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未来を創造できる生徒を育む教育を目指して
~東日本大震災から学んだこと~(下)
福島県立福島高等学校進路指導主事  浜田 伸一

本校の校章は、梅花をかたどったものである。そしてその「梅章」は「1. 清らかであれ 2. 勉励せよ 3. 世のためたれ」の教えを表象している。震災を経験し、この教えの重要性を生徒が実感し、「家族や地域、社会のために何ができるか」という視点で自分の進路を語るようになった。この機会を逃さず、ひとりひとりの生徒が自分の未来のビジョンを明確にし、その実現にむけて挑戦できるように、「自分が将来、どう社会と関わっていくのか」を誠実に求め続けるキャリア探究力を育て、「大学では、何のために、何を学びたいのか」をより明確にさせながら、大学や学部・学科を主体的に自己決定できるような情報提供と卒業生や大学の先生、社会人の方々との出会いや対話の場を数多く設定するようにした。さらに、このような進路指導部によるキャリア教育をスーパーサイエンスハイスクール事業と有機的に結びつけながら生徒の進路実現を支援している。

本校は、平成19年度にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を受け、平成24年度より新たに「第2期」がスタートした。それにより、校内分掌ではSSH事業の中心となるSSH部と進路指導部や教務部、生徒指導部をはじめとする全ての分掌が連携し、教育目標の実現に向け取り組んでいる。図は、本校におけるSSH事業と教育目標の実現に向けての全体像である。(SSH部作成「平成26年度SSH研究開発について」による)ここでの特色は課題研究推進プログラムの開発研究のための「1年探究クラス」、「2年探究クラス」、「SS部」を設置しているだけではなく、課題探究力を醸成する学習カリキュラムを開発研究するため「SSH総合」を設定したり、「福島復興」を基盤としたキャリア教育プログラムの開発研究により、全校生が参加できるプログラムの開発を行ってきたこと

である。1年次には課題意識の醸成や「知の技法」の習得をねらいとし、論理的な思考力や発想法の演習などの基礎講座と現代社会や地域が抱える問題点に関わるテーマ別学習による応用講座を実施し、応用講座については年度末の研究発表会の中で各テーマ別にポスター発表をする。2年次には論理的思考力の育成をねらいとしたディベート大会を実施し、3年次には「サイエンス・ダイアログ」と称し、今年度は外国人博士による「文学」「情報学」「薬学・経済学」「材料化学」「農芸化学」「土木工学」「歯学」の英語の講義と生徒の英語によるプレゼンテーションを実施し表現力を養成した。また、「福島復興」を基盤としたキャリア教育プログラム「医療系セミナー」として、南相馬市立病院への訪問や在宅緩和ケアの家庭訪問などを実施した。

また、ここまで紹介してきたSSH事業は、どうしても内容が自然科学分野に偏りがちであったため、進路指導部が主導して平成25年度より「リベラル・ゼミ」を実施してきた。外部講師による講義をきっかけに、社会の様々な問題に対し自分の考えを持ち、それを伝えることができるように、講義前後の生徒間の対話を大切にしている。ゼミ開講にあたっては、以下のような「目的」を掲げ、年間五回程度、希望者を募り放課後に実施している。

「自由人であるための学問」=「リベラル・アーツ」の精神を踏まえ、文学、哲学、心理学、歴史学、経済学、政治学など人文・社会科学から自然科学の分野まで、専門家や各職種・業界の講師を招き、講義や講演を実施し、教科・科目を超えた文理融合の実践的な「知」を育てることで、異なる文化、言語、宗教の人々を理解し共存できるグローバルな人材に求められる総合知としての「教養」を身につける契機とする。また、講義前後の対話、グループ討議や発表での情報交換を通し、論理的思考力やコミュニケーション能力の育成を図る。(以上「リベラル・ゼミ実施要項」より)

平成28年度は慶應義塾大学経済学部教授の武山政直先生や早稲田大学文学学術院教授の甚野尚志先生にも御講義いただいた。今後も大学の先生方の御支援をお願いしたい。一昨年度(平成26年度)からは、ゼミの講義をきっかけに問題意識を強く喚起された生徒が集まり、生徒自らが学びのテーマを掲げ、ワークショップなどの企画、運営を主導する「リベラルゼミ・ダイアログ」という活動が始動し、「リベラル・ゼミ」で講師を務めていただいた方々にもアドバイザーとして継続して関わっていただいている。現在は、東京電力福島原発事故についての「国会事故調査報告書」を読みながら、社会システムを考える「ガチ輪読会」とセクシャル・マイノリティをテーマに「ダイバーシティ(多様性)」について考える「福高ダイバーシティ」の活動が後輩達に受け継がれながら継続している。各教科の学習においても、生徒が主体的な学び手となって、他者との対話や協働的な学びを通じ自らの考えを広げ深めることができるようにし、身に付けた知識や技能を定着させながら質の高い深い学びを目指すことが求められる。

高校教育が社会で自立的に活動していくために必要な「学力の3要素」をバランスよく育んだ上で、高校まで培った力を更に向上させ社会に送り出すための大学教育に「つないでいく」ことが「高大接続改革」の核となるだろう。福島に限らず、新たな時代に向け、正解のない問いに向き合い、根気よく考え続け、自ら判断し、行動できる力や他者の多様な考えを受け止め、それを自分の思考を深めるために活かすことができる力を生徒達に育てていかなければならない。また、今後実施される大学入試改革については、まだ、不透明な点が多いが、「思考力・判断力・表現力重視の評価」が真の意味でそれらの力を育み、生徒が自らの人生を切り開いていく「生き抜く力」につながるよう、段階的で着実な改革がなされることを切に願うものである。

(おわり)