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地域共創の現場 地域の力を結集する

<42>鹿児島国際大学
多彩なインターンで企業等に貢献
産官学金の強い結びつき

鹿児島市は、南九州地域の政治経済文化の中心であり、古くから薩摩藩のもとで栄え、我が国の歴史の一翼を担ってきた。鹿児島県は、南北600Kmに広がり有人無人含め約600もの離島を有する。昨今は大河ドラマの効果やインバウンドの増加による観光業が盛んでもあるが、県としては農林水産業が主力である。一方、人口減少、少子高齢化が大きな課題となっている。地域に欠かせない若者の流出に歯止めをかけようと様々な取り組みを行うのが、鹿児島国際大学(津曲貞利学長、経済学部、国際文化学部、福祉社会学部)である。地域連携について、大久保幸夫副学長・産学官地域連携センター長、大迫宗昭同センター次長、COC推進室関博信参事に聞いた。

●フィールドワーク

 2010年当時、長引いた就職氷河期による影響で学生の就職率の低迷が続いていた。「面接やグループ討論で自分の意見が言えないというのです。そこで、学内で議論を繰り返し、『自分の言葉で表現できる学生の育成』を目指したプログラムを作りました」と大久保副学長は振り返る。自分の言葉で表現するには、主体的に何かに取り組んだという経験が必要である。そのために大学が揃えたメニューは、「オムニバス講義『地域創生』」「フィールドワーク」「演習」だった。特にフィールドワークは、主にゼミで自治体等と協力して地域課題に取り組むPBLと、実務型フィールドワーク(インターンシップ)の二つである。これらが2010年度の文部科学省「大学生の就業力育成支援事業」に採択された。
 2015年には、県内8大学等が協働して取り組む文部科学省「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」に採択されると同時に、鹿児島国際大学独自の取り組みとして、「フィールドワークをベースにした地域が求める人材育成プログラム」がCOC事業に認定される。
 2016年には、それまでの取り組みを構造化し「地域人材育成プログラム」としてカリキュラムに導入した。1年次から地域志向マインドを高めたりビジネスマナーを身に付けたりする科目や演習がある。1年後期には新入生ゼミナールの中で基礎的なフィールドワークを行い、経済学科、経営学科と国際文化学科は2年次から、社会福祉学科、児童学科と音楽学科は3年次からゼミ単位の、次の自治体等と連携した地域フィールドワークを行う。
 この大学は、鹿児島市、日置市、阿久根市、垂水市、西之表市、南大隅町、大島郡大和村、三島村の8の市町村と連携協定を結んでいる。
 阿久根市とは、鹿児島相互信用金庫(相信)の仲介で2014年より地域活性化事業が始まった。新幹線や高速道路が通っていない同市は、少子化・過疎化に悩んでいた。そこで駅前商店街の賑わいを取り戻す目的で、学生が空き店舗を活用した「チャレンジショップ」を運営。この取り組みは地域住民から喜ばれ、普段は十数名しか往来のない場所に、多いときには300名が来店した。閉店の際には地域住民から「寂しくなる」との声も多くあったという。2017年度、市担当者は「近隣に大学がないことから、地域住民が普段大学生と接する機会がない。各世代が、大学生と接することで良い刺激を受けた」と評価している。

