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<47>長崎ウエスレヤン大学
地域住民参加型のまちづくり
気軽に相談できる学長

 諫早市は、長崎県の中央に位置する。古くから交通の要衝として栄え、有明海を干拓し、県最大の穀倉地帯を抱えるが、戦後にその目的を変更しつつ行われた諫早湾干拓事業は全国から注目された。諫早中核工業団地をはじめ県の工業地が集積している。人口は昨今微減。この地域には長らく4年制大学がなく、住民からは地域拠点になる大学誘致を求める声が強かった。こうした要請に応じて、市は振興計画の中で「学園都市づくり」構想を打ち出し、その中核事業として公私協力方式で2002年に設置されたのが、長崎ウエスレヤン大学である。当初1学部1学科でスタートしたが、現在は現代社会福祉学科、経済政策学科、外国語学科の1学部3学科の体制となっている。地域連携について佐藤快信学長、南慎郎事務局長に聞いた。

●サトちゃんと呼ばれる学長

 森泰一郎初代学長(前学院長)は、短大時代から地域住民の懐に飛び込み、町職員も交じえてワークショップをしながら、住民目線の基本計画・基本構想を作ってきた。この場に学生も連れていき住民に育ててもらう。こうした住民参加型地域づくりを中心とした教育実践は佐藤学長にも受け継がれ、大学の教育方針にもなっている。
 佐藤学長のフィールドは主に五島列島北部の小値賀(おぢか)島を中心とした県内離島。「「小値賀探検隊」と称して住民と地域を歩いて回り『おぢか新聞』で情報発信に努めました。素の自分を出しながら、住民と夜通し真剣に議論します。『面白いやつだ、大学の先生だったのか』とも言われました」。住民からは、親しみを込めて「サトちゃん」と呼ばれる。
 地域に入った学生は住民によって鍛えられる。佐藤学長は、地域住民に「学生を真剣に叱って頂きたい」ともお願いをする。「何を勉強しているのか、卒業したらどうするのか、と聞かれて初めて真剣に自分と向き合う学生もいます」。
 ある学生は一か月、地域実習をした。実習の終わりには、自然と『ただいま』『おかえり』と言い合える関係になった。こういう関係を築けることが重要だと佐藤学長は指摘する。地域に行けば、「あの子は元気にしているか」と聞かれることも多い。
 小値賀島では、国際協力機構と「島嶼における自立を目指した地域資源活用による人づくり・地域づくり」をテーマに、世界の島々から研修生を受け入れ、地域保健研修や地域開発研修を8年間続けた。
 地域住民との関わりを重視する背景を、佐藤学長はこう説明する。「地域の活性化には、地域の方々の本気度が重要です。その姿を見て学生も触発されます。自治体も大学も、そのお手伝いができるだけです」。こうして現場とつながりのある地域が、長崎の離島を中心に近隣市町村に広がっている。「他大学の教員が同じ地域に入ったとき、「ウエ大のような関わり方をしてほしい」と言ったと聞きました」。つまり、提案や調査だけではなく、実施まで一緒にやってほしいということでもある。
 多良海道活性化プロジェクトも住民重視だった。有明海沿いの諫早市高来町、小長井町、佐賀県太良町の3地域を長崎街道に由来する『太良海道』と呼ぶ。この地域の地域資源の洗い出しや観光商品の開発、発表まで住民参加型でワークショップを繰り返して行った。これには、学生を含めて70名弱の市・町議会議員、住民、行政職員等が集い、アイデアを交わし海道活性化のプログラムを開発した。
 また、文部科学省の平成29年度「専修学校による地域産業中核的人材養成事業」の採択を受け、長崎発観光地域づくり中核人材養成プログラム「UNZEN―OBAMA旅館道 モデルカリキュラム『道場』」を作り上げた。
 「このプログラムに関わった教員は、「ニーズを深く知りたい」と雲仙の旅館女将に拝み倒し、インターンシップを行いました。教員が、です。もっとも、マレーシアなどアジアの職業系の大学では特別な話ではないようですが、その話を聞いて唖然としたのを覚えています」。教員がインターンシップに出ると、就業の実体験にもなって、学生の就職活動指導にも良い効果が期待できるという。

