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地域共創の現場 地域の力を結集する

<58>高松大学
学生活躍の場を創る
多様な市民講座で生涯学習支える

 香川県は、日本で最も面積が小さい都道府県であるが、その多くが平地であるため、人口密度が高い。戦後、本州と四国の交通の要衝として経済・文化の中心の一つだったが、昨今は大都市への人口流出が進む。「うどん県」として売り出し、主な産業は、革製手袋製造、造船関連、冷凍食品などがある。また、瀬戸内国際芸術祭を開催するなど「アート県」として観光産業に力を入れる。その県庁所在地、高松市に立地する高松大学・高松短期大学(佃昌道学長、経営学部、発達科学部、保育学科、秘書科)は、「開かれた大学」を理念に地域連携に取り組んできた。大学・短期大学合わせて収容定員は1000人強。地域での取り組みを佃学長、藤井雄三地域連携センター長に聞いた。

 〇公開講座が強み

 1969年に高松短期大学が開学。1971年に地域の要望に応え、中・四国地方の私学では初となる保育科第二部(夜間制)を開設し、働きながら学ぼうとする人々に寄り添ってきた。1996年に地元自治体や企業等の協力を得て大学が経営学部単科で開学、1998年に生涯学習教育センターを設置、話題性を上げるために、地域活動に熱心な教員が著名な経済人などを公開講座に招いた。「本学の公開講座の歴史は開学とともに始まっています」と佃学長は振り返る。2017年には地域連携部門と生涯学習部門を統合して地域連携センターを設置した。「子どもや高齢者など、地域の方に大学の資源を使ってもらおうと考えました。それには大学の塀を下げていくことが重要ですが、規模が小さいので、無理のない範囲でやりましょうと」。
 公開講座は具体的には、短期大学開学の翌年から児童教育学科の家庭教育開放講座や音楽科での夏期講習会、ワープロ・パソコン、バレーボールなどの講習会とともに、香川のビジネスを下支えするために英語、簿記、秘書、販売士等多岐にわたる検定試験指導を行ってきた。その後、香川学や地域文化論、観光文化研究等を取り入れ、地域に根差すことを強く意識した講座も開講。「短大開学当時はこの東高松地域は生涯学習を提供できる環境がまだ整っていませんでした。大学設置後、生涯学習講座を数多く開催することで、市民の生涯学習がスムーズに根付いていったと感じます」と佃学長。大学開放から地域連携へ、時代の変遷とともに大学・短大の役割が変化し、また、地域に求められるニーズも変化してきたが、それに真摯に向き合ってきた。
 1999年からは高松市の補助金事業として、市教育委員会とともに、「高松市民大学」を始めている。これは全国的に著名な学者、評論家を招いて、3日間の専門的な講座を広く公開するもので、市の代表的な市民講座になっている。2000年度からは市民が大学で受講できる「文化講座」を開講した。初年度は4講座だったが、2002年度からは春秋十数講座、受講者は300人を超し、「趣味講座」も開かれるようになった。現在では約90講座、受講生は年間のべ900人近くになる。
 「青空ウォーク」は、2002年に始まった学外講座であり、現地研修形式の有料の日帰りバスツアーである。毎年春と秋の2回実施している。高齢者や女性を中心に大人気で、キャンセル待ちも出る。「地元はもちろん、神戸、高知、津山、今治の近県をはじめ、京都や奈良にも行きました。個人旅行では行かないような寺院などをテーマに、歴史文化を専門家が現地で解説して見学します」と佃学長。
 2005年からは、NHK大河ドラマ「義経」を機に、屋島の魅力を観光振興につなげようと、高松市や大学等が実行委員会を組織して、屋島の歴史を学ぶフィールドワークを行う「屋島カレッジ」を開催。
 県の教育委員会とは、2001年度に共催で公開講座、2007年からは大学生と共に正課の講義を受けられる「かがわ県民カレッジ」を開講している。

 ○受講者が組織化する

 地元高松市のみならず、三木、長尾および後に高松市に合併する庵治、牟礼、塩江、香南、香川の近隣の7町(当時)とは、教育委員会と共催の「町民大学」を開催した。年々、講師派遣を要望する自治体が増加。三木町を除く町が高松市等に合併した後は、市の各コミュニティセンター(学校区ごとに1センター設置)と共催で、地域の実情にきめ細かく応じた講師派遣をしている。「高松市は44のコミュニティを作っています。各コミュニティの会長やセンター長と連携しており、特に大学のある地域の5、6のコミュニティとは懇意にしてもらっています」と佃学長。市民の生活に大学が溶け込んでいる。
 2014年に開校した「高松教養大学」は、一年制の社会人大学である。講座を選択し、ゼミナール活動や大学祭への参加、自主企画の修学旅行など様々な「学習生活」を通して、新たな仲間や生きがいづくりの輪を拡げるきっかけになっている。「学生として入学式を行い、各講義や行事に出席し、最後に卒業証書も出します。特に高齢者に大学生気分を味わってもらえれば」と藤井センター長は述べる。
 2018年、受講生の有志は、講師と共に「高松大学・高松短期大学生涯学習友の会」を発足させ、現在は100人弱が会員となっている。発足式では、活動方針として「将来的には、公開講座や文化講座等で取り上げていないテーマを主題としたグループを立ち上げ、新しい分野での活動を展開する」、「高松市との姉妹都市等と相互訪問を実施し、友好を深め互いに学びあう」などが提起された。彼らが積極的に大学での学びを求め、「大学が居場所」になり、従って大学のために協力してもくれる。つまり、彼らは大学応援団でもあるのだ。
 各種講座にはこれまでのべ6万人が参加した。高松市民の学習意欲に支えられてのこの講座数・受講者数なのか、開学以来、生涯学習講座を熱心に仕掛けてきたからこその市民の関心の高さなのか、あるいはその両方か。いずれにせよ、この大学の講座と市民の関係は、良い循環が生まれ、「高松で生涯学習といえば高松大学」という地位を確立したと言えるのではないだろうか。

