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平成24年4月 第2480号(4月25日)

改革の現場
  ミドルのリーダーシップ Q
  将来構想を軸に着実に改革
  東京電機大学



 東京電機大学は、1907年に廣田精一氏、扇本眞吉氏が「電機学校」として東京市神田区に創立した。その後、1939年に東京電機高等工業学校を開校し、1949年に学制改革に伴い大学となった。建学の精神は「実学尊重」、教育・研究理念は「技術は人なり」で、工学部、工学部第2部、理工学部、情報環境学部、未来科学部を設置している。2007年の創立100周年を機に、大学グランドデザインの策定と東京神田キャンパスから東京千住キャンパス(北千住駅徒歩1分)に移転を決定し、この4月より次の100年に向けて新たなスタートを切った。改革の今を、河野 朗理事/総務部長、国吉 光副学長/学長室長に話を聞いた。
 大学改革の契機は2004年の加藤康太郎理事長就任時だった。河野理事は当時を振り返る。「18歳人口の減少、理工系離れに伴う受験生の大幅減少が本学を直撃しました。全学的な再編をしなければ立ち行かない、という危機感が学内に生まれ、法人と教学の責任者が招集されました。将来構想企画委員会が立ち上がり、2005年に改革骨子を答申。改革に向かって大きく舵を切りました」。
 骨子は、@建学の精神、教育・研究の理念の尊重、A環境変化に適応する組織の構築、B組織の規模・配置の適正化、C財政健全化、D学園および大学の行政管理体制の確立という「五つの提言」に集約された。提言ごとに中長期計画が作成され、東京千住キャンパス創設、大学グランドデザインの具現化、学生確保・広報の推進、財政健全化、管理運営体制の整備をテーマに、それぞれ担当理事が主導のもと、教員・幹部職員が一体となって纏め上げた。
 河野理事は続ける。「各テーマは相互に関連し合うこともあります。例えば、北千住への進出は2008年に決定しましたが、ハードのみならずソフトも重要であるという判断から「ブランディング委員会」を発足させました。これは学長の私設委員会であり、中堅の教職員が協働でワークショップを行って、課題を発見しながらアクションプランを創り上げるものです。元々、教職員間の壁は低く、職員の意見も聞いてもらいやすかった風土があります」。
 改革の扇の要となるのは学長室や総務部だ。教学では、副学長/学長室長には元理事が就任し、他の副学長として各キャンパスの教員が就く。こうしたトップを強固に支える仕組みが教学マネジメントを支えている。
 何故ここまで急激に変えられたのか。「理事会のリーダーシップが大きいと思います。理事会が将来構想企画委員会に様々な課題を検討するように付託しますが、理事長と学長が学生第一主義、学園のために、という明確な基本方針を共有しているので、一つの方向性を出しやすかったのだと思います」と、国吉副学長は振り返る。
 2009年には意思決定の迅速化と責任の明確化のために、評議員の定数を減らして、常務理事を1名から3名に増やした。日常的な議決事項の起点になるのは学部長会で、学部長、センター長等を集めた常会が2週間に1回開催され、協議事項を踏まえたうえで各教授会に送られる。各学部教授会での議決は、教育改善推進室、各センターで、議論を練り上げるので、否決されることはめったにない。
 年次事業計画について河野理事は「中長期計画や前年度の評価、各部門の状況を踏まえた上で方針を打ち出します。中長期計画に基づいた目標に基づき、各セクションから具体的な目標を提示し、社会情勢等と教育目標の関係の中でどのように策定するかを決めます。カリキュラム編成や入試広報は学部横断の委員会で決定します」と解説する。
 学部を横串にして風通しを良くしているのが各センターで、意欲のあるミドル層職員が主体的にアイデアを出して運営している。将来、河野理事らは、モチベーションの高いミドル層を育成して、戦略的に人材を配置したいと考えている。
 SDは何をしているのか。「グランドデザインの具現化に向けて職員一人ひとりが何が出来るかを発表し合うワークショップ形式の研修を行っています。部署単位でテーマを設定しワーク(議論)し、部署の代表者一人が15分にまとめて、100名程の職員の前でプレゼンテーションを行い、評論を受けます。これが功を奏しており、職員の視野が広がり、自分の仕事に対する気付きを得ています」と河野理事。職員の相互研修型とも言えるこの新しいSDは、改革を成功に繋げる大きな契機となると考えられる。

