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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.540
認証評価の課題と今後の方向性
第57回公開研究会の議論から

主幹  瀧澤 博三(帝京科学大学顧問)

 認証評価制度は発足後すでにほぼ10年を経過し、各認証評価機関は様々な課題意識を持ち、すでに評価システムの手直しも行ってきたが、現在なお各方面から様々な改革課題が提起され論議が交わされている。各認証評価機関でもそれぞれにこれまでの実施状況の検証に基づいて評価システム等の見直しに取り掛かっている。全体として改革の方向性は未だ定まっていないように思えるが、各評価機関が特色を生かしつつも全体とし調和の取れた分かりよいシステムを実現するためには、この段階で多くの関係者・関係団体が問題意識を共有し検討の状況についてもコミュニケーションを良くしておくことが大事であろう。
 今回の公開研究会はこのような趣旨からのものであった。このためまず文科省の田中聡明高等教育政策室長から、中教審をはじめ、政府関係審議機関等からの提言・報告等をもとに、認証評価制度に関する課題提起、改革の方向性等について説明があり、これを受けて、認証評価3機関を代表する3名の講師から、それぞれ評価事業のこれまでの実績の検証、問題意識、改善の方向性等について説明をして頂いた。
 〈検討課題は何か―田中室長〉質の保証がいま大きな課題になっている背景には三つのことがある。一つは大学教育の質的転換、二つには大学の国際化であるが、現在更に三つ目として大学の質・量の充実ということが政府の成長戦略として謳われていることがある。これまで大学全入時代と言われ大学は多すぎるという声が各方面から出されていたのに対し、新たな政策の方向性として注目される。
 認証評価制度に係る検討課題としては、中教審大学教育部会の審議状況に沿って、次のような事項が挙げられた。@学修成果や内部質保証を重視した評価の在り方―3評価機関ともこれまでの見直しにより評価基準の改定で対応している。A機能別分化の進展に対応した評価の在り方―3機関とも大学の特色に応じた評価を行う仕組みを講じているがその方式にはかなりの相違がある。B評価結果を改善につなげる仕組み―3機関とも独自にフォロー・アップの仕組みを構築している。
 なお、これら@〜Bのような共通的課題については、制度的な整合性・統一性が保たれるような工夫が必要だろう。
 C評価の効率化―大学ポートレートの活用、評価制度間の連携など、D評価における社会との関係の強化―幅広い関係者の声を評価に反映させるための仕組み
 〈大学評価・学位授与機構―検討課題と今後の方向性・岡本和夫理事〉岡本理事からは、第1サイクルの評価事業の検証結果報告と機関別選択評価を中心とした説明があった。この検証結果を見ると、積極的な評価は基準五の関係(教育関係)に突出して多く、一方要改善の指摘は基準4の関係(学生受け入れ)に集中しているなど大きな偏りがみられた。また評価を受けたことについては、評価のための作業は大変だったとの感想の一方、全学の状況を把握できるようになったことなど得たものも大きいという感想が多かったようである。検証の結果を踏まえて評価基準等の手直しをしたが、その柱は内部質保証の充実、学修成果の重視、情報公表の重視の三つである。
 また、従来の選択的評価事項を発展させ、認証評価とは別に機構が独自に行う第三者評価として機関別選択評価を実施することとした。評価事項としては、研究活動、地域貢献活動、教育の国際化の3項目を設けた。国際化については三つの視点や水準判定のガイドラインも定めている。
 〈大学基準協会―今後の方向性・工藤 潤研究部長〉認証評価制度の発足当時は規制改革の「事前評価から事後チェックへ」の方針に沿って、設置審査を弾力化し、一方で事後の認証評価を行うという考えであったが、今日では事前の設置基準を中心とする視点からの評価に加え、新たな視点として大学教育の質的転換が大きな課題であり、そこからインプット評価からアウトカム評価への転換、機能分化に対応した特定の教育研究活動に重点を置いた評価、評価結果を改善に繋げる仕組みの構築、などが今後の見直しの課題として浮かび上がっている。
 今後の課題と見直しの方向性として、認証評価は自主的な自己点検評価を基盤としているが、そのような理解は各大学に充分徹底しておらず、単に法令上の義務としてやっているような感があり、必ずしも実質化していない面があった。そこで第2サイクルでは内部質保証システムの構築を目指したが、今後は内部質保証システムが実質的に機能しているかの評価に重点を置くことになろう。
 第2には大学の多様な発展に資する評価へということだが、機能別評価ということは、どういう機能を対象とするか、その評価基準はどうするか等問題が多く、慎重な検討を要する。また、アウトカム評価の重視である。現在行っている達成度評価は、FDにしてもシラバスにしても、その内容に関する外形的なインプット評価になりやすいが、大事なことは、それが適切に活用され学修の活性化に役立っているかの「有効性の評価」であり、ラーニング・アウトカムもその一環である。さらに評価の負担減を考えることは重要である。第一サイクルできちんと出来た大学を第二サイクルで同じように評価する必要があるだろうか。情報公開の徹底など一定要件をクリアしている大学にはライトタッチな評価を考えてもよい。
 〈日本高等教育評価機構―課題とこれからの方向性・伊藤敏弘研究部長〉第1期の検証では、自己点検評価は義務感が先に立ち、教育の質向上に結び付けるという意識が薄い、評価基準については、項目が細分化されているため記述が重複し煩雑になり易い、などの指摘が多かった。このような検証結果を踏まえ評価基準の大幅な改定を行った。そのポイントは、(1)評価基準は基礎的・共通的なものに限定し、大きく四つの基準にまとめる。(2)大学は明確なエビデンスを重視して自己点検評価書を作成し、自ら基準への適否の判定をする。(3)大学の使命・目的に基づく特徴的な分野については、四つの基準とは別に大学が独自に基準を設定し、自ら評価・判定を行う、の3点である。
 〈第3期に向けての問題提起〉第3期の課題については未だ正式に検討に入っていないが、個人的な考えとしては、まず、第三者評価機関としての社会への説明責任を果たすため、受験生・保護者等多くのステークホルダーに対する評価結果やその後の改善状況の公開の工夫、学修成果測定方法の研究、学修成果重視の評価基準の在り方の調査研究等を一層進める必要があろう。
 おわりに 田中政策室長が挙げた「今後の課題」については、3認証評価機関とも概ね共通理解を持ち、一部は既に評価基準の改定も行っている。見直しの方向性については3機関に大きな違いは無いように思われるが、いくつかの課題、例えば機能別評価、学修成果を重視した評価などについてはかなりの考え方の相違があり得るように思われる。
 評価作業の負担軽減を図る方法にしても様々なアイディアがあり得るが、関係機関の協議により出来るだけ制度的な統一性・整合性を図り、「明快で分かりやすい基準」を工夫すべきだろう。

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