加盟大学専用サイト

特集・連載

地域共創の現場 地域の力を結集する

<41>静岡英和学院大学
連携により魅力を生み出す
ウェブサイトに取り組みを詳細に掲載

静岡市は、温暖な気候で雪が降りにくい地域である。南北に長く、南の中心市街地と北の中山間地域で課題も異なる。古くは徳川家康のお膝元として栄えたが、大規模な製造業はなく、また、関東、東海の大都市圏に挟まれているため、若者の人口流出に悩まされていた。そして、ついに2017年、政令指定都市で初めて人口70万人を割ることになる。そのような課題を抱えた地域に立地するのが、静岡英和学院大学(柴田敏学長、人間社会学部人間社会学科・コミュニティ福祉学科、短期大学部)である。市川充俊副学長、片山卓士企画部長、高橋竜企画部主任に地域連携を聞いた。

●何かあれば英和大に

 2002年の大学開学時に、大学設置準備室長を務めた大曾根良衛短大学長(当時)は、建学の精神に加えて、4つのUI(University Identity)を決めた。その1つが「地域社会に貢献する大学」である。この方針を具現化する場としてボランティアセンターを設置。教員が組織するボランティア委員会が運営し、現場にはボランティアコーディネーターを常駐させた。以来、今日に至るまで、学生主体のボランティア活動を推進している。「センターに登録した学生は非常に熱心で感心させられています」と高橋主任は述べる。
 教員は短大時代から地域研究に取り組んでおり、学生を巻き込んだゼミ活動を行っていたが、あくまで教員が個別に行うものであった。「当時の副学長主導で地域協働推進機構を立ち上げはしたものの、教員の研究成果を全学的に把握するには課題がありました」と片山部長は振り返る。
 転機となったのは、2016年からの2つの出来事である。
 1つ目が、静岡市との包括連携協定である。地方創生政策や若者流出の危機意識から、市は大学との連携に活路を見出そうとしていた。そのため、大学が連携協定を打診すると、市は二つ返事でOKし、2016年6月に締結。ここから市との取り組みが加速した。「双方の窓口が明確になったことで、大学には毎日のように様々な依頼が舞い込むようになりました。実はそれまでの本学の地域貢献は目的が漠然としていました。しかし、こうして市から具体的に地域課題が示されることで、「地元の地域課題を解決することが本学の社会・地域連携である」と、はっきりと打ち出すことができました」と市川副学長は振り返る。
 2つ目が、学内の組織再編である。全学を挙げて積極的に地域連携に取り組むため、これまでの機構を「地域協働推進委員会」と替えた。機構は両学科から教員が選出されて委員を務めるが、必ずしも学科全体の事情を把握しているわけではなく、委員会と学科を繋ぐ連絡係になっていた。「小規模大学の強みである機動性の高さを最大限に発揮するために、委員会は、副学長(委員長)、学部長、短大部部長、事務局から企画部長、学務部長等が出席し、その場で様々な課題の意思決定をできるようにしました。ちょうど文部科学省の政策としても、地域連携が推進されていたので、組織再編はスムーズに進みました」。委員会を支える事務組織として、企画部に連携課が設置された。
 「連携は鮮度が大事」と述べる高橋主任は、スピード感をもって対応し、NOと言わないことを心がけているという。こうした方針が市からも好意的に受け止められ、市の職員と頻繁に情報交換をし、「何かあれば英和大に」という関係が構築されてきている。また、静岡市は、2016年度から地域課題をテーマにした助成金を用意しており、近隣大学から募集している。「教員のアイディアは豊富です。時には思いもよらない研究分野の教員が応募してくれることもありますが、かえってその方が面白い成果に繋がったりします」と片山部長。

