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<13>長岡大学
大学総出で地域課題に挑戦
学生の取組が「ふるさと納税」の返礼品に

●短大時代の地域研究センター

2001年にそれまでの短期大学から4年制大学に改組転換した。短大の理念「地域に開かれ、地域に貢献する大学」を継承し、地域志向にさらにアクセルを踏む。文部科学省の現代GPに「産学融合型専門人材開発プログラム」と「学生による地域活性化提案プログラム」の2テーマが採択。両プログラムは教育の根幹となり、将来の地域社会の発展を担う〈創造人材〉の養成を掲げて、今度は2013年に大学COC事業に採択された。
創造人材養成プログラムは、①地域連携型キャリア教育(教育)、②地域課題対応型連携研究(研究)、③地域活性化・人材育成(社会貢献)の3本柱からなる。①は現代GPのプログラムに加え、上級資格取得のための「資格対応型専門教育」を充実させた。インターンシップ、地域志向科目の充実、ボランティア活動への参加、学生起業スキルの養成...これまでのノウハウと地域人脈の全てを教育に注ぎ込む。②は、「人口減少問題等に関する全国市町村アンケート調査」等をはじめ、教員から研究テーマを募り、毎年5件ほどを選定、地域に研究成果を還元する。③は、市民公開講座や企業人セミナーの開催を行い、市民を地域づくりに巻き込む仕掛けとなっている。
何故、定員400名という超小規模大学で、大学COC事業に採択されることができたのか。「短大時代に開設した「地域研究センター」の存在が大きいです。1991年、短大付属機関として、当時は珍しい「地域研究センター」を開設し、地域課題の調査研究を行ってきました」と原田総括マネージャー。地域の企業・産業団体・自治体との共同で行われ、ゼミなどを通じて学生の成長に結びつけられ、その成果はシンポジウム等により地域に返される。この中でネットワークが形成され、地域のシンクタンクとして機能してきたのである。大学COC事業は、およそ25年に及ぶこうした地域連携の延長に過ぎない。
採択を機に、同センターは生涯学習センターと統合し、「地域連携研究センター」と装いを新たに発足した。市内の各セクターへのアンケート調査や実態調査など委託事業のコーディネートを一手に担い、地域連携教育として学生も巻き込んでいく。「実務家出身教員が多く垣根も低いです。学生数が少ないので、複数プロジェクトでそれぞれ中心的役割を担い、充実感と当事者意識が育まれます」と小松教授。このように教職員・学生が総出で地域に出て地域課題に挑戦する。超小規模大学だからこそ可能な取り組みと言えよう。その中で特徴的な取り組みを2つ紹介したい。

●学生発地域ぐるみの十分杯プロジェクト

1つ目が、權五景教授とゼミ生による「十分杯」のプロジェクトである。十分杯は、8分目を超えて注ぐと中に入っていた全ての酒が底の穴から漏れてしまう酒器で、長岡藩3代藩主牧野忠辰が、十分杯の「満つれば欠く」「足るを知る」というメッセージに強く感銘を受け、藩士たちの倹約と戒めのために使用したと言われる。その後、長岡では祝い事の引き出物として贈られることもあったが、知名度は非常に低かった。2011年に權ゼミの学生が長岡歯車製作所を訪れこの十分杯を見たとき、地域活性化に繋げようと広報活動を始めた。この取り組みを聞きつけた観光関係者や長岡市職員が興味を持ち、2014年には「十分杯会議」を開催。現在は市内の居酒屋で取り扱うとともに、主要な土産物にもなっている。2015年にはJRの観光列車「越乃Shu*Kura」での十分杯体験イベントも行われ、2016年にはふるさと納税の返礼品になった(2016年単年の返礼品)。この取り組みに、市民からは「学生が地元の文化を下支えするのは素晴らしい」(新潟日報、2016年5月28日付)と称賛する声があがった。まさに学生発の地域を巻き込んだ取り組みである。
2つ目が、鯉江副学長とゼミ生による「まちの駅」プロジェクトである。新潟県には「まちの駅」が129駅ある。そのうち126駅とアポを取り、学生から見た魅力をパネルにして展示したり、ヒアリング調査も展開、各駅でのイベントも行った。実は大学自体も「まちの駅」であり、大学公認で「まちの駅」なのは全国で2大学のみである。「学生は電話で駅にアポイントを取りますが、そこからコミュニケーション力が鍛えられます。数回こなすと面白くなって学生がのめり込んでいきます」と教育効果を述べる。また、「まちの駅でのパネル展示は大学の宣伝にも繋がり、これを見た高校生が地域活性化の取り組みをしたいと本学に入学してきたケースもあります」と述べる。
他にも県内の酒蔵で大量に生産される酒粕を使った「薫酒クリームチーズ」(2017年からふるさと納税の返礼品に加わった)の共同開発や、地域住民と共に数か月かけて作成した「悠久山おもひでMAP」、「栖吉おもひでMAP」「高橋九郎マップ!」など、年間20程度の地域活性プロジェクト・地域調査などが行われている。こうしたプログラムの中で、学生たちは地域の人々とふれあい、そして、感謝をされて心の変容を経験し地域課題が"自分ごと"になっていく。地域志向科目受講生のうち、半数以上が「地域の企業や自治体等に就職しようとするきっかけになった」とも答えている(2014年)。まさに地方創生政策にかなう成果ともいえよう。一方、8つの地域活性化の成果発表会を聞いた一般参加者は、「取り組みが地域活性化に役に立つか」という問いに対して約7割が「役に立つ」と回答し、同大学への期待の高さをにじませた。

