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<37>関西福祉大学
地域活動で“公共心”育てる
卒業生も大学に協力

赤穂市は、兵庫県の最西端、岡山県との県境に位置する。古くから塩田で栄え、「赤穂の塩」は全国的に有名。のちに「忠臣蔵」として歌舞伎等で有名になった赤穂事件ゆかりの地でもある。現在の人口は微減。阪神地区のベッドタウンであり、播州赤穂駅は関西の大動脈・JR新快速の終着駅の一つである。関西福祉大学(加藤明学長)は、社会福祉学部、教育学部、看護学部を擁する。地域連携の取り組みについて、中村剛社会福祉学部長・附属地域センター長・地域連携推進室長、寺山祐三総務課長、同センターの作本美保子氏に聞いた。

●地域ニーズにこたえるセンター

関西福祉大学は、1997年、学校法人関西金光学園と赤穂市の公私協力方式で関西初の福祉系単科大学として設立された。特に赤穂市、備前市、上郡町の2市1町で構成される東備西播地域には大学がなかったため、産官民の各セクターからの強い期待もあった。こうした経緯から、建学の精神に基づく基本理念には「地域社会に貢献する開かれた大学」と謳われている。この理念を積極的に果たすべく、開学と同時に附属地域センターを設置、以来、①臨床福祉サービス、②コミュニティ実践、③オープン化事業の三つの柱で活動している。
「このセンターでは、地域の人たちのニーズに基づいた事業を行います。大学設置から20年が経ちましたが、三つの柱は変わりません」と寺山課長は述べる。介護職員初任者研修、ガイドヘルパー養成研修、教員のためのエンパワーメント講座、市民福祉大学講座などの研修・講座事業のほか、中学校向け福祉・看護系教育プログラムの提供、小学生向け夏休み宿題教室、あこう絵マップコンクールの審査委員、特別支援学校との交流学習、まちの保健室など、主に教育・保健・社会福祉の専門性を活かしつつ、地域に寄り添った取り組みを行う。地域住民を対象とした教育・福祉相談活動は開学時から行っており、年間の相談件数は30件以上となる。中等の各学校との連携では、プログラムに参加した生徒がこの大学を志望するケースもあり、大学にも嬉しい効果を生み出している。2市1町の教育委員会からは、全ての学校に展開したいとの熱心な要望もあり、この大学がいかに地域の中等教育機関にも頼られているかが分かる。

●協定を結ぶ連携推進室

地域連携活動が拡大するにつれ、より全学的な視点による施策が必要となったことから、2014年度に地域連携推進室を設置、高等学校や自治体との連携に関する計画の策定・実施・運営を行うこととした。
高等学校とは、2013年度、県立上郡高等学校との連携協定から始まった。同年、県立太子高等学校、2014年度には、岡山県備前緑陽高等学校、兵庫県立相生産業高等学校、そして、2018年度に兵庫県立赤穂高等学校と連携協定を締結。具体的には、「福祉」「教育」「看護」の各分野で大学教員の出張講義や生徒のインターンシップ受け入れ等を行っている。また、2016年度からは上郡高等学校の正課授業で大学教員が授業を行っている。「高校は、この連携を学校の特色にして生徒募集を行っていますし、本学としては、受講生が本学への進学を考えることもあり、双方に、利点がある連携になっています」と寺山課長は言う。
自治体とは、赤穂市(2003年度)、備前市(2013年度)、上郡町(2014年度)の3市と連携協定を締結。特に赤穂市とは、定期的に連携推進会議を開くとともに、市の審議会や委員会への教員の派遣、市長との意見交換を行うなど、交流が盛んだ。「市への貢献度が高い課題に助成金を拠出する事業に、本学は「町づくり」や「ベビービクス」など三つのテーマで採択してもらいました」と中村学部長が述べるように、地域活動支援事業は市が予算化してくれている。トップ層・実務層で信頼関係が結ばれており、新しい事業を行う際にはすぐに声がかかるなど、市は大学に大きな期待をしている。
「今般、新たな取り組みとして、市が設定する課題に対して、"研究活動として"教員が関わる協働研究事業を始めました。教員にとっては地域活動が研究業績にもなりますし、「地域の役に立てるかもしれない」といった点が動機づけになります。市の要望には「研究」として時間をかけ、何かを明らかにするものだけではなく、「コンサルティング」の方が適切なものもあり得ます」と中村学部長は解説する。研究とコンサルティング。教員に無理なく地域に関わってもらう仕掛けである。
大学からの働きかけにより、2市1町の「東備西播定住自立圏形成推進協議会」と共に、2014年度より「関西福祉大学地域連携フォーラム」を開催している。「これは学部構成と同じ「社会福祉」、「教育」、「看護」という視点から地域課題に取り組むことを目的に始めました。本年度で4回目となりますが、毎回500名の参加者が集います」と寺山課長。著名人による基調講演、三つのテーマでの分科会を行い、市民と教職員・学生が対話する。大学をよりよく知ってもらうきっかけにもなり、学生も地域課題を直接市民から聞き取れる機会にもなっている。
看護学部は開設以来、赤穂市民病院と協力体制を築いており、人的交流のほか、卒業生の市民病院への就職者増加施策として、2015年度入試より、看護学生奨学資金を組み入れた入試制度を導入している。

