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平成26年9月 第2577号(9月3日)

改革の現場
 ミドルのリーダーシップ <67>
 徹底した外国語教育を推進
 アクティブラーニングマップなどで緻密に教育設計
 長崎外国語大学


 学校法人長崎学院は、1901年に創設された長崎基督教青年会、その後の長崎外国語学校を起源とし、1950年に長崎外国語短期大学、2001年に長崎外国語大学を設置した。経緯の通りミッション系、外国語学部のみの単科大学だが、海外留学生ニーズに合ったプログラムを充実させているため、九州でもトップレベルの欧米留学生比率を誇る。改革の経緯を石川昭仁学長、溝田 勉統括副学長、小鳥居伸介統括副学長、川原仁幸法人事務局長、濱崎康孝法人事務局次長、山川欣也教育支援部長、冨田高嗣入試広報部長、成瀬尚志特任講師に聞いた。

  2007年、定員未充足と財務悪化から認証評価は保留となった。翌2008年には同様の理由で文部科学省の学校法人運営調査が入る。ただちに経営改善計画を策定し、学生募集は留学生確保の方針に舵を切った。「留学生戦略は、開学当初から構想がありましたが、議論をしている最中に日本人の受験生自体が減少しました」と濱崎次長は振り返る。
 短期大学時代から、独仏英など欧米からの留学生は多かった。その理由は、欧米の学生を中心に英語で日本社会や文化を学ぶ半年間の特別プログラム「JASIN(Japan Studies in Nagasaki)」の存在だ。これが留学生から非常に評判がよく、海外の大学で口コミで広がっていき、現在の交換留学提携大学数は70を超えた。冨田部長は、「豊富なノウハウと質の高いプログラムが海外で認めて頂けているようです。また、大都市圏よりも田舎に留学させる方が日本のことを良く知ることが出来る、あるいは、学生の行動をある程度管理できる中規模の街の方が良いと指摘する海外の関係者も多い。もちろん、提携話を待っているだけではなく、海外の国際交流イベントに参加したり、日本語学科がある海外大学にコンタクトを取って営業活動をしています」と成果に胸を張る。更にJASINアジア版「NICS(Nagasaki International Communications Studies)](日本語)も稼働し、非英語圏のアジア留学生にも対応。教員は三七名中九名が外国人で、日本からも短期を含めると七割の学生が留学を体験する。
 更に特徴的な教育プログラムが、アクティブ・ラーニングを中心に据えたカリキュラムである。「まず、アクティブ・ラーニング・マップを独自に開発して、どの科目がどのようなアクティブ・ラーニングを行っているか可視化しました。目玉はPBLで、現在は社会と連携する八つのプロジェクトが稼働しています」と成瀬講師。外国語の習得がメインだが、9の専門プログラムが用意されており、これらはカリキュラムフローチャート等の中で、同大学が掲げる「グローバル人材」として身につけさせるべき5つの汎用力と連動している。また、シラバスも厳密に書くことが要求され、ポートフォリオ、ナンバリング、更に観点別成績評価、評価基準公開など入念に教育が設計されている。こうした取り組みはどのような過程で行われてきたのか。「1991年の大綱化の際、当時は短大でしたが、これから必要になると思いナンバリングもコース・ディスクリプションも導入してみたのです。周囲からは全く見向きもされず立ち消えましたが」と石川学長は苦笑する。つまり当時の原型を今風に置き換えて制度を復活させたので、教職員に受け入れられやすいということである。
 こうして地方の小規模大学ながら、学校法人運営調査等を機にグローバル人材の育成に戦略を特化することで、海外留学生と同時に「外国人と交流したい」という日本人受験生も大幅にアップ。留学の受入れ・送り出しの日本学生支援機構の奨学金枠数が全国で五位という「尖った取り組み」に結び付いた。
 現在、経営改善計画は中長期計画「長崎外大ビジョン21」に装いを変え、ビジョン実現のための4つの基軸と25の戦略を決定し攻めの姿勢に転じている。「今は補助金の対象となりそうなプロジェクトは先取りをしていこうと。見た目意欲的に見え過ぎるというのもあるかもしれないけど、重要なことだと考えています」と川原局長。
 この4月からは、統括副学長を2名おいてガバナンス体制を強化している。大学と法人間は「運営協議会」で調整され、迅速な経営判断のため隔週で理事長、学長、事務局長が集って議論する。財政的には、学生募集の回復、更に徹底した無駄の削減により、2012年で黒字化した。
 地方小規模大学でも、グローバル人材の育成はできる。その証左は長崎外国語大学を見れば一目瞭然である。