●自治体や信金との連携

 鹿児島市とは、基本的には市の企画財政局企画部政策企画課が大学への要請を取りまとめている。イベント参加から教育支援、調査研究まで様々な要請があり、2017年度は34件にも上っている。  130名近くが在籍する留学生も地域に飛び出す。中国が、日本のアニメ作品を種子島を舞台に実写化する計画もあり、その影響等で中国からのインバウンドが増加しているようである。そこで、留学生のモニターツアーを実施し、課題を浮き彫りにして地域活性化策や観光振興に関した提言を行った。鹿児島と世界を繋ぐフィールドワークである。
 阿久根市商工観光課や鹿児島市政策企画課などと大学教職員は、強い信頼関係で結ばれており、腹を割って課題について議論できる仲である。「市町村としても、各自治体の課題に合わせて連携を強める大学を選んでいるようです。そのため、連携についてはあまり県内大学が競合しません」。2017年度、地域フィールドワークには17ゼミが参加して、51件のフィールドワークがあり、のべ750名が参加した。
 この大学では2006年に地域創生学科を設置したが、定員割れが続き、経営学科に統合された。その際に掲げられた"実学"のコンセプトは継承され、先述の文部科学省の事業などでインターンシップが実装されるなど、学科での地域に根差した教育が大学全体に取り込まれてきた経緯がある。
 一連の取り組みは、特に相信と大学の強い連携が重要な役割を持っている。現在の稲葉直寿相信理事長は卒業生で、学校法人津曲学園の理事も務める。地域の私立大学と信用金庫はともに地域で生きていくことが宿命づけられている。相信の危機感も強く、県内にネットワークを張り巡らせ、産品を海外に売り出すトレードミッションも実施している。この危機感をばねに、両者は手を取り合って県内の地域活性化に努めてきた。相信は付き合いのある企業や自治体を大学に紹介する。大学はそれをきっかけにインターンシップやフィールドワーク体験で人的に支援する。
 中でも後述の「三日間社長のカバン持ち体験」は、相信と大学との産学連携事業として、2011年から8年間継続している、全国的にも有名になったユニークな取り組みである。

●インターンシップ

次に、この大学が実施する国内・海外インターンシップを紹介する。2010年から徐々に種類を増やしてきた。
 国内インターンシップには、①県インターン、②三日間社長のカバン持ち体験、③独自インターン、④長期実践型インターン、⑤エアラインインターン、⑥プレ・インターン、⑦就業力育成研修がある。
 ①は、県がプラットフォームを主催しており企業等での就業体験を支援する。1~3年生が参加する。県が1998年からインターンシップのマッチングを行っており、2012年まで続いた。その後は、オンラインのインターンシップ支援サイトに移行し、参加大学が持ち回りで管理している。大学のインターンシップ文化は、県によって醸成されてきたといえよう。
 ②は、地元企業の社長や重役と3日間行動を共にすることで仕事内容や仕事への意識を学ぶ。事前学習2日間、体験3日間、報告書の作成、報告会でのプレゼンテーションで構成され、1年生から参加でき、毎年約25社に約30名が参加する。学生と企業のマッチングは、学生の希望だけではなく、通勤などを考慮して相信と大学が相談して行う。企業経営者は、若者の考えに触れることで刺激になるし、地元企業が大卒者の価値を認め採用するようになれば地元就職率の向上にも繋がる。一方、学生は、経営者の価値観に触れることで視野を広げ、地元で仕事をする意義を見出す。
 ③は、独自に提携している百貨店や学生の希望をもとに開拓した企業のインターンシップである。過去に体験した学生の中にはインターンシップをきっかけに同じ会社に就職した者もいる。奄美や種子島・屋久島など離島でのインターンシップも要望があれば開拓して行う。2017年度は50名ほどが参加した。
 ⑥と⑦は、各インターンシップの準備段階として、心構えや企業研究が行われるほか、大学の近隣に立地する卸業の集積地「オロシティ」でのジョブシャドウイングや企業訪問を行う。「学生は対企業向けの商品・サービスを扱う企業、つまりB to B(卸売業等)をほとんど知りません。⑥は、学生にB to CだけでなくB to Bも理解してもらうためのプログラムです。⑦は、オロシティ側としても、若者への知名度向上が図れるとあって、双方win―winとなり、とんとん拍子で連携が進みました。現在は、20~30名の学生が企業訪問し、講義を聞いたり社員と話したりして、半日体験を含む2日間の研修を行っています」と大久保副学長は解説する。
 こうして、実に年間80社近くが大学に協力してインターンシップを受け入れているのである。

