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平成18年10月 第2251号(10月25日)

 

事務局長相当者研修会開く 230大学325名が熱心に研修

研修テーマ 「大学の社会的責任とマネジメント」

 日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る十月十八日から二十日まで、静岡県浜松市のホテルにおいて、平成十八年度(通算第五八回)「事務局長相当者研修会」を開催した。同研修会は、大学運営の要となる事務局長の役割の重要性に鑑み、同協会の大学事務研究委員会(担当理事=香川達雄女子栄養大学理事長、委員長=丸山徹薫武蔵野音楽大学理事・総務部長)が準備を進めてきたもので、「大学の社会的責任とマネジメント」をテーマに加盟三七一大学から二三〇大学三二五名の事務局長等が参加して行われた。

 競争的環境下において、少子化・国公立大学の法人化・学校教育法の一部改正、規制緩和や評価システムへの対応など、私立大学をめぐる社会環境が大きく変化しつつある中、私立大学は、今まで以上に教育・研究を通じて、社会の多様な要請に応え、貢献していくことが求められている。
 このたびの研修会の内容は、「私立大学の社会的責任(USR)」を一つの柱にして、私立大学が社会的責任を果たすために必要な方策並びに管理運営上の諸問題をどのように推進するか具体的に検討するもの。USRの基本的な概念、経営破綻のリスクへの対応、コンプライアンスマネジメント、震災等における私立大学の役割など幅広いテーマの下、講演が行われた。
 まず、同協会中部支部長の小出忠孝愛知学院大学学院長・学長、香川担当理事、丸山委員長より挨拶があり、次いで同協会の小出秀文事務局長より私学振興上の諸課題について概説があった。
 続いて、USR研究会の幹事でもある渡邊 徹日本大学医学部医学・臨床情報課長が、USRの考え方を、ブランディング戦略と結びつけて講演した。まず、「ブランディング」とは、大学の「信頼度」を上げる戦略である、と強調した。続いて、競争的環境への対応、規制緩和への対応などから、大学が自立的かつ機動的な経営、説明責任を果たすことと評価システムへの対応を行わなければならず、そのためにUSRの考え方が出てきた、と述べた。そして、「『教育・研究を行うことが、私立大学の社会的責任だ』などと言う人もいるが、財政基盤をしっかりさせて組織を維持していくことも社会的責任である」と、大学の経営意識の重要さを指摘した。また、USR研究会の実態調査の結果を用いながら、大学のガバナンス、リスクマネジメント、内部統制、情報開示など、USRを行っていくうえで必要な項目について解説した。
 二日目には、「競争的環境と私学経営の課題」と題して、日本私立学校振興・共済事業団の西井泰彦私学経営相談センター長が講演した。同氏は「事業団として、経営困難な学校法人の再生整理支援のスキームを考えていかなければならない」と述べ、入学志願動向、入学定員充足率、財務状況の多角的なデータを解説しながら、学校法人がどのように行動していくべきかを示唆した。また、収容定員が不十分でも黒字の大学は存在する、そのような大学の特徴は、学生と教員の比率がいいことだ、と述べた。学生が減れば、教員のリストラも選択肢の一つだと語った。
 続いて、文部科学省の研究費不正使用に関する検討委員会の委員も務める、大久保和孝新日本監査法人公会計部・学校法人経営管理支援室マーケティング・クライアントサービス本部長代理・CSR推進部長から、コンプライアンスに関する講演があった。同氏は、まず、日本ではコンプライアンス=法令順守、という誤った概念が浸透しているが、本来の意味では、「組織が社会的要請に鋭敏に応じていくこと」であり、単に法律を守っていればよいということではない、と強調した。また、最近、企業でも取り組みが進む「内部統制」については、研究費の不正使用の対応にも用いられうるとして、経営者は従業員に「法律を守らせる」場合に、法律をどのようにして守らせるかのプロセスを「見える(可視化)」ようにしておくことが大事だ、と考え方を述べた。また、現場で情報収集をしつつ、組織風土・意思決定メカニズムの実態に即した体制構築が必要であると締めくくった。
 次に、阪神・淡路大震災の体験をもとにした対応について、実際に被災した宮元善弘神戸学院大学常務理事・事務局長より講演があった。同大学は、一九九五年一月十七日の早朝に発生した大震災に被災、大学の対応を発生から約一か月について詳細に解説した。その後、大震災が起きた際に大学は何ができるのかについて、自らの経験を交えながら、教職員が先頭になって対応することの重要さを述べた。最後に、大地震などは予測できるものではないし、仕方のないことではあるが、仮におきることを想定して、「事前に何をしておけばよいか、何をしなければならないか」などについて話し合っておくだけでも役に立つ」と述べた。
 続いて、同委員会副委員長の池原喜忠名城大学常勤理事が、過去三年間における同研修会のテーマ「大学アドミニストレーター」についての講演などを取りまとめた「競争的環境下での大学職員の役割」の発行について報告をした。アドミニストレーターは、経営戦略型事務局を構築していくにあたり、中心となる行政官職員のことで、私大を取り巻く情勢が大きく変化していく環境において、この養成が急務とされている。
 三日目には、高等教育をめぐる諸問題について、文部科学省高等教育局私学部長に就任したばかりの磯田文雄氏から講演があった。同氏は、これまでの大学の歴史を振り返り、今後の大学のあり方などについて解説した。
 なお、二日目の午後、三日目の午前には班別討議が行われて、三日間の全日程を終了した。

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