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アルカディア学報

アルカディア学報(教育学術新聞掲載コラム)

No.531
出生率問題を総括する 合計出生率への期待 (下)

所長  中原 爽(日本私立大学協会常務理事)

 現時点の1億2595万7000人(平成24年)の総人口をそのまま1.41ベースで確保はできない。合計出生率“1.43”(1998年)から、現時点の“1.41”に至る期間は16年を要したが、今後、合計出生率が“2.10”に回復するには、16年は要しないと思えるが予測はできない。
 一定期間増減のない“静止人口”を維持するための一定人口置換水準の指標が“2.10”である。今後、この“2.10”の回復の時点が、何年度の総人口数に合致するかは、これも予測はできない。要するに合計出生率が“2.10”にならない年度の総人口は、人口数が増減のない安定した状態の“静止人口”ではないということである。
 現在まで成熟社会の先進国は、出生率が低下するのは当たり前として、少子化問題が社会構造に及ぼす影響が論ぜられてきたが、少子化に直接向き合っての出生数増加に対する具体的対策が考えられていたのかどうかが問題である。
 本来、子供を“生み〜育てる”ことは連続一体のものである。この度、政策にかかわるアベノミクスの教育施策の一環に義務教育就学前の児童・幼児教育(幼稚園等)の教育経費無償化案が計画されている。公財政教育費支出がOECD最下位の日本の現状に関連して、就学前教育の公財政支出(一人当たり)も、主要5カ国平均4566ドル、日本は2056ドル(文部科学省報告書2009年)の最下位であることを付言するが、この度の就学支援金支給制度は、子供を産んで育てる世代の家計に余裕をもたせる端緒になる直接の少子化対策とみられ、学費のバラマキ給付ではない政策として期待ができるものと考える。
 前述した国民生活の健全な発展に必要なことは、国内企業による“給与等所得環境の安定と雇用の恒常的確保”の維持が基本であり、公共事業体が雇用と所得のすべてを賄うわけではない。不作のデフレ経済と円高状況が進んでいた経済状況下で、企業は製造業生産の採算が取れず、生産継続が困難になり、人件費が相対的に廉価の外国に生産拠点の移転をするグローバル化(このグローバル化は、大学等の高等教育におけるグローバル化とは異なるものである)を進めざるを得ず、結果として国内の生産基盤の生産拠点の閉鎖と雇用が消失し、とくに地方の経済活動減退の空洞化現象が起った。
 国内企業の生き残りには、この海外に生産拠点を移転設置するグローバル化が、企業にとっての適正な選択肢であったとしても、国内全般の経済活性が失われ、マイナスの経済効果を招いたことになった。現在、税制面で有利な海外拠点での企業収益は、企業本社機構の内部留保になっており、この内部留保は2012年秋ごろで実に270兆円に及ぶとされている。こうしたグローバル企業は、デフレ脱却と円高が完全解消されない時点では、海外生産拠点を日本国内に戻す国内回帰の状況にはならない。
 今後、デフレ脱却と“円安”が進んだ状況に応じて、グローバル企業の海外生産拠点の国内回帰が進むのに伴い、内部留保の資産が国内事業の生産拠点再整備と従業員の雇用促進や給与所得に配分され、国内の経済空洞化の解消が期待される段階である。
 日本はGDP(国内総生産)の9割が内需構成で、外需は1割の比率にすぎない内需の国とされる。日本は固有の国内資源に乏しく、資源を輸入に頼る海外依存経済で、輸入価格相当経費を対外収支上、外需相当の製品加工などの貿易輸出で補い続けなければならない状況(輸入依存度14.57、輸出依存度14.02、2011年度)であり、民間企業の輸出入と国内需要・供給の安定した経済維持が必要である。
 これからの新たなイノベーション開発による資源自給を図ることも望まれるが、当面はアベノミクスによる経済復興とデフレギャップ解消に伴い“人口再生産年齢世代”が子供を生んで育てる家計に余裕を生ずる経済改革が恒常的に維持されなければならない。
 デフレ脱却に伴うタイムラグ数年余の期間前後に国公私立大学が行うべき対応は、文部科学省が大学教育改革の支援等のため、新規に予算化をした“地(知)の拠点整備事業(大学COC(Center of Community)事業)”に参画する必要性を本稿513号で述べた。この事業内容と拠点整備事業公募要領の詳細は、すでに文部科学省高等教育局・大学振興課から全国の大学に周知されているので、この場での内容説明は省略する。
 本研究所では、研究プロジェクトタにおいて、この“COC”マネジメントモデルの事例調査を実施することとして、検討中の項目は“訪問調査・調査の目的・候補大学の選定と調査対象大学の絞込み条件・選定大学へのアンケート調査の実施・調査対象私立大学は二四大学程度で調査時期は2013年10月から2014年9月までの予定”としている。この調査研究の結果は、研究所の研究叢書に公表するので“COC”事業の研究に役立つものと考えている。
 デフレ脱却に要するスケジュールの進捗段階の確認は、次のとおりである。@デフレ脱却のため、円貨流通量調整の“リフレーション施策”を実施したこと。Aマイナス・インフレ率の現状のデフレ状態改善のため、世界的合意とされる目標値の“インフレターゲッティング2%”の施策を実施したこと。Bデフレ脱却の財政復興に伴い“人口再生産年齢世代”の安定した雇用と給与所得の確保を目標とすること。C人口置換水準指数2.10の早期回復を図り、総人口の安定した一定数を維持できる“静止人口”の確保を目標とすること。
 以上、デフレ脱却施策の“実施済みと実施目標”の確認をもって“出生率を再考する”ことにかかわる“続編”の総括とする。


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