●コミュニティサービスラーニング

 学生の地域活動は、「コミュニティサービスラーニング(CSL)」という形で教育として設計されている。1年生(前期・後期)、2年生(通年)は必修、3年生は選択になる。履修する学生は、15程度ある地域プログラムから希望を出す。学年が上がると徐々に役割が重くなるように工夫されている。この科目では、学生の自己評価を用いたCSLの目標達成割合や目標到達チェックシート(ルーブリック日本語・英語・ベトナム語の3か国語)を作成し、学生の成長を可視化している。「主体的に関わる動機をどう作るか。最後に"やりきる"まで関わらせるにはどうすればいいか。教育プログラムを設計するのは難しいです」と佐藤学長。
 このプログラムは、そのまま大学の地域連携活動の実績でもある。例を挙げよう。
 長崎のJ1サッカーチーム「V・ファーレン長崎」の応援と活性化を手掛ける。これは、諫早市のトランス・コスモススタジアム長崎(チームのホームスタジアム)の入場ゲートの一つを"ウエスレヤンゲート"と名付けボランティア活動を行い、円滑な試合運営でチームを支えている。また、会社PRプレゼンタープロジェクトは、企業PR戦略のお手伝いをするもので、消費者調査を基にした新規顧客の獲得方法を発表する。社会福祉学科の学生は、近隣市町村の老人・障碍者等の施設への支援・協力を日常的に行っている。
 「学生には、他大学の学生と「他流試合」もさせたい。本学学生が当たり前と思っていることが他大学で通用するとは限りませんから」と南事務局長。
 立地する諫早市とは、特産品を使用した商品化や商店街活性化をはじめ、子育て・医療・福祉分野でも協力している。2006年、中心市街地にあるアエル中央商店街にオープンした複合商業施設「アエルいさはや」の2階には、大学の「まちづくり研究室」と「まちづくり生涯学習室」(まちづくり工房)を設置した。以来、教育研究機能を活かした「中心市街地やコミュニティの再生」、「学習するコミュニティ」づくりを目指してきた。現在では公開講座、街づくりに関係する市民の会議の場、発表の場になっている。宮本明雄市長は、『キャンパスガイド2018』の佐藤学長との対談で、「若者が主体となって若い感性を活かして魅力ある街づくりを行っていくことが必要だと感じています。そういった意味でも大学が在ることは大きなアドバンテージだと思います」と述べている。
 長崎県中小企業家同友会の諫早支部とは、会員企業の社長と教員・学生を交えたグループディスカッションを行っている。その後の発表は学生が行い、その後も社長たちは学生を気に掛けてくれる。このことが同友会の広報紙に掲載され評価されている。地元中小企業の経営者たちも地域の未来に危機感を持っており、若者たちの成長に真剣に力を貸しているのである。
 長崎市とも、地元自治会と関わって街づくりの市民グループの形成支援を行った。大学が設置されていない近隣の市町村からのアプローチも多い。南島原市とは観光協会とちゃんぽんやグッズ開発で連携している。