●「支援事業」の評価項目を指針に

 地域連携に欠かせないパートナーの一つが、「I Love しずおか協議会」である。それまで行政主導だった中心市街地のまちづくりについて、静岡商工会議所などを母体として、個人や企業、商店街、行政など360以上の組織が「オール静岡」で行うことを目的として2011年に発足した。会長には株式会社日専連静岡代表取締役社長、副会長には静岡鉄道株式会社代表取締役社長、(商振)七間町名店街理事長が名を連ねる。「2013年、人間社会学科の永山ルツ子教授が、静岡大学の教員とともに市の中心市街地の課題解決をゼミのPBLで行いました。その取り組みが地域に喜ばれまして、本学と協議会との関係が発展しました」と高橋主任は述べる。学生にとっても、地域社会・社会人と協働し様々な能力・スキルを実践的に学べる場となっており、双方にとってメリットがある。2017年6月には連携及び協力に関する協定を締結。協議会から中心市街地に関する課題が提示され、学生は真摯に応える。そして、協議会との連携PBLがモデルとなり、全学のPBLに広がった。
 正課科目「地域創造フィールドワーク」は、協議会との連携講義であり、地域でのフィールドワークが単位になる。「連携授業は協議会に限りません。旅行会社とは、ツアープログラムを開発する授業を行っています。プログラム立案、発表、そして優秀プログラムを実際に行い添乗するところまでを行います」と高橋主任。
 コミュニティ福祉学科のカリキュラムでは、2年後期から始まる専門ゼミの地域課題解決型PBLは必修である。教学マネジメントには、私立大学総合改革支援事業が後押しとなった。「地域連携教育のフレームワークについては支援事業タイプ1の評価項目を一つ一つ調べ、教学マネジメントの設計に組み込みました」と片山部長は説明する。同事業の採択まではあと一歩及ばなかったが、こうして、この大学の地域連携の核心―PBLを積極的に取り入れたカリキュラムが出来上がった。PBLでの経験は、学生の自主性や自発性を育む素地となり、学生たちは授業終了後にも活動に関心を持ち続け、更にチャレンジしたり卒業後の進路に影響したりする。
 連携事業の具体的な取組を2つ紹介しよう。
 1つが、一般市民向けの「観光分野における女性人材育成プロジェクト」である。
 静岡へのU・Iターンのターゲットの一つが女性である。静岡市女性会館等と連携して、観光をキーワードに女性の観光人材としての学び直しと就職を推進する。「地元の旅行代理店と観光分野の教員がプログラムを共同開発しました。心理学や語学など様々な研究分野を観光に関連させています」と片山部長。大学の授業と同じように15回の講座を準備し、「わたし流しずおか観光プロジェクト」と題して2015年に開かれた。受講者は2、30名で事業は好評を期した。
 2つが、「食でリフレッシュin梅ヶ島」である。
 静岡市の中山間地域「奥静」にある梅ヶ島地区住民と短期大学部学生を対象に、京都の老舗懐石「近又」の協力のもと、1泊2日の研修で出汁の取り方や京野菜の調理を教わり、店主を招いておもてなしを学んだ。「この取り組みは3年続きました。中山間地域の魅力をどのように向上させるか、学生を中心に「食」をテーマに探ってきました」と市川副学長。近又の主人も、『山村地区での素晴らしい伝統や、節句ごとに行われる行事、それに伴うお料理、人々の方言など探せば楽しい珍しいことが多く、それを今後もっともっとアピールすることも一つの村おこしになるのでは(ウェブサイト)』と綴っている。  他にも、最寄り駅の賑わい創出や地元農産物のブランド化事業、焼津市の観光魅力の発掘など、中心市街地・中山間地域問わず幅広く取り組んでいる。特に人文系大学ならではの、観光振興に結び付けた地域の歴史文化の掘り起こしは、地域の魅力化にとって非常に重要となる。
 「連携課では、教員の取り組みを集めて整理し、ウェブサイトで公表し始めました。かなりの数になりましたが、これにより自治体等からの依頼内容が具体的になるとともに、依頼数も増加しました」と片山部長。大学のウェブサイトには、教員のテーマ別・地域別の取り組みが詳細に掲載されている。この水準で地域での取り組みを分かりやすく紹介している大学はあまり例がないだろう。
 この大学の地域連携の中核を担うのが、まさに連携課の職員である。職員は地域の会合等に積極的に参加しては人脈を形成する。一方、教員40名の専門分野と研究テーマを把握しているため、地域からの依頼に対して、最も適切な教員を的確に紹介することが出来る。こうして、スピード感のあるやり取りを生み出している。「市川副学長は、冗談で私たちのことを「教員をうまく使っている」と言いますが、まさに役割としては教員を適材適所で紹介することでもあります」と片山部長。教職協働がきちんと機能している事例である。
 静岡市との連携が進み大学の体質が変化したことで、連携課職員は静岡県の大学として、他市や企業等にも「営業」を始めた。「少し離れた自治体にも営業に回っています。特に留学生が多い本学は、国際交流イベントへの参加要請も多いです」。このように範囲を拡大しながら、「攻めの地域連携」を展開していく。

●改革支援事業タイプ5に採択

 2018年、更なる転機が訪れた。私立大学総合改革支援事業タイプ5に採択されたのである。「これまでの本学を取り巻く状況がうまくマッチしました。近隣の常葉大学と連携し、タイプ5に申請する体制が整いました。これまで拡大の一途を辿った地域連携について、一度振り返り整理して体系化する機会となりました」と市川副学長は振り返る。
 ここまで地域として静岡と一体化できる要因は何か。市川副学長は続ける。「市長をはじめ、若者流出に対する地域の危機感が非常に高いのです。市内にある大学は競合相手ではありますが、大学間連携を強調してアピールすることで、若者の地域で学びたいという想いに結びつきます」。申請を契機に市内の大学は関係強化・信頼強化、競争から連携へと意識が変化する。各大学が強みを出し合い、学問領域を広範にカバーすることで、地域の大学が一体的に取り組み、大都市に負けない魅力を生み出そうとしている。何より学生のために知恵を出し合い、学び合い、地域に愛着が持てる環境を作ろうとしている。
 課題もある。小規模大学故にキャパシティは大きくはない。特に留学生は学習時間もアルバイトもあるので、なかなか呼び掛けには応えられない。「自治体からのニーズにはなるべく応えたいのですが、遠い自治体だとなかなか...時間もコストも掛かります」と頭を抱える。そのような心配をよそに、地域からの依頼は年々増えていく。
 この大学の取り組みは、大都市における小規模大学の存在感の示し方として大いに参考になるだろう。とにかく教職員の機動力が高い。依頼に対してすぐに返事をするので、依頼側はその後も安心して依頼する。依頼が増えれば関係する人脈も増える。そうしてより多くの関係者をネットワークすることで、地域のどこに何が必要か、あるいはどこにどのようなリソースがあるかも見えてくる。地域全体の課題を面として捉え、どのような未来を描けばよいのか、実感として考えることもできよう。その時、地域においても大学間連携においても存在感を発揮することができる。それには、教職員の信頼関係が大前提であり、それぞれの役割をきっちりと果たすことが肝要である。小規模大学なりの「攻めの地域連携」の核心はそこにあるのだろう。
 大学の前身「静岡女学校」の開校には、当時の関口隆吉静岡県令(知事)の協力があった。自治体とは設立当初から強い関係があったのである。それから130年が経ち、再び自治体との強力な連携により地域の危機を乗り越えるべく地域貢献型大学へと本格的に舵を切ったことは「感慨深い」と片山部長。
 静岡英和学院大学は、小規模、人文系、多数の留学生といった特徴を強みとして、小粒でもきらりと光る、地域のための大学として存在感を高めている。