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平成19年1月 第2257号(1月1日) 2007年新春特別号

2007年 新春座談会
  「全入時代の教育と私学経営 高度化と多様化への対応」
  学校法人制度を堅持し私学振興を 建学の精神の下、特色ある教育を展開

国立大学の私学化は危険な選択ではないか

 国立大学法人の入試のことですが、AO入試や推薦入試が大幅に緩和されるとのことで、危険極まりないことです。高等学校以下の中等教育を破壊することにもつながります。AO入試や推薦入試は、後期中等教育までの実力がついていることが大前提であり、今のような大学入試のあり方で、高校教育が引っ張られるような体制の中では、これらを緩和すべきではない。国立大学法人が私学化の道を歩むのであれば、このことは、先にも述べたように国家の存亡をかけた、大変危険な道でありますが、まず、第一にやるべきことは、授業料を私学に合わせることから始めるべきです。そのことにより教育において、私立大学と公正公平な競争が成立する。
 要は、国家として維持すべきところには、きちんと財政出動をするということです。
 廣川 国立大学が法人化して、民間的発想の経営手法を導入することになり、各大学の経営財源は国からの運営交付金と学部学生の学生納付金収入が大きな比重を持つこととなりました。
 そこで、国立大学法人は私学以上に学部学生の確保に本腰を入れることになりました。
 そして、毎年、文部科学省の高等教育局長通知として出される次年度の大学入学者選抜実施要項で国立大学は入学選抜の前期日程・後期日程の定員比率の適正化を求めていますが、国立大学協会はこれまで推薦入試・AO入試の定員枠は三〇%以下としていたものを、平成二十年度からは五〇%も取ることにしていますので定員比率の適正化など無意味なことになり、しかも逆に要項で入学定員未充足の場合は三月二十八日以降に追加合格により欠員補充を行うことができるとあることから、四月以降私立大学の入学式後に私立大学入学予定者の中から引き抜いていくことになるので、私立大学にとっての影響は計り知れません。
 その結果、既に定員超過率は平均で国立大学が私立大学よりも大きくなっていると言われています。
 われわれの税金をもとに出される運営費交付金で、はるかに安い学費の国立大学のやるべきことではなく、むしろ国立大学法人は国際的研究拠点大学を目指して学部学生の定員は減らし、学部教育は私学に任せるべきだと思います。
 福井 国立大学と私立大学との関係が今後どのように進展するのかはわかりませんが、現在、国立大学と私立大学とのフェア・フッティングが確立されないまま国立大学が法人化され、競争に加わってきて、今の流れから見て致し方ないと言われればそれまでですが、学生一人について私学の一〇数倍もの公費を受けている国立大学として、やはりそれなりの権威と規範性を持っていただきたいと思うのです。例えば入学定員を増やすようなことが、安易に行われていいのかどうか。やはり社会的ニーズから増やす必要があれば改組転換をして、人口動態に合わせて総定員は減じていくような方策を考慮していただきたいし、また財政的にも格段に恵まれている以上、最近まで私立大学にも三〇%の範囲で配慮が求められてきた推薦入学の定員枠を五〇%に引き上げ、数は極めて少数とはいえ、四月になってからの補欠繰り上げや学生募集などは、決して好ましいこととは言えず、国立である以上、全大学の規範となる、あるいはモデルになるような方策と方針をきちっと持って、日本の高等教育の発展に資していただきたいと思うのです。
 大橋 実は私は、国立大学と私立大学の両方の経験があります。私立大学から見ると、国立大学は国費による手厚い保護を受けているという面だけが取り上げられますが、その反面、文部科学省の直接的なコントロールに振り回されるという面もあります。国立大学も法人化され、規制がかなり間接的になったとはいえ、私学側から見えにくい多くの縛りがあります。私立大学は文部科学省の直接的なコントロールを受けない、そしてそういう伝統に慣れている、その強みをもっと自覚してこれからの競争に生かしていくべきでしょう。
 瀧澤 皆さんのおっしゃるとおり、国立と私立は市場における競争関係にだけあるものではないと思いますが、競争というならフェアな条件が必要です。せめて、私学助成の増額を、とも思いますが、なかなか伸びません。これについて、大沼先生はどのようなご意見でしょうか。
 大沼 もう少し国は高等教育に対して支出を増加すべきではないかということを申し上げたのです。それが市場原理主義の下では通用しないようですね。要するに勝ち組と負け組で、勝ち組は残ればいいし、負け組は必然的に潰れていくのだという考え方ですね。ですから、われわれは暮れになると次年度の国の予算の要望満額実現を目指して私学助成のためにいろいろと国に陳情などするのですけれども、そういう考え方に対する理解はあまりありません。むしろ補助金というような制度はもうなくすべきではないかというぐらいの意見が強いのです。
 中原 今はそういうことと、問題は、私学助成について定員割れの大学に対する助成の見直し、一般補助でありますけれども、定員割れが続いている大学等については一定期間で改善方向が見られない場合には、私学助成を減額すると明らかにうたっておりますので。とにかく私立大学で定員割れを起こしているということは四〇%を超える状況になってきております。

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