●留学生が活躍する地域連携

 創設者カロル・S・ロング牧師の母校テネシー・ウエスレヤン大学から大学名を借りたように、欧米のミッション系大学にネットワークが強いほか、中国、韓国、タイなどを中心にアジアとも交換留学・国際交流を熱心に行っている。留学生たちが地域連携で活躍しているのもこの大学の特徴である。例えば、中国人留学生が、地元諫早の農業高校の生徒と、県産かぼちゃを活かした中国の伝統菓子「月餅」を考案した。島原半島観光連盟の委託で、留学生による観光コンテンツのホームページ翻訳作業等、産学連携による優秀な留学生の活躍の場が創出された。インターンシップ後、現地に就職を決めた留学生もいる。
 特筆すべき取り組みは、観光マップの作成である。日本語版はもちろん、中国語、韓国語版を作成するのだが、単なる翻訳ではない。担当する留学生たちは母国民の嗜好性などを考え、掲載する内容やレイアウトを変更しているのである。「ある会議で中国人留学生が、「単なる翻訳では読まない、各国に合った内容が必要です」と発案しました。市の担当者は目からうろこだと感心したようでした」と南事務局長は振り返る。長崎空港とは、留学生を軸とした「国際空港化」にも協力している。
 この観光マップの取り組みは近隣市町村からも引き合いがあり、島原市や南島原市等の観光マップに加え、標識や飲食店メニューの多言語化等を手掛けた。特に島原半島全域において留学生が活躍する、外国人顧客目線での価値の顕在化や資源の体系化を進めている。大村市とは、この4月より、大村市駅前にある商店街の浜屋跡地を借用し、サテライトキャンパスを展開する。
 佐藤学長は2014年の学長就任後、各自治体等と次々と包括協定締結を決定した。2014年度には、雲仙温泉観光協会・雲仙旅館組合、長崎県中小企業家同友会諫早支部、長崎県市町村行政振興協議会、諫早市・長崎総合科学大学、2015年度には、諫早市社会福祉協議会、2017年度には、大村市、壱岐市、2018年度には、南島原市、長崎空港ビルディング株式会社、国立諫早青少年自然の家と結び、これまでの取り組みを可視化した。大学としては、「大学があってよかった」という関係を地域と築いていくことが重要である。

●ラーニング・バイ・ドゥーイング

 大学が目指す姿は、市民と一緒に汗をかく地域のシンクタンクである。長崎の島嶼、県央から島原まで広い地域の産官民の関係者と幅広くつながり、地域活性化、商品開発のために引き合わせたり、会合を持ったりと、地域になくてはならない「地域連携プラットフォーム」としての機能を担っている。「経済開発と社会開発の中心に地域シンクタンクとしての大学があって、その下に教育機関があるという大学があってもよいのではないでしょうか」と佐藤学長。地域からの相談には、「はい」か「イエス」しか言わない、すぐになんでもやる...これまでの大学という概念を変えていく。「地域づくりの「なんでも相談窓口」というイメージが定着しているのか、学長室には、毎日のように、行政の方や、市民の方々が様々な相談にこられています。最近では、中核人材となった卒業生も地域づくりやビジネスに関する相談に来ています」。
 課題は収益化だ。「こうした取り組みをどうお金に変えていくかに日々頭を抱えています」と南事務局長は苦笑する。
 学院中興の祖・千葉胤雄元院長は、「千葉プラン」と呼ばれる学院構想の中で「ラーニング・バイ・ドゥーイング」と位置付けた。その理念は時代背景は異なれど現代に受け継がれているとも言えよう。いわば徹底した現場主義こそ、この大学の最大の特徴である。
 もっとも、地域のため、学生のためではあるが、何よりまずは自分が楽しいと感じるか、それを大事にもしている。「小さな大学でネガティブになってもしょうがないですから」。楽そうなところに人は集まる。収益化が先か、楽しさが先か。今後の大学の社会的役割を考えるとき、どちらも必要である。そこには、「大学が必要とされる」ための大事な戦略が組み込まれている。規模が小さいから教職員・学生に距離がなく、すぐに動ける。「敏捷性がある」と自己点検評価報告書に記しているように、また、佐藤学長らの、良い意味で「学長らしからぬ態度」によって、長崎ウエスレヤン大学は、長崎の関係者にとって気軽に相談できる大学になっている。これこそが、これからの地域の私立大学のありよう―地域のシンクタンクの一端を示しているのではないだろうか。