●中心市街地と中山間地域

長岡市役所は、人口減少していく地域の在り方に対して危機感が高い。短大時代からの連携もあり、教職員と市役所職員(特に政策企画課)はツーカーの仲で、市役所内ではどの教員に相談すればよいか情報共有ができている。長岡市をはじめ近隣市町村の各種委員会には毎年平均一五名の教員が参画する。「委員を務めていると、市や町にどのような課題があり、市がどのように考えているのか分かります。大学として政策の理論的裏付けになる研究、政策を具体化するゼミ活動などを行います」と鯉江教授。まちの駅プロジェクトは、まさにそのような経緯で始まった。
「長岡市と言っても、中心市街地と中山間地域では抱えている課題が異なります。前者であれば、産業活性・観光活性が大きな課題ですが、後者だとそもそも高齢化が進み人口減という課題になる。栃尾地区の商店街は伝統的なお祭りの担い手が不足し、本学の学生15名により無事に開催でき、地元からは感謝されました」と中村准教授は述べる。中心市街地では、先述の十分杯やMAP作りに代表されるように、市民も積極的に参加する。「米百俵の精神もそうですが、市民の憩いの地である悠久山から中心地までの道路は、大正時代に市民有志が建設したことなど、昔から長岡の人々は地域を良くしていこうという意識が高いのです」。そんな市民からは、GPやCOCの採択もあり、地域づくりの良きパートナーと認識してもらっている。
産業界、特に地元中小企業社長は若者育成に熱心で、学生を見つけると声をかけてくれる。中小企業の地域活性化組織である「NPO法人長岡産業活性化協会NAZE」は大学と地元製造業との交流の場でもあり、そのほかにも中越防災安全推進機構、山の暮らし再生機構などの公益法人にも役員として教員が参画する。「関わり続けることで人脈も信頼関係も生まれる」と村山学長。こうした社会関係資本(ソーシャルキャピタル)の高い地域で、同大学の地域連携は成り立っている。
「地域のイベントには必ず知人が半数はいる。知人の知人が地元企業の社長。長岡市はそういう規模の街です。訪問先で声を掛けて頂き、学生を気にかけてくれ、課題を相談されます」と品川事務局長は述べる。学生が楽しそうに何かを始めると、"どれどれ"と市民をはじめ大人たちが寄ってくる。その大人たちが関係しそうな企業を引っ張ってくる。そこに市職員が顔を出し、市役所としても関わり、街を巻き込んだ取り組みになる...。地域活性とは市民の活性だと村山学長は言う。「地域の人に活動しようとする気にさせることです。それには教員だけではだめ。楽しそうな学生の姿が大事なのです」。

●3大学1高専の一体的な取り組み

市内には、同大学の他に国立長岡技術科学大学、市立化した長岡造形大学、そして、長岡工業高等専門学校の三大学一高専が立地するが研究領域はどこも重ならない。関係も良好で、2~3か月に一度学長が集まって情報交換をする。「まちなかキャンパス長岡」は、3大学1高専と市が運営資金を出資して学生も運営に参画、生涯学習講座「まちなか大学」を開講し講座はどれもすぐに定員となる。村山学長が長岡高専と技科大の出身ということもあり、これまで以上に市内大学間連携の強化の機運は高まる。磯田達伸市長は「市政だより(2017年6月号)」の中で、「3大学1高専と産業界、そして金融、行政が団結できる受け皿と言うかプラットフォームを持つことができれば、長岡の強みはさらに増す」と述べるように、同市にとってこれら高等教育機関はイノベーションの源泉となることであろう。蛇足だが、フィンランドでは、2010年、商業、工業、デザイン系の大学を統合した「アールト大学」が設立された。この目的はイノベーションであるという。偶然にも大学の構成が同じである。
しかしながら、小規模大学ならではの課題がある。大学COC事業の報告書でも自己評価しているとおり、「広報の弱さ」である。超小規模な大学組織に広報部はなく、教職員がそれぞれ兼任している。最近は、地元の長岡新聞に教員が連載を持ったり、時事問題についてコメントしたりとメディア露出も増加し、県内での知名度も上がったが、今後さらに力を入れていくのだという。
長岡大学の地域連携は、恐らくあまり参考にならない。地域の「人と人の繋がり易さ」は、まさに長岡市の規模や市民気質に依るため、大学の地の利なのである。しかし、地域に入り込める環境があり、きちんと入り込み、課題を地域と一緒に考えていく努力は大学自身の長年の賜物だ。規模は小さくともこうした積み重ねが、大学の信頼度を上げていく。一方、市役所との関係でも、頼み頼まれる関係をきっちりと作り、委託事業などで地域の調査研究を行い、教育プログラムに組み込み、成果を社会に還元していく。「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業委員会」の平成28年度評価では、優れている点として「長岡市から本事業の実施により大学が地域に溶け込んできたという評価を得ており、今後の具体的な連携の深化が期待される」とあるように、「連携」というより「一体的」な取り組みになったと言えよう。教育・研究・社会貢献を地域でしっかりと回していく仕組みが長岡大学には出来上がっているのである。