた取り組みも期待ができる。地域そのものがオンリーワンの特徴を持ち、また、地域ニーズに寄り添った実態のある取り組み、そしてネットワークの中で、学生は鍛えられ巣立ち、また、大学の良きパートナーとなる。こうした循環が佐久大学をより大きくしていくのだろう。