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平成25年1月 第2510号(1月16日)

 地域創職 ソーシャルビジネスと若者 B

 地元企業等の経営課題に取り組む若者たち
 鹿児島 NPOマチトビラ・志學館大学等


卒業後を見据えたキャリア開発〜繋がりの中にある実践と理論〜
マチトビラ(NPO) 代表 末吉剛士
 鹿児島ではNPO団体マチトビラが、志學館大学、鹿児島国際大学、鹿児島大学の3大学と連携し、長期実践型インターンシップを実施している。過去2年間で92名の学生・若者が、鹿児島県全域に渡り、社会貢献型企業や事業型NPO、まちづくりに取り組む一般社団法人、組合等、地域に根ざした受入団体32団体の中で、計2万時間のインターンシップを行った。本稿では、取り組みの一つである志學館大学との連携事例を紹介する。
 志學館大学は、平成23年度よりマチトビラと連携して、2年次キャリア形成科目(共通教育科目)「キャリア開発演習T・U」の2科目を新設した。
 「キャリア開発演習T」ではインターン前の導入研修として、前期科目(90分×15コマ/2単位)を通し、自己分析・社会分析・社会人基礎力(ビジネスマナー、ロジカルシンキング、チームビルディング)などについて、ディスカッションやグループワーク、個人ワークなどを取り入れながらアクティブな演習を進め、実践的な知識・技能、そして、自分も成長したいという動機付けを行う。平成23年度は15人、平成24年度は約40人が受講した。
 「キャリア開発演習U」では、実際に地域課題・経営課題に挑みたいという学生を対象に実践的なインターンシップを行う。夏季集中科目(約54時間の実習+約6時間の実習/2単位)を通し、地域のソーシャルビジネス事業所や中小企業での実践的なインターンシップを行う。平成23年度は5人、平成24年度は5人が受講した。学生たちは、夏季休暇中の約一か月半、地域密着型ポータルサイトの営業開拓、スポーツ教室を行うNPOの新規事業リサーチマーケティング、観光ホテルでの新規宿泊プランの企画、写真スタジオにおける接客強化などに取り組んだ。
 繋がりが機会と動機を生む
 学生からの授業後レポートにこんな言葉があった。「仕事?会社?今まであまり考えたことがありませんでした」「企画をしたり、プレゼンをしたりすることは、今までは遠く離れた社会に出てからのものだと思っていましたが、日常に関わる、より身近なものなのだなと思いました」自分の人生と社会の間に大きな隔たり・距離感を感じる学生は驚くほど多い。大きな隔たりがあるからこそ、多くの学生が将来に不安を感じている。
 だからこそ「学生=お客様扱い」というインターンシップを脱却することが非常に重要である。実践型インターンシップを運営していて、強く感じるのは「学生を最もモチベートするものは感謝」ということだ。「あの人のために」という目的を達成するために、試行錯誤し、周囲に支えられ感謝する。支えられながら、必死に試行錯誤した自分の行動や努力が、誰かのためになり、感謝される実感と喜び。実践型インターンシップでは、そういった「感謝」が存在するので、「社会の中の自己」の理解を深め、「繋がり」を意識し始めるのに有効である。
 外部組織であるマチトビラの役割は大きくいうと「受入企業と学生双方のニーズとシーズの仲立ち」である。具体的には、カリキュラム・プログラムの開発、受入企業の発掘・折衝、マッチング、事前・中間・事後の研修実施、インターン中のフォローなどを行う。プログラムの開発で特に注意している点は、企業の中で「普段したいと思っているけれど、なかなか出来ていないこと」を聞き出し、「学生だからこそ出来る方法と行動」で成果を出していく形を設計することだ。
 通常、企業側はインターンシップと聞くと「ボランティアで受け入れてあげる」「低コストの人員が来るので当たり障りのない仕事を任せよう」と思いがちだが、外部組織であるマチトビラが「学生だから出来ることがある」「学生と本気で挑戦してみませんか」という提案を行い、一方で学生に向けて、「本気で挑戦して、社会に貢献しませんか?自分を成長させてみませんか?」という提案を行っている。結果として、受入企業にとっても、学生にとっても本気で挑戦する機会となり、WinWinの結果となるのだ。