●障碍者を姫路城へ

社会福祉、教育、看護の各学部は、国家資格試験や教員採用試験を目的としており、特に学外実習が多い看護学部生は時間があまり取れない。従って、地域連携活動は社会福祉学部が主体となることが多い。その社会福祉学部のゼミは1年次から始まり、特に2年次には「コミュニティアワー」を行う。これは、学生自身が地域の中で課題を発見したり、担当教員により提示された課題解決の取り組みに参加したりするものである。
その一つが、重度障碍者の姫路城登城である。世界文化遺産・姫路城は、坂や階段が多いが、文化財保護のため車いすやベビーカーは持ち込めない。このため、重度障碍者等の見学は困難である。こうした現状に対して、2017年、谷口泰司教授とゼミ生16名は、狭い箇所は椅子式担架を利用して介助する等、下見と訓練を重ね、念入りに準備してきた。当日は3名の障碍者が登城。重度の歩行困難者の登閣は初めてだった。そのうちの1人谷村種良さんは、「一生の宝物になった。学生さんのおかげです(朝日新聞2017年11月14日付)」と感想を述べている。学生たちは更に、姫路城への小規模昇降用リフト設置に関する街頭アンケートを実施した。
その他には、限界集落で移動販売を行ったり、市の民生委員とアンケート調査を行ったりと、年間八つ程度の課題に取り組んでいる。
一連の取り組みについて、中村学部長は社会福祉の専門家としての立場からこう述べる。
「コミュニティアワーは、学生を市民の一人と考え、「地域を支える=公共を担う」という心を育成するものです。誰かがやらないと地域が成り立たない、それを積極的に引き受けるのが公共心です。本来、地域は市民の自発的な取組で支えていくものです。その公共心を学生のうちから養うことが必要です」。例えば、市内の花岳寺通商店街では土曜夜店を6週間かけて開催しているが、そこに学生が手伝いに行き、子供向けに射的をやったり焼きそばを作ったりしている。まさに地域の一員として、参加しているのである。
広い教養と深い専門性は大学教育の要とされるが、地域に生きる大学として、「公共心」を養うという視点も重要だ。特に将来、この地域の中心を担う学生たちには重要な体験になろう。「コミュニティアワーは、大学や学生にとって地域に生きる当事者としての「公的活動」なのです」

●学生と公共

中村学部長には、地域福祉と自治の関係に強い想いがある。本来、そこに住む住人一人ひとりが公共(地域をはじめ、その集団が成り立つためには、誰かがやらなければならないこと)を担う必要がある。しかし、長い間、行政(地方公共団体)が公共を担うことで、住民の手を離れ行政=公共組織という側面が増大し、ある意味で同義となってしまった。そのため住民の行政への依存心を助長させてしまったとも言える。「行政が大きくなりすぎた結果、住民は「何かあったら行政」となってしまっています。学生のみならず住民に、改めて「公共」について考えてもらいたい。そこに大学が関わることが出来れば」。学生の公共心と同時に、大学としての公共性をも追求している姿が見て取れる。大学が自分の専門性を生かしながら自治体と協力して地域の公共を担う。それは人材育成のみに限らないのである。
こうした狙いとは裏腹に、学生は地域連携活動を楽しんでもいる。地域の人々との交流から学ぶことは多い。大学のボランティアセンターは、学生主体で運営され、附属地域センターが協力して、地域から依頼があれば適宜ボランティアを募集する。学生たちは、地域の高齢者や子供たちとのコミュニケーションの中で、相手に関心を持ち、それは絆になっていく。ひょっとしたら「公共」と言わなくても、公共心は育つのかもしれない。
市民、特に高齢者も学生たちと話すのが好きだという。「年度末の活動報告会などにも参加してもらい、コメントを頂きます」。市も市民も、大学があって若者がいるから地域が元気になることを知っている。だからこそ、学生たちの様々な試行錯誤を温かい目で見守ってくれている。「現在、1年次後半からサービス・ラーニング科目として単位が取れる制度を検討している最中です」と中村学部長は計画を語る。これから超高齢化が進む地域においては高齢市民が公共を担う余裕がなくなる社会とも言える。その時に、未来を担う若者が、公共心を持てるかどうかも、地域が存続して行けるかの条件になろう。サービス・ラーニングの目的は市民性の育成とも言われるが、この大学のように、公共性を養うこととも同義であろう。

●卒業生は教育力

開学して20年が経ち、赤穂市近隣はもちろん、全国各地で卒業生が活躍をしている。地域の中核を担う卒業生たちが大学に連携協力を依頼する。「卒業生との繋がりで生まれたのが、福祉施設でボランティア活動をする高校生を対象とした、2020年度より実施予定の推薦入試です。高校生から大学を通して現場で働くまで、福祉系の人材を地域で育成する仕組みが出来上がりつつあるとも言えます」と中村学部長は説明する。
高校生としても、大学卒業後までのキャリアが見通せるという意味で心強い。地域側も、相手は未来の地域の担い手であるから、教育への協力に熱心である。卒業生ネットワークは、地域を支える人材を育成する大学にとって、重要なリソースであり教育力の一部なのである。
地域センター、地域連携推進室という部署。そして、サービス・ラーニングを見越したコミュニティアワーという活動。特に、コミュニティアワーでは、学生が主体となって地域における課題を見つけ、その対応策を考える。そして、行政等へ提言するといった活動を行ってきた。
こうした日常的な取り組みと関連づけながら、地域連携フォーラムなどの非日常系イベントから課題を集め、これまでの成果を広く市民に知ってもらう、ということも実施している。緻密に設計された仕組みの中で、学生は公共心の高い市民に育っていく。
関西福祉大学は、西播地域唯一の大学として地域のシンクタンクを目指すと言うが、こうした「市民」育成の仕組みを構築することで、すでにその目的は達成されつつあるのではないだろうか。