目標を実践する組織を作り実効性ある活動を推進
 日本福祉大学常任理事/桜美林大学大学院教授 篠田道夫

 2000年代初頭、理工系離れの影響から志願者が急減、危機意識を持った学長はじめ経営陣は本格改革の必要性を強く認識した。おりしも2007年に創立100周年が控えており、改革のチャンスととらえ抜本改革案の策定に着手した。2005年、理事長が指名する理事、学部長、学校長、事務部長等で構成する将来構想企画委員会を立ち上げ、五つのWGを置いて、学園の全ての課題を洗い出し改善計画の策定を進め、前述した五つの提言としてまとめた。これが、今日まで続く東京電機大学の改革の羅針盤として事業計画等で繰り返し明記され、その実践が追求されている。特に、2007年の100周年を機に取り組まれた「新学部設置・全学的改編」、斬新な未来科学部の設置から東京千住キャンパスへの全面移転など、財政を含め大きな決断を伴う大事業のバックボーンとなった。
 さらに、こうした経営・管理面の改革だけではダメだという自己認識の中から、2009年、古田学長のイニシアティブで大学のグランドデザインが策定され、教育の中身、質向上の施策が次々と実行に移される。平成23年度からはこの、教育の充実・改善向上的・専門的に進める教職一体の組織として、元理事(元学部長)を室長に、学部選任の副室長4名と担当副学長、事務局による教育改善推進室が設置された。学部選任の副室長は、教育改善方策の立案に関るとともに、その学部への浸透のキーパーソンとなっており、職員3名を配置して強力な活動を開始している。入学前教育、初年次教育、導入教育を重視し、学習サポートセンターも設置した。『パーフェクトな就職支援体制』を売りに、徹底した就職支援システムを作り、先輩学生アドバイザーによる「就職寺子屋」などユニークな活動で、高い就職率を作り出してきた。
 こうした改革を実現した背景には、当初より五つの提言の柱に盛り込まれた「変化に適応する組織構築」「行政管理体制の確立」など、政策の推進体制、管理運営改革が明確に位置づけられている点が上げられる。プランは策定するだけでは絵に描いた餅。掲げた目標の実現に相応しい推進の仕組みがあってはじめて前進する。
 理事会自身も、常務理事を大幅に増やし、専務理事体制を引き、経営執行機能を抜本的に強化した。理事数の3倍を超える評議員を縮小、運営の機動性を図った。法人の政策立案、推進機構として企画部門を立ち上げ、改革の日常的な遂行体制を強化した。財政面では、財政健全化委員会が数値目標を明確に掲げて財政改革に取り組み、財政健全化グランドデザインを策定、給与や定年制の見直しをも含む検討に着手するとともに、重点事業と予算計画の結合、目的別予算・決算書の作成、それを使った事業単位の採算チェックなどを、ステップ1〜3へ、三段階で計画的な実行を目指している。
 教学面でも、グランドデザインの実行組織としてブランディング委員会を設置、その下にWGを設置して具体化と推進を図り、その中から前述の教育改善推進室も誕生した。焦点の学生募集も、広報推進本部を設置、狭い学生募集対策や広告に止まらず、大学全体の広報を通して評価向上に結び付ける総合的な取り組みを行い、特にホームページを重視する。
 きっちりとした目標の設定、その推進のためのテーマ(分野)ごとの実行組織の設置、この組織を実質化することで、確実な実践と成果を作り出している。大規模大学での改革の堅実、着実な推進に効果的な手法だといえる。


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