 ○若者定着に熱心な香川県

 公開講座や市民講座以外の取り組みも盛んだ。
 2003年、大学院経営学研究科は、ベンチャークリエーション研究所を開設。香川経済同友会・香川県中小企業家同友会と連携して小学校2校、中学校3校、高等学校2校の協力を得て「香川県におけるものづくり体験などのキャリア教育事業」を実施し、2006年から香川県高等学校教育研究会商業部会と共催で「かがわの高校生地域創生ビジネスアイデアコンテスト」を開催している。また、同友会からは教育内容に対してアドバイスをもらい、大学教育をより地元企業の人材育成に合わせている。
 2015年、香川県が主導して大学コンソーシアム香川が組織された。この年から、「香川県大学等魅力づくり補助金」事業、2018年からは「香川県若者県内定着促進支援補助金」事業が始まり、「地域企業等へのベストマッチング就業促進プログラム」「保育者をめざす高校生のための保育まるごと体験ツアー」など、14の事業が実施されている。「香川県も高松市も、政府が地方創生政策を発表した辺りから若者流出の危機感があり、大学との連携を強める方針のようです」と佃学長は指摘する。
 この中の、「二十四の瞳学習支援体験推進プログラム」は、発達科学部の学生が小豆島の小学校分校でボランティアを行う。「子どもたちに島のことを教えるために、まずは学生自身が島について調べ学習を行います。その過程で、学生は地域に愛着を持ち、地元就職も選択肢に入れていくことを企図しています」と佃学長。この取り組みは、もともと縁があった小豆島の教育委員会から声がかかり実現した。
 2005年から始まった「むれ源平石あかりロード」では、経営学部生がボランティアを行っている。10年程前、源平合戦の古戦場がある牟礼を盛り上げようと、牟礼・庵治の石を使った提灯を道に並べた「あかりロード」を始めた。学生たちは企画や協賛金の取得、イベント運営、当日の設営・進行をコアメンバーとして深く関わる。
 他にインバウンド対策として、経営学部留学生が栗林公園で通訳を行っている。2010年から3年毎に開催されている瀬戸内国際芸術祭では、今年も学生が運営に関わる。これらの活動をサービスラーニングと位置付けて、地域の課題解決や活性化に貢献できる活動への参加を促している。
 平成30年度の県内就職率は大学で74%、短大は91%と高い。特に短大で保育士・幼稚園教諭を長年育成しているため、香川県全域のほとんどの保育所や幼稚園には卒業生がいる。「自治体や産業界の要職者と話をしていると、「家族に卒業生がいます」という話はよくあります。そういう人脈も本学の地域連携活動につなげています」と佃学長。

 ○「対話型」の各種講座

 生涯学習講座は今や多くの大学で行われているが、この大学は地域連携活動の中でそれに特化して深めてきたと言える。中でも文化講座にはユニークな仕組みがある。それは、講師を公募で募るということである。
 知識や技能を持つ市民にお願いして、「教える側」に回ってもらう。「地域の様々な会合に参加しては人材発掘をしています。「実はあの人にこんな特技が」というケースもたくさんあります。そういう方たちの知識や技能を受講者に継承していくことが重要です」と佃学長。教える側としては万全な準備をするし、それが生きがいにもなろう。市民にとっては教えあい、学びあいの場である。大学はその場をプロデュースする。
 また、文化講座には受講者が一定以下になるとその講座は閉じるというルールがある。「開催できる講座数に限度があるからではありますが、このルールが、常に地域ニーズに対応して開講できることになっています。だいたい10年毎にテーマが変遷しています」と藤井センター長は述べる。
 人気講座が音楽やスポーツ、短歌や書道・習字に集中するのも、受講者に「発表の場」があるからなのではないか。市民講座でアウトプットの場を演出すると、今度は受講者が自主的に動き出し、講師との交流の場等を求めて「生涯学習友の会」が作られた。この大学は各種講座を通して「アクティブラーナーの市民養成」を行っていると言える。生涯学習社会を支える大学の理想的な姿がここにある。
 佃学長は、この取り組みはあくまで学生のためと述べる。「地域の方々が大学に関わると、可能性が広がり、取り組みが始まると、どんどん面白くなります。関係者を巻き込んでいきながら、色々な角度から学生と地域の接点を増やしていきたい。学生は、地域で働く人の生き様に触発され、動き出し、そこに学びが生まれます。その先に、新しい仕事が生まれれば。学生が活躍できる場を大学がいかに創っていけるかがカギだと思います。大学自体が社会実験の場だと捉えています」。
 ラディカルに聞こえるその言葉は、しかし、これからの地域における大学の在り方そのものである。つまり、イノベーションの創出の場なのである。
 建学の精神は「対話」。生涯学習講座でも学生の地域活動でも双方向の対話性が重視されている。そこから生まれる実践が更に地域の人々を繋げていく。こうして、小規模ながらも地域を巻き込み、学生の成長を促しているのが高松大学である。