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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.535
評価活動の自律化とによる知識共有
評価活動の充実を目指して

吉田 修(愛知産業大学造形学部・経営学部・通信教育部教授)

一、はじめに
 大学教育の傍ら、私が設置や改組等の申請業務に携わり始めたのが平成10年前後である。その2年後の平成12年に答申された中教審答申「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」は、日本の高等教育に対する政策の大きな転換点であったと記憶している。時あたかも、行政改革、規制緩和が声高に叫ばれ、大学設置基準の大綱化、事前規制から事後チェックへ、そして第三者評価制度の導入が答申された。その後、平成14年の中教審答申を受けて、平成16年、全ての大学に対して7年以内ごとに認証評価を受審することが義務付けられた。その翌年の平成17年から私は日本高等教育評価機構の評価員として大学の評価活動に関与させていただいている。
 本稿では、日本高等教育評価機構における私自身の評価活動の実践を手掛かりに、日本の高等教育において現在実施されている「評価活動」という現象について若干の分析を加えるとともに、認証評価の将来像について考えてみたい。
二、「評価活動」という現象へ
 認証評価における「評価活動」という現象を考える時、一見「評価するもの」と「評価されるもの」が明確に対峙しているように考えられる。しかし、よく分析してみると、この現象はそれほど単純でない。
 例えば、そもそもこの現象における「評価されるもの」、即ち「評価対象」とは何であろうか。それは、言うまでもなく「大学」である。より正確には、「大学機関別認証評価実施大綱」(以下、「実施大綱」)に「2.評価の対象完成年度を経た大学」とある。また、「大学機関別認証評価大学評価基準」(以下、「評価基準」)の「基準1.使命・目的等」の趣旨に、「大学は、知の拠点であり、知識基盤社会の重要な社会的インフラとして高い公共性を有する機関」と明記されている。従って、評価の対象は「機関としての大学全体」である。
 では、この評価対象としての大学は、どこに、どのように存在しているか。また、「評価するもの」としての「評価員」は、評価対象の大学にどのように対峙するのか。それは、評価される大学が制作し、評価員に提出される「自己点検評価書」(エビデンス集等を含む)の「中において」である。ここで再度問うならば、この「自己点検評価書」はどのように制作されるのか。それは、評価対象の大学の教職員が、評価基準(大学独自の基準を含む)に従って、自らの大学を自ら評価する活動を通して制作している。具体的には、100ページ程度の冊子「自己点検評価書」の形で。従って、評価員は「自己点検評価書」の「中に」、評価対象の大学の教職員によって「既に評価された結果」として、評価対象の大学を発見する。言い換えれば、評価対象としての大学は、「自己点検評価書」を媒介として、評価対象の大学の教職員と評価員の間に「既に評価された結果」として聳え立っているのである。そして、評価員はこの「既に評価された結果」としての大学を評価する、より正確には、「評価結果を改めて評価する」のである。
 以上簡単な分析ではあるが、評価活動という現象の重要な要素は明らかになったと考える。
三、自己点検評価活動の自律化
 認証評価も最初の7年(第1クール)を終え、平成23年に「実施大綱」が改訂され、平成24年から第2クールが開始された。そして、この第2クールにおいても、「大学が自ら行う自己点検・評価の結果を踏まえ、それを土台にして評価する」という評価方法は同じである。しかし、第2クールでは、この大学が行う評価活動はただ単に認証評価のためのみではなく、評価活動の自律的且つ日常的な定着を強く求められるのである。従って、平成23年の「実施大綱」には、「認証評価受審時の自己点検・評価であっても、単に認証評価のためのものではなく、自主的な質保証のための本来的な自己点検・評価の一環として明確に位置付けた」と明記されたのである。言い換えれば、評価活動は、前述の現象の分析からも明らかなように、「先ず以て、評価対象の大学の教職員が、自らの大学を自ら評価する活動を通して、自らの大学像を明確にする」ために必要であり、そのためにも自律的且つ日常的な自己点検評価システムを構築することが重要となるのである。
 平成16年から開始された認証評価は、後に「認証評価のための評価」や「評価疲れ」等の不評を引き起こした。しかし、前述のように、自律的且つ日常的な評価活動を大学の中に「根付かせる」ことによって初めて、「実施大綱」が目指す評価の目的である「各大学の自主的な質保証の充実を支援すること」や「各大学の個性・特色ある教育研究活動等の自律的な展開を支援・促進すること」も真の意味で可能になると考える。
四、ピア・レビューによる知識共有
 次に、評価員は、評価対象の大学の教職員が準拠したのと同じ評価基準に従って、「既に評価された結果」としての大学を改めて評価するのである。このことは、「自己点検評価書」とともに提出される「エビデンス集」に関しても例外ではない。エビデンスも「既に評価されたエビデンス」である。従って、評価員の評価活動は「評価の評価」と表現することもできる。
 ここに、「ピア・レビュー」の重要な役割が見出される。「実施大綱」には、「大学の複雑な教育研究活動等を適切に評価するために、大学の教職員を主体としたピア・レビューを中心とした評価を行います」と記されているが、「複雑な教育研究活動等を適切に評価」するためにのみピア・レビューが必要とされるわけではない。もちろん、ピア・レビューにより、複雑で評価困難なものも評価が可能になる事例もある。しかし、より重要なことは、ピア・レビューにより、評価対象の大学の第一次評価者である教職員と第二次評価者である評価員が評価活動を通して互いに交流(「評価」と「評価の評価」の交流)し、その交流の中から評価活動に関する共通認識を醸成し、知識共有を実現することが可能になる点にある。従って、ピア・レビューは、評価活動を個々の大学の中に、より正確には「大学の教職員」に根付かせ、また「評価員」が全国の高等教育機関に共通知識を伝播する優れた方法なのである。そして、この活動こそが真の意味での「個々の大学の発展を支援する活動」となり、また「日本の高等教育の質保証」にとって最も重要な活動になると考える。
五、アフターケアを含んだ認証評価制度の将来像
 最後に、前述のピア・レビューの深化として、より長期の且つ継続的なアフターケアの必要性が明らかになってくる。既に、平成24年8月「教育学術新聞」への寄稿で私学高等教育研究所の瀧澤博三主幹は、「設置者別評価」の問題と並行して「クローズドな評価システム」に関する検討が必要であると書かれているが、認証評価制度の一層の発展と充実のためにも、今後このような「より長期の且つ継続的なアフターケア」の検討は不可欠であると考える。一つ付け加えるならば、ある一定数の評価員の専門職化の道も今後の検討課題と考える。

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