危機をバネに計画を浸透、志願者の大幅改善を実現
桜美林大教授/日本福祉大学園参与 篠田道夫

 1947年、原爆で廃墟と化した長崎で、いち早く長崎外国語学校としてスタート、長い外国語教育の歴史を持つが、大学は2001年の創立だ。外国語学部単科だが、例えば国際ビジネス、航空・観光、通訳・翻訳、英語専門職など将来の仕事に直結する9つのプログラムを持つ。創立以来、徹底した国際化、外国語教育で特色を鮮明にしてきた。
 学習効果を生み出す授業を作るため5つの観点からカリキュラムを分類したカリキュラムマップ、科目ごとの教える中身の配置図・コース・ディスクリプション、科目ナンバリングの検討など最新の手法を導入してきた。
 CORE&ACEプログラムは、5段階の英語力レベルでクラス分け、基礎力から応用力へ段階的に上位プログラムに移行できる仕組みだ。学生提案型、教員提案型のプロジェクト授業も置き、半期ごとに振り返り・報告会を組むことで人間力、実践力を育成する。学習成果をできる限り可視化し、ポートフォリオで、出来るようになった成果を明示、成長を実感できるようにした。
 カンバセーションパートナー制度は、留学生と日本人が小グループを作り双方の語学力を高めるシステム、アドバイザー制度では1教員10人程度の学生を担当、濃密な指導を行う。
 留学を非常に重視し、年間で学年の3割を超える学生が留学、4年間トータルで7割を超え、日本のトップクラスだ。留学先で学費がかからない交換留学制度も充実させた。留学生受け入れにも熱心で全学生の3人に1人は留学生。キャンパスそのものが世界、海外を体験できる環境を作り出す。
 国際学生寮・アンぺロスは大学隣地に318室を持ち、日本人・外国人学生が共同で生活する。アメリカ、ドイツ、中国、ネパール等様々な国の学生が入居し自治運営、生活の中で海外体験、外国文化、語学力を自然に身につける重要な教育機関として機能する。
 就職も重視し、内定率は94.8%。インターンシップを正課科目化、空港研修を中部セントレア空港などで行う。社長の鞄持ち3日間体験では、市内企業の社長、支店長や学長に密着し、トップの行動を実地に学ぶ。
 開学当初は注目されたが徐々に志願者が減少、2005年からは入学・収容定員共に1倍を切る状況となる。2008年には定員充足率68.9%まで落ち込んだが、2012年には94.6%に大幅改善された。この間に何があったか。
 志願者ボトムの2008年、文科省が調査に訪れ、その指導で経営改善5か年計画を立案、その前年には大学基準協会の認証評価で財務悪化から保留の判定を受け改善計画を策定した。中心は、学生確保、財政改善。理事長主導で、経営状況を全教職員に徹底すべく、法人運営の現況と方針を直接説明する機会を何回もつくり、改善計画を共有、全学一体の推進体制を整える。
 法人・大学をつなぐ運営協議会を連携の中核機関として設置、全役職者と事務課室長全員で重要議題を討議・実行する。経営会議(法人運営)、学長室会議(教学運営)が時機を逸することなく改革に対処する体制を整備、学長が学部・全学を直接陣頭指揮する。
 2005年以降、それまで教員のみで構成されていた委員会に職員が構成員として参加、職員の意識改革も進んだ。専任職員会議を毎月全員参加で開き情報を共有、方針を浸透させる。
 2012年は経営改善計画の最終年度。こうした努力で、計画値には及ばなかったが、155名の入学生増加を実現(定員充足率95.9%)、計画値743人に対700名で、財政面でも僅かではあるが90万の黒字を達成し日本私立学校振興・共済事業団からも評価された。危機認識を全学で共有、外部評価も生かした総合的改革をトップからボトムまで一致して取り組んだ成果といえる。
 2013年からは、「長崎外大ビジョン21」(2013―2020)として自ら立案した新たな中期計画に取り組んでいる。教育研究ビジョンと大学経営ビジョンを統合、大学の持続的発展を保証する仕組みの構築もめざし、4つの基軸と21の戦略からなる本格的なものだ。優れているのは、これまでの経験から、全てのテーマごとに実現のプロジェクトを置き、評価指標とターゲット(数値目標)を設定、実践に迫ろうとしている点だ。危機を力に変え、継続的な改革に取り組んでいる。



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