キャンパス移転が繋がりの契機に
志學館大学法学部准教授 志賀玲子
 実践型インターンシップがキャリア形成科目「キャリア開発演習T・U」としてカリキュラムに導入された大学側の経緯を述べたい。
 そもそも、地方の私立大学は、地元出身の学生の割合が高く、卒業後の地元就職志向が強い。経済的事情や家庭的事情で県外に出る機会が少ない学生も多い。都心部では人の多さや情報の速さに自然と揉まれるが、地方においても、その良さの活きた「異質さ」にぶつかる仕組みを作り、キャリア開発への動機づけとしたいところだ。本学においても同様であり、県内にいながらにして、いかに低学年次における外部との交流の場を増やすかを模索していた。というのは、学生が、異年代や他大学、職業人等との実践を伴う接触によって多様な価値観を知り、視野を広げ、社会の変動やスピードを直に感じ取ることは、生涯開発力や就業力を培うために必須だからである。また、「社会の中の自己」を捉える試行錯誤は、生活面の充実にとどまらず、理論の重要性や言語化の必要性を再発見し、むしろ学業への意欲が向上するきっかけにもなるからである。
 なお、特にソーシャルビジネスに接する場合には、自らの地域感覚を磨き、地域課題について考える姿勢を身に付けることにもなる。これらの認識は、建学の精神「時代に即応した堅実にして有為な人間の育成」のもとに実践を重んじる学園(学校法人志學館学園の旧称は実践学園であり、昭和6年には百貨店・商店・銀行等での実習制度を実施していた)の伝統と、地域密着型大学としての大学の使命にも合致するものであった。そして、平成23年に霧島市隼人町から鹿児島市紫原へキャンパス移転することが決定していたことから、これを契機にキャリア教育を拡充することになった。
 そこへ、平成22年、内閣府事業「ソーシャルビジネスエコシステム創出プロジェクト」とNPO団体マチトビラとの出会いが訪れたため、カリキュラム化の話はすぐにまとまった。本学は、平成17年に共通教育として「キャリア形成科目」群を設け、キャリア教育を組織的段階的に行うことを重視してきたが、その3回目の改編となった。自己効力感の獲得を意識したキャリア開発の仕掛けを丁寧に創ろうとする、末吉代表ほか担当者、同事業関係者との「繋がり」が、大学教育にもまさに新たな機会と動機を生んだことになる。
 実施の際には、就職活動に結びつく既存の科目「インターンシップ」とは差別化し、関連はするものの、あくまでも早期からの段階的なキャリア開発のための演習として位置付けた。1年目よりも2年目は学生への周知が進み、履修学生の周囲の学生が活動的になるなど変容しつつある。
 今後の動向として、来年度から新規に「地域協働センター」を立ち上げ、学生を積極的に地域に送り出し、大学と地域の連携と循環を図る。これは、全学教職員研修に実践型インターンシップを推進する外部講師を招くことで進んだ動きである。したがって、カリキュラムや他の学生支援業務との連動、受け入れ先や地域の実情を踏まえた事業の推進が目下の課題であり、外部団体や他大学とも引き続き綿密なコミュニケーションと調整が必要である。
 持続可能な地域づくりの起点となる大学(末吉)
 変化と混迷の時代が続く中、「じゃあどうするか?」という挑戦が多くの場面で求められている。本稿でご紹介した「キャリア開発演習T・U」は、地域の中で「挑戦する企業」と「挑戦する担い手」を増やしていく起点となりつつある。今後、さらなる成果を生むべく私共自身も挑戦を続けていきたい。
 また、様々な地域の大学が、持続可能な地域づくりの起点となるべく、より地域と繋がり、地域課題を払拭していくような挑戦が増えていくことを期待したい。

 

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