●国際化に対応

 海外インターンシップには次の種類がある。
 ①中国大連、台湾台北、香港の各コース(約2週間)は、現地の企業で就業体験を行う。プログラムは受け入れ企業によって異なり、事務作業から接客、営業・販売、貿易関係の実務体験など多彩である。毎年20名前後が参加する。
 ②富士ゼロックスシンガポールインターンシップ(約3週間)は、すべて英語で行う密度が高いプログラムで、同社アジアパシフックにおける各部門へ就労し、部門ごとの課題について、課題解決に向けたリサーチワークを行い、最後にプレゼンを実施する。鹿児島国際大学からは毎年3名が参加するが最近では他大学からも参加してくるという。
 「もともと大連では、大連外国語大学と本学が協定を結び、交換留学が盛んです。また、相信は鹿児島の企業の大連進出支援に熱心で、相信と関係の深い現地企業や大連市から紹介された企業においてインターンシップを行っています。台湾は、協定校の関係者から現地の企業を紹介して頂きました。一方、香港では、鹿児島県と香港かごしまクラブの支援を受けて学生を受け入れて頂いています」。
 逆に、インバウンド対応として、指宿等県内ホテル等での留学生のインターンシップ需要が高まっている。日本の社会では外国人を雇う制度がまだ整っていない。外国人が働きたいと思っても、まだ働く場所が多くない。これまで外国人を採用したことがない地域企業にとっても、その採用形態や就業の規則まで、インターンシップ学生と相談しながら構築できるのはメリットがある。まさに、鹿児島経済のグローバル化を内から支えているのが鹿児島国際大学とも言えよう。

●振り返りと評価

 地(知)の拠点大学による地方創生推進事業「フィールドワークをベースにした地域が求める人材育成プログラム」では、学生は大学が独自に製作した「フィールドワーク活動記録ノート」に活動記録だけでなく、到達確認欄に"新しい自分と出会えたか"の振り返りを書き込む。
 また、「三日間社長のカバン持ち体験」の報告会では、相信の担当者はもちろん受け入れ企業の社長らも参加する。中には、インターンに来た学生を採用したいという話があり、実際にそこに就職した学生もいる。そのようなことから、一度受け入れをした企業は翌年度以降も継続的に受け入れてくれる。また、プログラム自体も、学外評価委員を入れた地域人材育成委員会を設置し、厳しくチェックをしてもらっている。

●地元就職率を高めよ

 4年次までに、地域志向科目、地域志向演習、キャリアデザイン科目、地域人材育成科目、地域フィールド演習の科目群から22単位修得した場合、「地域人材育成プログラム修了証書」(14単位で見込み証明書を発行)を授与する。また、海外インターンシップも含めて国際ビジネス、グローバル英語の科目群から16単位修得した場合、「国際ビジネスとグローバル英語プログラム修了証」を授与する。学生たちは、これらを持って地元での就職活動に臨み、大学での体験活動を自分の言葉で表現しアピールすることになる。
 この大学は、フィールドワークやインターンシップによって地元企業の活性化などに結び付けており、またプログラム自体が厳しく評価を受けるという意味で、真に地域産業界のニーズに合った取り組みを行っていると言える。地元中小企業へのインターンシップを通して、大卒者の価値と魅力を伝え、雇用してもらうことで地元就職者を増やし、若者の地元離れを食い止め、ひいては30%台という、全国でも低水準の大学進学率の向上に寄与できるかもしれない。
 また、「本学の強みは、地域経済の活性化やインバウンド対策、地域福祉政策への助言、地域の歴史や文化を活かしたまちづくりなどの人文社会系の取り組み」と述べるように、鹿児島国際大学は、地域人材育成プログラムを含むカリキュラムを通して「国際的感覚を身に付けた地域社会に貢献する人材」を育成している。同時に、鹿児島が抱える少子高齢化や人口減少問題をはじめとする様々な地域課題に先陣を切って果敢にチャレンジしているのである。